農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【現地ルポ】福島市(福島県)土壌マップが"道標" 営農継続の原動力2016年10月14日
放射性物質対策も実施
原発事故発生から5年半。JAが中心となって始めた福島市内の土壌分析は1昨年12月で完了し、総点検ほ場数は9万2000ポイントを超えた。放射性物質による土壌汚染マップのデータは未来に向けた指針でもある。JAの役割と今後の課題などをJAふくしま未来の福島地区本部の今野文治農業振興課長兼危機管理センター長に聞いた。
原発事故発生から間もない平成23年3月末、行政から葉物野菜を中心にした出荷自粛要請が続くなか、今後の営農に向けて「農家は耕作を続けることが大事。販売はJAが担う」と生産者3000人に呼びかけたのは当時のJA新ふくしま組合長の吾妻雄二だった。
今回の対談でも強調されているが、生産を続けながら問題が出れば改善を続けていこうという強い意志を示したことで、結果的に地域での営農を継続することができた。
1年後にモニタリングセンターが整備され収穫した農産物は、出荷の際、JAが安全検査をするから一筆ごとに1kg粉砕サンプルを提出するよう組合員に求めたが、誰からも異論はなかった。「農協へのこの結集力はすごい。農家と一緒になって乗り切っていけると感じました」と今野課長は振り返る。
一方、当時同JA専務で現組合長の菅野孝志は県内の学識経験者、農林業関係者らとチェルノブイリを視察し、除染や作物転換などの対策を立てるには、一筆一筆を把握する土壌汚染マップづくりが必要との認識に立っていた。基礎データがなければ農家に汚染対策も示せない。当時の情報を残すことは将来への提言にもなると考えた。
24年4月から始まった土壌分析には全国の生協職員のボランティアが参加した。調査は福島市内と川俣町の農地で水田は2万4480筆で計測ポイントは6万3677ポイントとなった。果樹園は1万158筆で2万7308ポイント、大豆畑は566ほ場、1465ポイントで計測した。
一方、出荷される農産物のモニタリング調査もJAで取り組んできた。24年から年間3万点程度を検査し4年間で11万点を検査している。米の全袋検査については平成24年は31万4555袋で50ベクレル/キロ超が0.29%、基準値となる100ベクレル/キロ超過が0.01%あった。
それが26年には33万8674袋で50ベクレル超過は0.0009%、100ベクレル超過は0.0%となった。
対策はゼオライトやカリの施用。水田約2300ha、畑約1200haに散布している。この散布は現在も農家と連携して実施している。
こうした取り組みのなかで汚染土壌マップの意味も明確になってきたという。対策によって農産物の放射性物資検査ですべてが「ND」(検出限界以下)の結果となったが、どの作物がどのほ場で栽培されたかが汚染土壌マップとの連動で分かる。さらにそこでどんな対策が取られたかのデータも重ね合わせれば、具体的にどうすれば安全性が裏づけられるのかも見えてくる。
「あきらめないで作ろうという、農家との信頼関係が継続した」。
今野課長が強調するのはJAが出荷前の農産物を検査するのは、単に食品の安全確保なのではなく生産継続のためだということ。かりに問題が見つかれば農家に説明し対策を指導するのがJAとしての大きな役割で、土壌マップづくりと出荷前検査はまさに産地復興をかけた取り組みだ。
しかし、当時は"毒を売ってお金儲けするのか"と心ない避難の声が寄せられたという。また、基準値以上の結果が出たことが判明したのが深夜3時で事務所に駆けつけ対応に追われたことも。
JAでは「農家を加害者にしてはなんねえぞ」と繰り返し、繰り返し強調されていた。考えてみれば、そもそも農家だって被害者なのである。
この5年半の間、生産現場は、営農指導のなかに放射性物質対策が組み込まれたのが現実だという。これを継続して実施していくことが大事になっているが、農家だけではできず、だからこそ常に顔を合わせる営農指導員が大事になっている。
一方、集落では鳥獣害も深刻になり、高齢化と原発事故が拍車をかけた離農で、村の共同作業も困難になってきたという現実がある。これらをふまえて集落をどう維持していくが問われている。
そういうなか、今回の事故対応への経験のなかで「JA職員は頼りされていることも感じた」。今こそ、このつながりを改めて活かし、「JA職員が集落にまで入っていって地域とともに向き合い、そして一緒に未来を見ることが求められていると思います」と今野課長は話す。
原発事故と向き合うなかで見えてきたのは「地域にとって必要でなければ農協はいらない」である。
(写真)生産を継続するために土壌マップをつくった、原発事故と向き合うなかで「農協」が信頼された
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