農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
【北海道十勝農協連】小さな農協の大きな挑戦日本一の"農業王国"(2)2018年8月20日
・「開拓精神」連綿と
・「Madein十勝」の旗世界へ
日本の食料基地である北海道のなかでも、十勝地区はその中核的な役割を果たしており、食料自給率は北海道の191%に対して1100%で、一地域として全国トップクラス。それを支えているのが、管内の24の農協で構成する十勝農業協同組合連合会(十勝農協連)と、「JAネットワーク十勝」である。会員農協の農畜産物販売額は約3000億円。24農協合わせても組合員数5000人余り。平均200人ほどの“小規模”農協がそれぞれの独自性を発揮しながら、個々のJAではできないことを協同する“連邦共和制”ともいえる運営方法によって、小さな農協が日本一の“農業王国”を築き、発展させている。
(写真)8月初めに小麦の収穫が終わった(JA帯広かわにし提供)
◆十勝独自の基準作り
こうした十勝農協連の事業を進める上で重要な役割を果たしている組織に「JAネットワーク十勝」がある。十勝地区農協組合長会、組合長の代表で構成する役員会議、常務参事で構成するJA経営会議のほか、専門委員会、ワーキンググループなどで構成される。その目的は、(1)JAの財務状況を公正に評価する基準づくりとその実践によって、管内農協の財務体質を強化する、(2)管内JAの組織力結集によりスケールメリットを生かした協同事業を行ない、十勝農業の生産性向上とコスト低減に努めるとともに、JA事業の効率化を図る、(3)以上により、組合員の営農と生活の向上を支援する組織活動を強化し、さらには十勝1JAの意識統一のための基盤づくりなどを行なう、としている。
具体的にはJAの財務基盤強化のため、(1)JA財務の十勝独自目標の設定、(2)JA財務の公正な評価、(3)JA財務の調査、是正勧告、(4)JA間協同事業の企画、推進などを行う。つまり、それぞれ規模と営農形態の異なる十勝の24農協が足並みを揃えて、これからの環境変化に対応しようというものだ。これによって財務是正した農協もある。
◆得意な分野生かして
JAネットワーク十勝は農協合併に対する基本姿勢も示している。(1)JA合併は、あくまでもJA事業の伸長とコスト低減を図り、組合員メリット増大を実現するための「手段」であって、「目的」ではない、(2)従って、JAネットワーク十勝は「合併ありき」ではなく、ネットワーク事業を一つひとつ積み重ねる中から十勝1JAへの意識統一を進めることを基本とする、(3)つまり、全JAの財務基盤が健全な水準に達し、さらにはJA間協同事業で規模の有利性が具体的に発揮されることによって大同団結の意識が高まり、その結果、JA事業の一層のレベルアップという明確な目標の下で十勝1JAに移行することを最も理想とする、(4)ただし、部分的な合併が必要と判断される場合は先行して実施されることもありえる、としている。
(上の表をクリックするとPDFファイルが開きます。)
◆規模の大小関係なく
この姿勢に、農家の営農を優先する十勝の農協のあり方がよく現れている。十勝農協連の山本勝博会長(JA中札内村組合長)は、「本州で進んでいる農協合併は、財務状況の悪化、後継者不足などで将来が危ないという危機感が背景にあるが、十勝の24の農協にはその不安はない。各JAとも利益を出し、剰余金も確保するなど財務状態もよく、合併しなければならない理由がない。従って管内のJAで合併の議論はない。そもそも事業のなかで酪農が80%、畑作80%を占めるような農協同士が合併して、どのようなメリットが期待できるのか。それぞれ得意の分野をいかして連合しているのが十勝の農協の特徴だ」という。
それぞれ得意の分野を生かすという姿勢は、産地づくりにもよく現れている。JA中札内村は「中札内のえだ豆」で知られるが、約100ha分は隣接するJA帯広かわにしで生産した枝豆をJA中札内村の工場で加工調整して出荷している。一方、「十勝かわにし長いも」は土壌、気象条件が同じJAめむろでも生産し、JAめむろは他の農協のゴボウ、ダイコンを扱うというように、それぞれ機能を分担している。これによって無駄な施設投資を防ぐことができる。
こうした十勝の農協の考えは2017年に定めた「十勝農業ビジョン」のなかにも色濃く反映されている。このビジョンは十勝農協連とJAネットワーク十勝がめざす十勝の農業・農協のあり方を示したもので、基本姿勢として、「十勝の肥沃な大地と家畜が生み出す安全安心で美味しい農畜産物の安定供給に努めるとともに、十勝広域ブランドの確立をめざす」、「JAネットワーク十勝の事業を通じた組織間連携の一層の強化をはかる」、「基幹産業として十勝の経済と生活を支え、豊かで潤いのある循環型農業と地域社会の発展をめざす」など、「十勝の農業」を高らかにうたっている(=表)。ここには"十勝イズム"ともいえる自主自立の精神がある。
(写真)十勝農協連の山本勝博会長
(関連記事)
・「5ポリス構想」を実現【今村奈良臣・東京大学名誉教授】
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日