農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
第1回 食糧を農産物貿易に依存する危うさ【普天間朝重JAおきなわ代表理事専務】2018年9月26日
JAcomでは、「食料自給率38%どうする?この国のかたち」をテーマに日本の食料安全保障問題について、さまざまな角度から掘り下げる特集企画を連載している。今回は日本の食料生産基地である農業地域を支えている農業協同組合の立場から、この問題を、普天間朝重JAおきなわ代表理事専務に執筆していただいた。第1回目の今回は、食料を貿易に依存することの危うさ脆さについてを掲載する。そして次回は、農村ですら食料がなく野生の蘇鉄を食べた「ソテツ地獄」を振り返る。そして最終回では離島から中山間地までくまなくカバーする日本の農協の果たす役割について提言しているので、ぜひ3回(3日)にわけて読みやすくなっている全文を読んでいただきたい。
◆世界の農産物貿易高まる危うさ
今ほど貿易の危うさを実感するときはないだろう。
米国でトランプ大統領が誕生して以降、米国第一主義が徹底され、今や米中貿易戦争にまで発展している。米国では足元のNAFTA(北米自由貿易協定)でもトランプ大統領の暴走が際立っており、米国に有利に働くような見直しが進められた。そして今、我が国にも圧力をかけている。
こうした中で我が国の食料自給率は目標の45%達成どころか、今や過去2番目の低さの38%まで低下している。食料を海外に依存することの危うさは歴史が示しており、過去から得られる教訓は未来に生かさなければならない。
そこで改めて食料自給率の重要性を考えるために、現場で起きていることを検証しつつ、我が国の食料の安全を保障するにあたってJAがどういう役割を果たさなければならないのかを考察することとする。
◆各地で激化する食料の奪い合い
食料危機を引き起こす要因は何か。(1)輸出国の不作や病原菌の発生などに伴う輸出の制限・禁輸、(2)中国やインドなど人口の多い新興国の経済発展に伴う食糧需要の増大、(3)穀物のバイオエタノールなどの資源エネルギーへの転換、などがあげられる。こうしたことはすでに現実に起きていることであり、その都度農産物の貿易の脆弱性を認識させられてきた(はずだ)。
(1)については、米国でBSE(狂牛病)が発生すると米国からの輸出が禁止され、日本で口蹄疫が発生すると日本からの輸出がストップするという具合だ。東日本大震災での福島原発事故の風評被害などもその類だろう。事例を挙げればきりがないほどであり、歴史的に繰り返されてきた問題だ。
(2)については、今後ますます脅威となる問題だ。特に中国ではすでに農産物の輸入大国になっており、牛肉などでは日本の特定部位輸入に対して牛を丸ごと買う1頭買いの手法によって大量の輸入を可能にしており、日本は買い負けている状態にある。食糧の争奪戦はすでに始まっているとみた方がいい。
振興国の食糧需要増大は肥料などの生産資材の需要増大に結び付き、我が国の資材価格の上昇をも招いた。「食糧は算術級数的にしか増加しないが、人口は幾何級数的に増加するために、過剰人口による社会的貧困と悪徳が必然的に発生する」と指摘したのはイギリスの経済学者のマルサスだが、200年以上も前の指摘が今も生きている。
(3)については、米国で政策的にバイオエタノールを推進するとの発表によってトウモロコシ価格が高騰し、ハイチやメキシコなどトウモロコシを主食とする国では暴動にまで発展する事態が起きた。トウモロコシ価格の高騰はそれを主成分とする飼料価格も押し上げたことから、我が国の畜産業の大きなコストアップ要因となった。
◆自国優先は当然輸出大国の理屈
また、2007~08年には世界的な気象条件の悪化による不作で食糧輸出規制の動きが顕著になった。07年から08年にかけてロシア、ウクライナ、カザフスタン、セルビア、アルゼンチンなどが小麦の輸出を禁止、さらにカンボジア、ベトナム、インドネシアなどがコメの輸出を禁止して穀物価格が高騰した。08年にイタリアのローマで開催された「食糧サミット」でこうした世界的な穀物価格高騰への対応を協議する中で、日本の総理大臣が穀物輸出国に対して輸出規制を自粛するよう要請したが、輸出国からは「自国民の食料を守ることは当然のことであり、自国の食料確保を優先する」と反論され、日本の要請はあえなく一蹴された。食料とはそういうものだ。
TPP11や日欧EPAなど我が国は農産物の輸入自由化を加速しつつあり、それがあたかも農産物価格の低下を促すような印象を持たれているが、果たしてそうだろうか。大方そうではあっても過去を振り返ってみると農産物という供給に不安定な商品ゆえに逆に高騰することもあり得るというリスクを常に念頭に入れなければならないだろう。
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