農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
第3回 農協がエンジンとなり車輪となって農業を振興【普天間朝重JAおきなわ代表理事専務】2018年9月28日
JAcomでは、「食料自給率38%どうする?この国のかたち」をテーマに日本の食料安全保障問題について、さまざまな角度から掘り下げる特集企画を連載している。今回は日本の食料生産基地である農業地域を支えている農業協同組合の立場から、この問題を、普天間朝重JAおきなわ代表理事専務に執筆していただいた。本日、最終回では離島から中山間地までくまなくカバーする日本の農協の果たす役割について提言しています。一昨日から3回(3日)にわけて読みやすくなっている全文を読んでいただきたい。
◆米国依存を脱却英国の農業振興
農産物とはかくも不安定なものであり、それを輸入に依存するような政策は国家の存亡を危うくする。食料自給の方策を誤ると国民に大変な苦痛を与えることになりかねないことを認識すべきであり、TPP11や日欧EPAにおいても農産物輸入にあたっては慎重に対応しなければならない。ましてや現在アメリカは日本の対米貿易黒字を問題視しており、日本に対して農産物の輸入拡大を押し付けかねないが、日本がそうした要求を呑もうものなら首に縄をつけて踏み台を思い切り蹴飛ばすようなものだ。蘇鉄地獄は二度とあってはならない。
自給率100%とまではいかなくともせめて50%以上は確保したい。現在の国の目標は45%であり、その実現も危ぶまれている中で50%というと過大な目標と思えるかもしれないが、不可能ではない。その良い例がイギリスである。
第2次世界大戦後に食料不足に陥ったイギリスは、米国から食糧援助を受けていた。その時の食料自給率は42%。しかし、イギリスはその後、米国依存からの脱却を図るため農業復興へと政策を大転換した。
まず農家1戸当たりの農地面積を増やすことから始め、1960年には32haだったものが、2007年には倍以上の66haにまで拡大し、併せて主要品目の小麦の品種改良や肥料の効率性向上に取り組んだ結果、自給率は03年に70%まで回復している。この間日本の自給率は79%から40%まで低下している。食料自給率に対する考え方や政策によっては結果が真逆になることの証明である。
(写真)ララの山羊(昭和21年)昭和21年米国の社会救済団体が優良種の山羊を
船で届けてくれたのが畜産復興のはじまり。ララの山羊として非常に感謝された。(「写真に見る沖縄戦後史」より)
※クリックすると大きな写真が表示されます。
◆多様な担い手を全国民が支える
我が国の場合は、全国一律の政策ではできないだろう。全国的にはかなりの面積の中山間地域があり、沖縄の場合は多くの離島を抱える。基幹作物であるさとうきびは全県で生産量が約80万tだが、このうち本島は15万tに過ぎない。65万tは離島で生産されている。
畜産においても子牛の生産が全国4位であるが、多くが離島である。そうした離島にJAでは製糖工場や家畜市場を運営し、離島農業を支えているが、離島における事業は収支面で厳しく、地元行政も財源に乏しいことから県や国の積極的な関与が必要である。「都市農業振興基本法」(2015年4月16日制定)があるなら「離島農業振興基本法」もあっていい。
食料自給率向上のためには、イギリスのように農家の大規模化を図るのもひとつの手ではあるかもしれないが、我が国では地理的特殊性から多くの小規模零細農家も多様な担い手として国民全体で支えていくことが大事ではないか。地域を支えるにはJAと行政が「車の両輪」として機能を最大限発揮すべきだが、准組合員利用規制問題や信用事業の代理店化など、むしろJA組織の弱体化を進めているように見える。片方の車輪がパンクしては車は前に進めない。
◆異常気象が多発今こそ食料安保
最近の異常気象は脅威である。猛烈な台風22号がフィリピンを直撃し、アメリカでも大型ハリケーンが上陸。日本でも西日本豪雨や台風21号の直撃、北海道地震などが連続的に起き、甚大な被害をもたらした。まるでパンドラの箱が開けられたようだ。今こそ食料安全保障を真剣に考える時だ。この世のすべての災いが飛び出していった後のパンドラの箱に最後に残されていたもの、それは「希望」だった。
今年度は各都道府県や全国において3年に一度のJA大会が開催される。そこから「希望」が見いだせるに違いない。
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