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農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

世界穀物戦略 食糧・水危機に備えよ(2)【柴田明夫・(株)資源・食糧問題研究所代表】2018年10月29日

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◆水の制約が強まる

 水の制約も心配だ。国連の推計によれば、世界の水使用量が年間1000立法kmに達したのは1930年である。言わば、数千年をかけて水需要は年間1000立法kmに達したわけだが、その後、水需要がその倍の同2,000立法kmに達したのが30年後の1960年。1980年には同3000立法km、2000年に4000立法kmに拡大。国連は2018年の世界水発展報告で、水需要は現在の4600立法kmから2050年には5500~6000立法kmにまで拡大し、2025年頃には世界人口の半数が水不足に陥る可能性があると予測している。背景には、世界人口(水利用者)の増加、経済成長に伴う1人当り水使用量(生活用水)、工業用水、農業の生産増加に伴う灌漑用水利用の増加がある。
 ちなみに、現在の世界の水需要4600立法kmの70%は農業(主に灌漑用水)向け、20%は産業(75%はエネルギー産業、25%が製造業)向け、10%が生活用水向けだ。今後20年間、工業および生活用水の需要は、農業用水需要を上回るペースで拡大するものの、農業用水向けは依然として最大の水需要分野であることには変わりがない。作物にもよるが、通常1tの穀物を生産するためには1000~2000tの水が必要なためだ。
 この一方、利用可能な水資源は減少している。世界の水不足問題はアジア地域においてより先鋭化する可能性が高い。アジアには、世界人口の6割が集中するのに対し、利用可能な淡水のシェアは3割弱に過ぎないためだ。1立法mの水の重量は約1tと重いが、その価格は30~40円と安い。水資源は、市場経済の下では余った国・地域から不足の国・地域へと運ぶことはできない「極めて地域限定的な資源」なのだ。このため、食糧不足の国・地域は、水を輸入する代わりに食糧のかたちで輸入する。この食糧輸入はバーチャルウォーター(仮想水)の貿易と呼ばれる。

【図3】世界の穀物貿易量および貿易比率(米農務省2018.10.11)(図3:USDAより筆者作成。上のグラフをクリックすると大きなグラフが表示されます。)

 

 世界の穀物貿易量は、1980年代から1990年代まで年間約2億t強で推移してきた。しかし、2000年代に入って急速に拡大し足元では4億t台へと倍増している。原油の価格が高騰し、地球温暖化が進めば、海運コストの上昇やCO2排出削減義務化などグローバルな食糧の貿易そのものが成り立たなくなる。食糧生産は、グローバルな展開から地産地消のローカルな取引が不可欠となってくる。ちなみに、世界の水制約が強まる中、日本は年間約3,000万tの食料輸入の形で、国内の農業用水需要を上回る600億t強のバーチャルウォーターを輸入している。(図3

 

◆国家食糧戦略を強める中国

図4 世界穀物消費量と在庫量・比率(18/19年度末)予測 単位100万t

(図4)

 

 将来の食糧危機に備えて、国家食糧戦略を打ち出しているのが中国だ。2018/19年度末(2019年6月末)の世界の穀物在庫量に対する中国の在庫量およびその比率は、小麦で52.1%、トウモロコシ37.3%、大豆19.2%、コメ65.9%となる見通しだ。主要4作物の在庫量を足し合わせると6億7098万tとなるのに対し、中国の合計は3億1049万tで、世界在庫全体の46.2%を占める。大豆の同比率は19.2%と低いものの、世界の大豆貿易量(1億5690万t)の約6割を中国の輸入が占めている。
 一方、世界の穀物消費量に対して、中国を除いた世界の穀物在庫量および期末在庫率は、小麦が20.1%、トウモロコシ11.6%、大豆33.6%、コメ17.0%に止まっている(図4)。特に、小麦の在庫率20.1%というのは、2007/08年度末の17%台以来、11年ぶりの低水準である。また、トウモロコシの在庫率11.6%というのも、いったん何事かあれば忽ち逼迫感の生じる水準であることを指摘しておきたい。
 米中貿易戦争を契機に、中国のブラジル産大豆への輸入シフトが鮮明になっている。中国の大豆消費量が急増するなか、国内の生産量では賄い切れず、世界有数の大豆輸出国ブラジルに頼らざるを得ない状況になっている。料理用の油から家畜の飼料まで、あらゆる用途に大豆が使われており、旺盛な国内需要に応える必要があるためだ。すでに、中国の中国糧油公司(COFCO)傘下の中糧国際は、マトグロッソ州の農家からの直接買い付けを増やしているのみならず、穀物倉庫といった物流関連施設へ積極投資するなど、ブラジル産大豆の安定確保に向けた動きを強めている。
 中糧国際は、数百年の歴史を持つ世界の穀物メジャーを尻目に、わずか数年の間にブラジルの大豆市場で勢力を伸ばしてきた。ブラジルの運送会社ウィリアムズによると、中糧国際が2017年に同国から輸出した大豆は約700万tと、16年の約240万tから3倍近くに拡大。同社の取り扱いシェアは、世界の農産物貿易の大半を占める欧米系穀物メジャー(ADM、ブンゲ、カーギル、ルイ・ドレフェス)の4社に肩を並べるまでになっている。中糧国際の戦略は、農家と消費者の間に複数の商社が中間業者として介在していた既存のサプライチェーンを一変させるものであり、歴史的な穀物価格の低迷に直面する穀物メジャーの牙城を崩すことにもなりそうだ。

 

(本特集の記事一覧)
特集「自給率38% どうするのか? この国のかたち-食料安全保障と農業協同組合の役割」

 

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