農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第3回 作物病害の伝染方式と防除2019年4月26日
作物の病害防除は病原を作物に近づけさせないことが第一歩。病原の伝染方法に合わせて防除対策を組むと効率の良い防除ができる。今回は、伝染方式それぞれの特徴と主な対策について整理した。
(1)空気伝染の場合
これは、そのほとんどが糸状菌の胞子の飛散に伴う伝染方式。糸状菌の多くは、胞子と呼ばれる植物でいうところの種のようなものをたくさん作って飛散させる。この時、風など空気の流れによって飛散させるのが空気伝染だ。代表的な病害では、野菜に多く発生するうどんこ病や灰色かび病、イネいもち病などが挙げられる。いずれも作物上の病斑上に大量の胞子を作り、それを飛散させて病勢が拡大する。
胞子は非常に小さく、ハウスなどの網目や開口部を容易に通過するため、物理的に空気伝染を防ぐのは不可能。病原菌の発芽や作物への侵入に適した環境条件に注意し、そうした環境となる前後に、殺菌剤の予防的な散布を確実に実施するしかない。
もし、病斑が見つかった場合は、病斑のついた葉等を胞子が飛散しないように注意しながら圃場外に出して処分し、状況に応じて治療効果のある薬剤の散布を検討する必要がある。病斑上には大量の胞子が作られており、病斑が見つかった時には既にかなりの数の胞子が飛散している可能性が高い。
(2)水媒伝染
糸状菌の胞子やべん毛菌類の遊走子、細菌が雨水などの水の流れに沿って伝染するのが水媒伝染。代表的な病害は、べと病や疫病が知られている。また、同じく水媒伝染するイチゴ炭疽病、ナシ黒星病、ブドウ黒とう病などは、主として雨水によって伝染するため雨媒伝染性病害とも呼ばれている。
この雨媒伝染の場合は、雨除け被覆をするとかなり防げるが、広大な樹園地など雨除けが難しい場合は、伝染源を早期に発見して取り除き圃場外に出す。同時に、雨期の前後に徹底した予防散布を行う必要がある。
べと病や疫病といったべん毛菌類の遊走子は、べん毛と呼ばれる運動器官をもっており、過湿条件下で水が存在する中を泳ぎ回って作物に付着して伝染する。
こうした水が介在して感染する病害は、圃場の風通しを良くし、湿度をできるだけ下げるようにするとかなり防げる。また、畦内マルチや敷き藁なども発病を抑える効果があるので、予防散布の徹底とともに実行したい。
ハクサイ軟腐病など細菌のほとんどは土壌中に潜んでおり、灌水や雨による泥はねによって、作物の自然開口部や傷口から侵入する。そのため、泥はねをしないようマルチや敷き藁をするか、泥跳ねをしないような灌水方法を選ぶようにしたい。
また、細菌は一旦侵入すると増殖が速く、防ぐことが難しくなるため、毎年発生する圃場では、銅剤など効果のある薬剤を発生時期の前の予防散布するように心がけたい。
(3)土壌伝染
厚膜胞子や休眠胞子、菌核、残渣中の菌糸・ウイルスなど、何らかの病原体が作物の根や地際部から侵入して伝染する土壌伝染。その代表的な病害は、アブラナ科根こぶ病(糸状菌)、トマト青枯病(細菌)、果樹白紋羽病(糸状菌)などがある。
土壌に潜んでいる菌が原因であるため、土壌消毒で菌を全て死滅させることができれば理論上防ぐことができる。しかし、多くの菌が地下50センチ以上も下に潜んでいたり、耐久体を作り5~6年も生き残ることもあり、土壌消毒だけでは防ぎきれないのが土壌伝染性病害対策の難しいところ。このため、耕種的防除法(輪作、抵抗性品種の導入、天敵利用など)と土壌消毒や接触型土壌処理剤との組み合わせで、少しでも病原菌の密度を下げるよう複数の対策を講じるのが一般的だ。
例えば、アブラナ科野菜の根こぶ病は、酸性土壌と湿度を好む病原菌で、高畝や暗渠による土壌排水対策や石灰散布による土壌のアルカリ矯正を組み合わせることで、発生量をかなり減らすことができる。
(4)種子伝染
次世代の種子や種芋、球根が作られる際に、病原菌がそれぞれの表面や内部に潜伏し、次世代に伝染していくのが種子伝染。その代表的な病害は、イネばか苗病(糸状菌)、イネ苗立枯細菌病(細菌)などがある。
防除対策としては、種子生産圃で病害防除を徹底し、健全な種子をつくることが何より重要で、必須条件だ。次に、育苗前の塩水選による健全種子の選別や種子消毒を徹底してほしい。種子消毒については、種子消毒の使用や温湯消毒、乾熱消毒などがあるため、それぞれの用途に応じた正しい使い方で確実に行うように心がけたい。
(5)媒介生物による伝染
ウンカやアブラムシ、コナジラミといった害虫やダニ、土壌線虫や菌類などが媒介者(ベクター)となって病原が運ばれ、伝染する。代表的な病害には、イネ縞葉枯病やモザイク病、トマト黄化えそ病といった多くのウイルス病が含まれる。
防除対策としては、媒介者の除去が第一である。つまり、ウンカやアブラムシをきっちり防除して、作物への吸汁行動が起こらないようにすることである。ハウス等であれば、防虫網を張って害虫の侵入を阻止することも有効。ただ、それにも限界があるため、病害抵抗性品種の作付けや被害残渣の蒸し込み処理など耕種的防除と併用して行われることが多い。また、圃場近隣に媒介生物の住処となるような雑草の除去も合わせて行うとよい。
(6)農業機械・資材からの伝染
意外に盲点なのが、農業機械・資材からの伝染。育苗資材などに付着した病原菌や被害残渣を消毒せずに次期作で使用すると、病害の発生源になることがある。吊り下げワイヤーや支柱などに被害残渣などが残っているとそこが発生源となることがある。
さらに、土壌病害の発生した土壌を耕耘したトラクターに汚染土を付着させたまま圃場に入って作業してしまうと、発病圃場の拡大を招くことがある。
このように、病害が発生した場合は、その病害がどのような伝染経路を持つかによって、使用した資材や農機具からの伝染拡大もあり得ることを肝に銘じておかなければならない。
(7)人の農作業による伝染
作物を育てることと栽培管理は切っても切れないが、特に園芸作物では芽かきや葉かきなど誘引で作物に傷をつけてしまう作業がある。病害に感染した樹を作業した後に同じ手で健全な作物を管理すると汁液などを介してウイルス病が伝染する。このような場合は、手指の消毒は当然だが、病害が発生した株は速やかに隔離・除去するなどの措置が重要だ。
また、空気伝染性の病害は、作業着などに胞子が付着して感染が拡大することもあるため、病害が発生した圃場に入った後に圃場間を移動する際は、衣服を着替えるなど十分に注意したい。
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