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農薬:防除学習帖

【防除学習帖】第5回 病害の防除方法2019年5月24日

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 農作物の豊かな収穫に害を為す病害を防ぐのが病害防除。その方法は、原因ごとに異なるため、まずは原因の見極めが重要であることを前回までに記した。では、具体的にはどのような防除方法があるのか、何回かに分けて紹介する。

1. 病害防除の基本的な考え方

 病害は、作物、病原、環境条件の3つの要素が揃ってはじめて起こり、その要素ごとに対策が異なる。

作物:抵抗性品種を選んだり、健康な作物体を育成する栽培をして、作物自体を病害に罹りにくい体質にしてやることだ。

病原:病原が微生物などの病原体であれば、病原体の殺滅・抑制、除去するための対策を取り、生育障害であれば、障害の原因を取り除く対策を取る。

環境条件:温度や湿度、光、土壌pHなどを調節して病害が出にくい環境を整えるようにする。

 現在、防除法としては、化学農薬を使用する「化学的防除」と「耕種的防除」の2つがある。
 一般的に、耕種的防除を化学的防除以外のものとすることが多い。しかし、耕種的防除の中でも手法が大きく異なることがあるため、本稿では、各種資材や熱源などを使う「物理的防除」、生物農薬などを使う「生物的防除」、主に品種や栽培技術で対応する「耕種的防除」と分類した。
 これらのどの方法を取ってもそれなりに効果があるが、通常は単独よりも複数の対策を行う方がより効率の良い防除ができる。
 例えば、殺菌剤を使う場合も病原菌の数が少ない方が効きも良くなるため、まずは圃場の環境条件を整えて病原菌が少なくなるようにしておけば、少ない防除回数で高い効果が得られることが多い。
 このように、実行できる複数の防除法を使って防除を組み立てることを総合防除・総合的病害虫管理(IPM:Integrated Pest Management)と呼んでいる。
 これらの防除法を次表に整理したので、おおまかな分類をご理解頂きたい。
 以降、防除法ごとにその特性や上手な使用方法を整理した。

 

2. 化学的防除とは

 いうまでもなく農薬を使用した防除法のことであり、最も広く使われる防除法。主に病原菌に作用して防除することから、病害に使われる農薬を殺菌剤と呼んでいる。

 

3. 殺菌剤とは

 殺菌剤とは、文字どおり菌を殺す農薬であり、もっぱら病原菌に作用して病原菌を殺滅する。殺菌剤の歴史は古く、約170年前に使われた硫黄が最初。次いで約140年前に銅を成分とするボルドー液が登場した。硫黄も銅も多くの病原菌に効果を示す汎用性の高い農薬であり、現在も多く使用され、農業生産に貢献し続けている。
 近年では、より効果の切れ味が良いものや、安全性が高いもの、硫黄や銅では望めなかった治療効果など新たな特性を付加した殺菌剤が次々と登場している。
 ところが、近代の農薬は、病原菌への作用点が1つのものも多く、その作用点が変異した耐性菌(殺菌剤が効かない菌)の発生するケースも増えている。このため、殺菌剤を選ぶ際には、この耐性菌の発生も考慮しなければならなくなっている。

 

4. 殺菌剤を選ぶ際に考慮すべきこと

 病害防除で殺菌剤を使用する場合に、留意すべきポイントを以下にまとめた。

 

(1)農薬登録の確認
 殺菌剤に限ったことではないが、農薬は農薬登録されたものを記載された使用方法で正しく使うことで安全に高い効果を得ることができる。そのため、まずは防除対象の作物に登録がある殺菌剤を選ぶ。

 

防除学習帖第5回 表1 

(2)どんな病害に効果があるか

 防除対象の作物に登録があるのを確認したら、次はどんな病害に効果があるか確認しよう。
 殺菌剤には、1つの作物の複数の病害に登録を持っているものがある。また、作物に複数の病害が同時に発生することがあるので、1回の散布で複数の病害を防除できればより効率が良く、散布回数の軽減にも役立つ可能性があるからだ。

 

(3)使用方法の確認

 農薬には必ず、○○倍に希釈するとか、どんな散布方法をするのかなど使用方法が記載されている。事前に、散布者が使う散布機械等で散布できるものであることを確認する。

 

(4)収穫前使用日数の確認

 農薬には収穫前使用日数が決められており、使用する作物の収穫前のいつまで使用できるのかを必ず確認したい。例えば、毎日収穫するキュウリやトマトなどの果菜類では、収穫前日まで使用できる農薬を選ぶようにする。 果菜類で、収穫3日前までしか使えない農薬を散布した場合、散布後3日間は収穫作業ができなくなり、規格外が増えるなどの影響が出てしまう。

 

(5)予防効果か治療効果かの確認

 病害が発生する前に作物全体に万遍なく散布しておいて病原菌を迎え撃つのを「予防的防除」といい、病原菌が作物に侵入するのを防ぐ作用を「予防効果」という。
 予防効果の高い殺菌剤とは、作物表面に殺菌剤の層を作って長い期間作物を守り、雨にも流されにくい性質を持っている。 予防効果主体殺菌剤の代表は、マンゼブ(商品名:ジマンダイセン、ペンコゼブ)などのジチオカーバメート系殺菌剤や、TPN(ダコニール)といった銅を有効成分とする殺菌剤だ。
 ついでに、残効(効果の持続期間のこと)がどのくらいあるかも確認しておくとよい。
 一方、治療的防除とは、作物体内にすでに侵入してしまっている病原菌の殺滅を目的に行うことで、そのような作用を治療効果という。
 治療効果を持つ殺菌剤は、作物に散布されたあと、作物の葉や茎から作物体内に浸透していく性能を持っているため、すでに中にいる病原菌に作用する。
 ただし、作物の殺菌剤による治療効果は、人間の皮膚の傷が癒されるようなものとは異なる。一度できた病斑は活動を停止し、それ以上大きくならない。また、病斑上に胞子などの繁殖器官を作らなくなった状態であり、病斑が癒えてきれいになくなることでは無いことを理解しておいてほしい。
 また、この作物の体内へ浸透していく性能は、葉の表から葉の裏くらいまでの短い距離を移行できるものを浸達性、葉から、茎、他の葉など作物の各部分にまで移行できるものを浸透移行性と呼んで区別している。より深い部分の病原菌に作用するには浸達性を持っていても治療効果が十分でない場合がある。
 近年販売されている殺菌剤の多くはこの浸透移行性や浸達性を持っているものが多いが、その殺菌剤の病原菌への作用点によっては、浸透移行性を持っていても治療効果を発揮できない場合がある。治療効果の有無に関しては、農薬製品のラベルや技術資料をよく読んで確かめてほしい。

 病害防除の基本は、予防散布である。予防効果主体の残効(効果の持続期間のこと)が長い殺菌剤を定期的に使えば、防除回数を減らすことができるし、治療効果のある殺菌剤であっても、予防的に散布された方が効果も安定するからである。
 もっといえば、治療効果のある殺菌剤であっても、発生初期のまだ拡がりが少ない時に確実に使うようにしてほしい。
 いくら治療効果があっても病勢が進んだ後ではどうしても取りこぼしのリスクがあるし、耐性菌の発生を助長してしまう恐れがあるからである。
 このように、予防効果または治療効果があるのかは、効率よく使用する時期を見定めるために、確実に確認する必要がある。

 

(6)薬害の有無の確認

 殺菌剤によっては、作物の代謝に影響を与え、作物に葉の黄変や葉枯れなどの薬害症状を起こすことがある。このような殺菌剤の場合、農薬ラベルの注意事項に、「高温での散布に注意」だとか薬害の発生しやすい条件が書いてある。必ず確認して注意事項を守って散布することを心がけたい。
 
 次回に続く(殺菌剤の種類、物理的防除 他)

 

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】現場で役立つ知識を提供

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