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農薬:防除学習帖

【防除学習帖】第9回 病害の防除方法(耕種的防除)2019年6月21日

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1.前回のおさらい
 前回までに、化学的防除、物理的防除、生物的防除について紹介した。今回は、防除の基本である耕種的防除を紹介する。
 耕種的防除は、主として病害が発生しにくい環境をつくることを目的に行われ、病原菌の密度を抑える効果もあり、化学的防除や物理的防除と組み合わせることで、より防除効果が安定する。このように幾つかの防除法を組み合わせて行うことを総合防除(IPM)と呼んでいる。

2.耕種的防除とは

 耕種的防除とは、作物の栽培環境を病害の発生しにくいものにすることだ。例えば、高い湿度を好む病害の場合は、湿度を下げてやることで病害の発生を減らせる。湿度を下げるためには、換気ファンを取り付けたり、株間を広くして風通しをよくしたりする。
 あるいは、灌水時のドロ跳ねに乗って感染するような病害の場合は、ドロ跳ねを防ぐためにマルチをするだけで、発生をかなり抑えることができる。
 このように、作物が置かれている環境を栽培上の工夫で病害の発生を抑えることを耕種的防除という。以下、その事例を紹介する。

 

3.耕種的防除の事例

(1)抵抗性品種
 人でも病気になりやすい人とそうでない人がいるように、作物でも、病害に罹りやすい品種もあれば、罹りにくい品種がある。
 抵抗性品種とは、生まれつき特定の病害に罹りにくい遺伝子を持っているものを指し、その品種を栽培することで、特定の病害の発生を抑えられる。であれば、抵抗性品種を使うことで防除が完結しそうだが、実はこの抵抗性は完全でないことが多い。完全に病害の発生を抑えるわけではないが、抵抗性品種に病害が発生した場合でも、作物の病害抵抗性によって病害菌の密度を低く抑える効果がある。補完的に散布する農薬の効果が高くなるといったメリットがある。
 また、抵抗性品種は、食味等の品質面でいわゆる「売れる品種」と異なる場合もあり、人気がないからと栽培が避けられることもある。抵抗性品種を使う場合には、経営全体を考えて選択する必要がある。

(2)台木
 トマトやキュウリなどの果菜類によく使われる方法だ。トマトやキュウリ栽培では、萎凋病や青枯病、つる割病など土壌から感染し、重篤な被害を及ぼす土壌伝染性病害にしばしば悩まされる。
 この際に威力を発揮するのが接木という技術で、土壌伝染性病害に強い品種や他作物を台木(根っこ)にして、その上に栽培したい品種をつなぐ(穂木という)方法だ。現在、多種類の台木が開発され防除効果をあげている。

(3)ほ場衛生
 病原菌は、ほ場回りの植物残渣や雑草などの寄主植物に存在しており、それらが感染源となる。これらをできるだけ取り除くことができれば、感染源を減らすことができ、病原菌の密度を抑えられる。
 特に、果樹などでは、剪定枝や病斑のついた葉や幼果、巻きひげなどが感染源になるので、できるだけ取り除くようにしてほしい。ハウス回りの雑草は、微小害虫の住処ともなるので、ほ場の回りの除草はこまめにやると良い。

(4)有機物の施用
 土壌の中は様々な微生物が存在しており、中には土壌病原菌の増殖を抑えてくれる微生物もいる。人間でいうところの、腸内の善玉菌と悪玉菌の関係に似ているのだが、この土壌中の善玉菌を増やす作用があるのが、完熟堆肥等の有機物施用だ。 完熟堆肥等は、善玉菌の活動を活性化するほか、土壌の物理性や化学性を改善し、作物の生育を良好にする効果もあるため、定期的に施用するようにすると良い。

(5)土壌phの矯正
 多くの土壌病害は酸性土壌で発生が多くなる。このため、土壌pH(酸度)を計測し、酸性に偏っているようなら、石灰質資材を施用し、土壌pHを矯正することで病害の被害を軽減できる。
 被害が軽減できる病害の代表的なものは、アブラナ科根こぶ病やキュウリつる割病、トマト萎凋病などが有名である。
 一方、トマト半身萎凋病など石灰施用により被害が増加する病害もあるので、注意が必要だ。いずれにしても、栽培基準などに従い、栽培に適した土壌pHを守るように心掛けることが何より重要だ。

(6)輪作
 同一の作物や同じ科の作物を同じほ場に作り続けると、作物の生育が衰えたり、収量が上がらなくなったり、品質が悪くなったりする。このことを連作障害というが、その原因の多くは土壌病害である。
 同じ作物を作付し続けると、その作物を好みとする病原菌が特異的に増殖し、ほ場が病原菌だらけになってしまい、その結果、病害が大量発生し、収量や品質がままならなくなってしまう。これを避けるための手法が輪作である。
 連作障害が起こってしまったほ場に、寡占化してしまった病原菌が好まない作物(違う科の作物など)を作付すれば、病原菌は病害を起こすことができず、年数を重ねるごとに数を大きく減らしていくことになる。
 土壌病原菌の土壌中の生存期間は、短くて1~3年、長くて5~6年といわれており、輪作の期間は発生した土壌病害の種類によって変える必要がある。このことを踏まえた上で、その地域で経営が成り立つ作物を複数選び、それらをローテーションを組んでほ場を回していくようにする方法が一般的だ。

(7)雨除け栽培・袋かけ栽培
 雨滴を介して感染が進む病害や土壌の雨滴による土壌の跳ね上がりが感染源となるような病害を防除するのに非常に有効な方法だ。主に果菜類や花き類、果樹類などで普及が進んでおり、雨除け設備などの設置に経費はかかるが、防除効果が高いので、ぜひとも活用したい技術だ。
 特に、イチゴ炭疽病では、この雨除け栽培が最も効果の高い防除法として知られている。その他の病害でも、雨除けにすることで、病害の発生密度が減り、農薬の散布回数が3~5割削減できた事例もある。
 これと似た方法に袋かけ栽培がある。これは、主に、リンゴ、ナシ、モモ、ブドウなどで行われており、摘果後の果実に袋をかけ、病原菌や害虫を果実に近づかせないようにすることで防除効果を発揮する。
 この方法は、物理的防除でも若干ふれたが、栽培技術にもつながるものであるため、今回も補足的に記載した。

 

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