農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第11回 害虫の防除方法(害虫の生態と防除)2019年7月19日
害虫の生態と防除方法について紹介する。
1.害虫の生態と防除
農作物を加害する害虫は昆虫がほとんどで、大きく分けるとダニ目、バッタ目、アザミウマ目、カメムシ目、コウチュウ目、ハエ目、チョウ目に分類され、それぞれが特異な生態を持っている。この害虫の生態を良く知ることが、効率的な防除の第一歩となる。
害虫の生態については、前回概略を紹介したが、この生態を逆手にとって、害虫が生活しにくい、生きていきにくい環境を作ることが害虫防除の第一歩だ。
そして、1つの手段にばかり頼ると十分な防除効果が得られないことも起こり得るため、物理的防除、耕種的防除、生物的防除、化学的防除など各種防除法を効率的に組み合わせて総合的に防除を行うIPM(Integrated Pest Manegement・総合的病害虫雑草管理)を実践していくことが重要だ。
以下、それぞれの防除法の概略を紹介する。
2.物理的防除
害虫を手で捕まえて殺す、防虫ネット(不織布等)で作物を覆う、ハウスの側窓をメッシュの細かい網で覆うなど害虫を作物に物理的に近づけない方法で害虫を防除する方法だ。
(1)捕殺
文字通り、害虫を捕まえて殺すこと。捕まえる方法はいくつかあるが、チョウ目害虫の幼虫を手で捕まえてつぶすことは昔からある防除法だ。安全・確実な方法だが、害虫の数が増えたり、害虫が小さかったりすると、この方法では広いほ場の害虫を防除するには効率が悪すぎる。家庭菜園程度の面積であればまだしも、面積が大きくなるととても捕殺では害虫を防ぎきれないのは容易に想像できる。
(2)防虫ネット
露地物の葉物野菜の栽培などでよく使われる方法だ。べたがけ資材(不織布)で作物をすっぽり覆って、害虫を作物に寄せ付けない方法で、ホウレンソウやコマツナなどの葉菜類のチョウ目害虫防除で確実な方法だ。ただし、日照が不足するため、十分な日照を必要とする作物では使えないこともある。
(3)防虫網
ハウスの側窓や天窓をメッシュの細かい網で覆い、コナジラミやアザミウマなどの微小害虫がハウス内に侵入しないようにする方法だ。害虫の種類によって網目の細かさが調整されるが、あまり細かいと害虫の侵入は防ぐことはできるが、温室内への通気性が悪くなり、温室内の温度が上昇してしまう難点もある。かといってメッシュを粗くすると、害虫の侵入を許してしまうことにもなるので、作付けする作物にとっての温度管理と害虫侵入阻止との兼ね合いを十分にとる必要がある。これは、害虫の侵入を恐れるあまり、メッシュを細かくしすぎた結果、ハウス内の温度が高くなり過ぎて農作物の収量低下、品質低下を招いてしまう恐れがあるからである。
(4)光・色の利用
害虫は特定の光(波長)や色に対して反応することが多い。例えば、ニカメイチュウなど青色を好む性質があるものには青色誘蛾灯で、多くのガ類にはブラックライトでおびきよせて殺す方法がある。
この特定の光を好む性格の反対で、嫌がる性格(忌避)を利用した防除がある。吸蛾類が嫌がる黄色蛍光灯やアブラムシが嫌がるシルバーマルチといったもので、これらを設置することにより、作物に害虫を近づかせないようにして防除するものである。
一方、特定の色に集まる性格を利用した防除法もある。黄色には、アブラムシやコナジラミが好んで集まり、ミナミキイロアザミウマは青白色に好んで集まる。これらの好みの色に着色した粘着板や粘着シート(ハエ取り紙のようなもの)で害虫をおびき寄せ、捕殺する資材を使う。ただ、いくら集まってくるとはいえ粘着板・シートだけでは防除しきれないので、他の方法と組み合わせて行う必要がある。
(5)熱の利用
害虫は変温動物で、生存限界温度がそれぞれにある。この生存限界温度よりも温度を高くしたり、低くしたりして防除する方法だ。例えば、加温による防除法では、温湯消毒法がある。これは、種籾や種芋、種子、球根などを、作物の発芽に影響を与えずに害虫を死滅させることができる温度(60℃くらい)に保ったお湯に浸漬して防除するものである。この方法の成否は、いかに万遍なく死滅温度にすることができるかどうかにかかっている。大量の種籾を湯につける時、温度が低いところができると消毒効果が不十分になる。そのため、温度管理には十分に神経を注ぐ必要がある。
また、微小害虫防除で、ハウス内に被害残渣を残したままハウスを灌水・密閉し、高温により死滅害虫を死滅させる方法である。この方法であれば、病原菌も死滅させることができるので、作期が変わる時の全面消毒にも有効な方法だ。ただし、ハウス内の温度を一定期間、高温にしなければならないため、しっかりと密閉できることと日照が十分にあることなど必要条件に注意する。
(6)ほ場周辺の雑草管理
害虫には、ほ場やハウス周辺の雑草を一時的な住処にしているものも多く、ほ場の周辺を雑草だらけにしておくと、そこを発生源にして、ほ場やハウス内に侵入してしまうことがしばしばある。このため、ほ場やハウス回りの雑草は常にきれいに刈り取るか枯らしておき、害虫の一時的な住処を無くすようにすることで防除効率が上がる。ほ場周辺の雑草管理は病害防除の面でも有効なので、ほ場周辺の雑草管理を徹底することによって病害虫防除の効率があがる。
本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
・【防除学習帖】現場で役立つ知識を提供
重要な記事
最新の記事
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日
-
厚木・世田谷・北海道オホーツクの3キャンパスで収穫祭を開催 東京農大2024年11月22日
-
大気中の窒素を植物に有効利用 バイオスティミュラント「エヌキャッチ」新発売 ファイトクローム2024年11月22日
-
融雪剤・沿岸地域の潮風に高い洗浄効果「MUFB温水洗浄機」網走バスに導入 丸山製作所2024年11月22日
-
農薬散布を効率化 最新ドローンなど無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2024年11月22日
-
能登半島地震緊急支援募金で中間報告 生産者や支援者が現状を紹介 パルシステム連合会2024年11月22日