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解説記事
特別寄稿
政治の責任で減反し、米価回復を
森島賢 立正大学教授

森島賢氏 内閣改造が行われ、農水大臣が代わった。「農協は改革か解体か」とJAに迫る大臣から「農協は農村の核」とJAを励ます大臣に代わった。
 この姿勢の変化に熱い期待をよせる農業者が多い。しかしその一方で、あまり大きな期待をすると、あとで落胆するときの落差が大きくなるとして、冷めた見方をする農業者も少なくない。
 新しい大臣が当面する重要な農政問題は、米政策の抜本的な改革と、WTO(世界貿易機関)の農業交渉である。米政策は来(11)月中に決めねばならないし、WTOの農業交渉は来(03)年の3月までに、大枠を決めることになっている。両方とも今後の農政を大きく方向づけるものになるだろう。

◆減反は政府の責任

 さて、米政策について前稿(本サイトの「減反の廃止は米の壊滅」「減反廃止は夢のまた夢」)で次のように言った。すなわち、政府の「(米の)生産調整に関する研究会」の中間報告が目ざす米政策の方向、つまり、行政が減反に責任を持たない方向へ進めば、減反制度は崩壊し、わが国の稲作は壊滅するだろう。
 では、どうすればいいか。答は政治の責任で減反制度を立てなおし、米価を回復して稲作を再建することである。
 政治の最も重要な責任は、どんな状況になっても国民の生命の糧である食料を確保することである。それには、少なくとも主食である米は輸入に頼るのではなく、国内で供給できるように稲作を再建することである。このことを米政策の根本に、しっかりと据えねばならない。
 稲作再建のためには、減反で米価を回復するしかない。だから減反は政府の責任なのである。

◆減反で米価回復を

 米価を下げても所得政策で稲作を再建できる、というこれまでの政策、つまり「価格政策から所得政策へ」という政策はすでに破綻した。このことを、しっかりと認識すべきである。
 世界の農政の潮流は「価格政策から所得政策へ」だという。これまで、この呪文に惑わされ、減反をおろそかにして、価格を下げてきた。その結果、再生産ができなくなれば、そうならないように所得を補償すればいい、という政策を行おうとしてきた。
 しかし、実際には価格を下げただけで、所得政策は全く不十分なまま、所得は下がりつづけてきた。今後も財源不足という理由で、所得政策を充実させないだろう。
 この政策は農政のための財政負担を惜しまない国の政策であって、わが国が真似できる政策ではない。これまで真似しようとして、農業者に米価下落という痛みだけを押しつけてきた。そうして稲作を崩壊の淵に追い立ててきた。
 政府は、この政策から決別しなければならない。米価を下げるのではなく、米価を回復して稲作を再建するしかない。そのためには、減反制度を立てなおすしかないのである。

◆減反の限界感と不公平問題

 いまの減反制度は深刻な問題をかかえている。その主なものは、もうこれ以上減反面積を増やせないという限界感と、減反非実行者のタダ乗りという不公平と、過剰米処理にかかる負担を計画米だけが負っている、という不公平である。これらの問題を、きちんと解決しなければならない。
 政府の研究会の中間報告は、これらを一気に解決する方法として、農業者の「主体的な経営判断」による減反、つまり減反の選択制と、計画流通制度の廃止を提案している。
 減反を選択制にすれば、限界感を感じる人は減反しなければいいのだから、限界感はなくなる。また計画流通制度をやめれば、計画米そのものがなくなるのだから、計画米の不公平はなくなるというのである。
 そんなにうまくいくだろうか。限界感と不公平がなくなるのとともに、稲作がなくなってしまうだろう。稲作再建どころではない。

◆減反の選択制は成り立たない

 減反の選択制について、やや詳しくみてみよう。これは「経営判断」による選択というのだから、減反を選択する人が減反を選択しない人と同じ程度の経営目的が得られねばならない。そうでなければ減反を選択する人はいなくなって、減反制度は崩壊する。
 経営目的を稲作所得として、10ヘクタールの稲作農家のばあいを考えてみよう。いまの減反率は37%で約4割である。だから10ヘクタールの水田農家のばあい、減反を選択しなければ10ヘクタールの全部の水田で米を作ることになる。減反を選択すれば6ヘクタールの水田で米を作ることになる。
 農水省の生産費調査によれば、10ヘクタールの農家のばあい、稲作所得は520万円で、6ヘクタールのばあいは350万円である。だから差額の170万円を減反した人に助成すれば、選択制は成り立つ。助成金の単価は10アール当たり4万3000円になる。
 この単価で十分という訳では全くない。この10ヘクタールの農家は1.5人の農業専従者で520万円の稲作所得しか得ていない。この農家と同じ所得になったからといって、6ヘクタールの農家が満足すると考えている訳ではない。だから、この助成金の単価は、選択制が成り立つための最低限の単価である。
 同じ計算を1ヘクタールの水田農家で行うと差額は18万円になり、助成金の単価は10アール当たり4万5000円になる。
 助成金の単価を平均の4万4000円として、現在の減反面積の101万ヘクタールを掛けると4400億円になる。
 この額が減反のための財政負担額の最低限だが、政府は、この額さえも負担できないというだろう。現在、減反のための財政負担額は2900億円だから、それほど膨大な金額ではないが、政府は2900億円でさえも多いといっている。だから、助成金の単価を減らすに違いない。
 そうなれば、減反を選択する人は減り、その結果、減反の実効性は失われて米価が下がり、減反制度は崩壊するだろう。
 このように、減反の選択制は成り立たないのである。


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