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シリーズ 「農薬の安全性を考える」 |
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◆「食の安全」と「安全な食」は違う ――まず初めに、「食品の安全・安心」についてのお考えをお話ください。 本山 「食の安全」といわれますが、「食の安全」と「安全な食」では意味が違うと私は考えています。 ――安全な食とは 本山 「安全な食」つまり「食が衛生的」とは、一つは、食品がヒトに対する病原性微生物などに汚染されておらず、食べても人間が病気などに罹らないことです。二つ目は、作物自体が持っている「自己防衛物質」(天然毒)が少ないなど、食べても中毒を起こさないということです。野生の植物や原種に近い植物は天然毒の濃度が高いので食べると中毒を起こす可能性が高いわけですが、私たちがいま食べている栽培作物は品種改良されそうした物質の濃度が低いものになっているので中毒を起こさないわけです。三つ目は残留農薬濃度が基準値以下であることです。 ◆植物の防御機能を低下させた作物は病害虫に弱い
――栽培種はもともと天然毒があるものを品種改良などしてその毒を減らして食べやすくしたものだから、病害虫に弱く、人間が手を添えないとうまく育たず収量もあげられないという話がありましたが、それが理解されず、作物自体が自然なものだという誤解がありますね。 本山 無農薬栽培された農産物と農薬を適正に使った慣行栽培された農産物とどちらが安全かというと、ある意味では無農薬栽培農産物の方がリスクが高いとも言えます。 ◆普通薬が増え、環境に優しくなった農薬 本山 近畿大学の森山達哉講師らの研究によると、リンゴアレルギーの人の血清をとって、無農薬栽培、減農薬栽培、慣行栽培のリンゴで試験し反応する物質の量を調べたら、無農薬栽培リンゴが一番高く、減農薬がその次で、慣行栽培は一番低かったわけです。よく「虫が食った農作物はおいしい」とか「健康にいい」とかいいますが、それはまったく逆だといえますね。虫が食ったり病気が発生すれば、非衛生的なだけでなく、作物はそれから身を守るために天然毒の濃度を高めるわけですから、無農薬は健康にいいなどとはいえないわけです。梶井 かつて毒性の強い農薬が使われていた時代があり、そのときのイメージが残っていて「農薬アレルギー」になっているのではないですかね。神戸大学の松中先生に話を聞いたときに、いま毒物といわれるカテゴリーに入る農薬はごく少数で、ほとんどは普通物だといわれましたが、そういうことをもっと一般の人に説明しないから、農薬は毒性の強いものが多いと誤解されるのではないですか。 そのときに大事なポイントは「使用基準に従って適正に使う」ということですね。その点についていえば、生産者の人たちは栽培履歴を記帳して、真面目にやられているわけですが、そのことがあまり一般の人には知られていないのではないかと思いますね。 本山 確かに農薬取締法が施行された昭和20年代初期には、DDTのように急性毒性は低いが環境中に長期に残るとして農薬登録が取り消されたものとか、パラチオンのような非常に急性毒性の高いものがありましたがこれも登録が取り消されています。そうした時代から農薬も進歩してきて、選択性の高いものや環境中に長く残留せず適当な時間で分解して環境の中の物質循環系に入るものとか、急性毒性が低くて普通物に属するものが多くなるなど変わってきています。 しかし、劇物はすべてダメという議論は少し行き過ぎだと思います。劇物でも使い方によっては非常に役に立つものもあるわけです。 私は米国の大学で10年ほど研究をしましたが、そのときに最初に発表した論文が、リンゴ園でハダニの天敵であるカブリダニが薬剤抵抗性を発達させたというものです。そこはノースカロライナ州のアパラチア山脈が続く冷涼な地帯でリンゴの栽培地帯が広がっているところでした。当時、日本ではリンゴを含めてどの作物でもハダニというのは多くの薬剤に抵抗性を発達させていて難防除害虫の代表だったのですが、ここではハダニを防除する目的での薬剤散布は必要がないという情報が入ったので調べてみたら、ハダニの天敵であるカブリダニがたくさん生息していました。しかも、シンクイムシのようなリンゴにとって最重要な害虫を防除するためにパラチオンという非選択性で強毒性の殺虫剤を使っていました。当時は、天敵は害虫よりも薬剤に弱いから抵抗性は発達しないと考えられていましたから、農薬を使っているのに天敵がいるのはどうしてかと調べたら、カブリダニが薬剤抵抗性を発達させているという世界で初めての事例を発見したわけです。 日本ではどうしてそうならなかったのかというと、日本では新しい農薬が開発されると、毎年のように新しい農薬が防除暦に登場しますから、天敵がそれに追いつけず抵抗性を発達させる余裕がなかったわけです。ところが米国のリンゴ園は、リンゴの一番重要な害虫を防除するために、殺虫剤としてはパラチオンだけを10年間くらい使い続けていたので、ハダニは当然抵抗性を発達させましたがカブリダニも抵抗性を発達させ、ハダニを防除してくれていたわけです。パラチオンの次がアジンホスメチルというこれも毒性の高い有機リン殺虫剤が何年も使われていました。 梶井 パラチオンという毒性の高い農薬を使っても大丈夫だったのですか。 本山 今の日本ではもちろん使えませんが、米国は日本と違い農業地帯と人の居住地域が離れているので、使う人が問題が起きないように十分に注意して慎重に散布すれば、使い道があったわけです。 ◆剤師のような資格を持つ人が販売する制度に 梶井 毒性が強くても使い方によっては役に立つこともあるわけですね。 |
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(2007.9.26) |
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