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【報農会】
水稲除草剤、後期剤のニーズ高まる  報農会シンポジウム

 栽培中後期に雑草が残るようになり、一発処理剤だけを使って防除できているのは全国の半数ほどしかない...。9月25日に開催された報農会の第27回シンポジウム「植物保護ハイビジョン」での報告だ。今年は「最近の植物保護剤の特性と使い方」をテーマに6人が発表したが、この中から、水稲除草剤の近年の動向と、新たな果実用鮮度保持剤「1-MCP」について紹介する。

ほ場管理の徹底で雑草を残さない
横山昌雄 氏・日本植物調節剤研究協会

横山昌雄 氏・日本植物調節剤研究協会 年間の水稲除草剤の出荷量は使用面積換算で約290万ha(推定、平成23年度。以下すべて同じ)。このうち一発処理剤は約170万haで、国内の水田作付面積とほぼ同じだ。
 ほとんどすべての水田で一発処理剤が使われていることになるが、近年、中期にクログワイ、オモダカといった難防除雑草、後期にはこれらに加えて初期のノビエが残ることが多く、一発処理剤だけで防除できているのは全面積の半分ほどしかなく、体系防除剤との組み合わせが一般的になっている。
 もっとも利用されているのは初期剤で、ここ10年は60万haほどで安定している。
 中期剤は10年前の23万haに対し、現在は15万haと減ったが、このうち7割弱はクログワイ、オモダカなどの難防除雑草を対象にしたもので、使用ニーズがより鮮明になってきたといえる。特にSU抵抗性雑草の対策剤でもある4成分配合の「ハイカット」が急伸している。
 出荷が大きく伸びているのは後期剤だ。10年前は10万haだったが、現在は17万ha。剤ではシハロホップブチル(「クリンチャー」など)、ペノキススラム(「ワイドアタック」など)が伸びている。このほか、「バサグラン」を含んだ剤が10年前に比べて3倍、ノビエ、広葉、カヤツリグサ科を対象にした剤が同4倍弱と、殺草対象の違うさまざまな薬剤が伸びており、多種の雑草が後期にまで残っていることがわかる。
 こうした雑草残存の原因は、[1]生産者の高齢化や大規模化でほ場管理が不十分になった、[2]特別栽培や減農薬栽培が広まり使用できる成分数が限られた、からだ。
 特に[1]については、除草剤の注意事項に「畦道を整備する」、「代かきを丁寧に行う」、「散布後の一定期間は水の流出を防ぐ」、などが記されており、これは水稲の総合的病害虫・雑草防除(IPM)の指針とほぼ同じ。除草剤を使うこと自体がIPMの実践だという意識で、徹底したほ場管理が必要となる。


リンゴで常温1カ月の鮮度保持が可能「1-MCP」
立木美保 氏・農研機構果樹研究所

agur1209270302.jpg 果実の成熟を促進させる一方、収穫後には劣化の原因となる植物ホルモン「エチレン」。このエチレンの作用を抑制し、長期の鮮度保持を可能にする剤が「1-MCP(1?メチルシクロプロペン)」だ。
 1996年に米国で開発され、2011年末現在では世界41カ国、果実を中心に30種以上の作物で登録を取得している。日本では2010年11月に植物成長調整剤「スマートフレッシュくん蒸剤」としてローム・アンド・ハース ジャパンが、リンゴ、ナシ、カキで登録を取った。海外では、韓国、中国、中米でトマトやメロン、米国でブロッコリー、豪州でキャベツ、レタス、ニンジンなどの登録を取っており、日本での登録拡大も期待される。
  1-MCPは、常温常圧下では無味無臭の気体。果実を気密性の高い容器や貯蔵庫に密閉し、剤を水に溶かしてくん蒸する。処理時間は12〜24時間、温度は常温(20〜25℃)(図1参照)。
 その鮮度保持効果は、リンゴなら果肉硬度の低下、酸含量の低下、みつの消失、やけの発生などを抑制でき、収穫直後の処理で常温下2週間から1カ月の品質保持が可能となるなど非常にすぐれている。元々エチレンの少ない「ふじ」であれば、収穫6日後でも同等の効果がある(図2参照)。
 ナシでは果皮色の黄化を顕著に抑制。カキでは脱渋処理後の早期軟化を防ぎ、剥皮可能期間を延長し渋残りも発生しなくなる。
 現在、スマートフレッシュくん蒸剤は直接販売しておらず、登録作物の主産県におかれたサービスプロバイダーを通じて販売している。

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◆コメ輸出、産地間競争激しく

報農会の上野路子理事長(左)と受賞者(左から)長谷川氏、牧野氏、宮原氏 このほか、今年は生産現場からの報告として新潟市の木津みずほ生産組合の坪谷利之代表がコメの輸出や現場での病害虫防除などについて発表した。
 同組合では年間3〜5tを台湾へ輸出しているが、輸出量は減っている。「他県の安いコメの輸出が増え、新潟県産コシヒカリは価格競争で厳しくなっている。富裕層や在外邦人など、もともと限られた顧客をどう確保するかが課題」だとした。
 また、シンポジウム後には、長年植物防疫に貢献した功労者の表彰があり、長谷川邦一氏(農水省植物防疫課、農林水産航空協会など)、牧野秋雄氏(静岡県農業試験場など)、宮原和夫氏(佐賀県農業試験場など)の3人を表彰した。

(写真)
報農会の上野路子理事長(左)と受賞者(左から)長谷川氏、牧野氏、宮原氏


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