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米価大暴落!新米5kg1400円で発売も――主産地334JAに緊急調査

・過剰米対策、絶対に必要
・主食を市場原理主義に任せていいのか?
・収穫始まったのに倉庫がない!?
・戸別所得補償で価格が叩かれ

 「先行きがまったく見えない?。いや、米価下落だけがはっきり見えてますよっ」。北海道のあるJA担当者は憤然とした口調でこう答えた。
 21年産米価は昨年の出来秋から下がる一方。7月の相対価格はやや戻したが、60kgで約1000円の下落だ。消費の減少と20年産米が大量に持ち越しされたことなどが原因とされているが、「10a1万5000円に加え米価が下がっても補てんされるモデル対策の実施で、米価下落が容認されている」と指摘する声も多い。
 21年産は35万t程度が持ち越しとなる見込みのほか、22年産の過剰作付けと豊作分で今後、合計60〜80万tの需給ギャップが生じる可能性が高まっている。
 この事態に「これでは米づくりの意欲を失う」、「米は主食だといいながら産地がないがしろにされている」、「需給引き締めのため過剰米対策を政府の責任ですべきだ」などの声が上がっている。

米づくりの意欲をなくすばかりだ……
過剰米対策、絶対に必要

今、米対策に望むこと


店頭に並ぶ新米 本紙は8月末から9月初めにかけて、全国JAの米担当者を対象に米の作柄予想とともに緊急に米対策に望むことを取材、約334JAの協力を得た。合わせて新米販売が始まった首都圏の店頭小売り価格も編集部で調査したが、なかにはなんと「新米5kg1400円」のセールも。
 「卸だってスーパーだってメリットなんかないはず。このままでは米づくりがなくなってしまうよ」(北関東のJA担当者)。
 こうしたなかJAグループは9月2日、米需給を改善する緊急対策を政府が実施するよう求める政策提案を決めた(関連記事)。
 今号では本紙推計の作況(関連記事)とともに生産現場から寄せられた声を紹介する。
 これらの声に政策はどう応えるのか。全国の産地が厳しく見つめている。

 

消費地―卸も嘆く
「どうすればいいか分からない」

 

 大消費地に隣接する東海地方のJA職員からこんな話を聞いた。
 「大手量販店が5kg1580円、10kg2980円での新米売り出しを決めた。生き残りをかけて周辺のスーパーも対抗するし、卸も必死のようです」。
 本紙は9月4、5日の土日に首都圏の量販店の店頭価格を調べた。
 22年産米が一斉に売り出され店内には「新米入荷!」ののぼりも。
 しかし、22年産米の価格は先のJA担当者の指摘どおり5kg1680円、1580円の米がずらりと並んだ。21年産米は1980円から2000円前半、さらには3000円近い水準の商品もあるが、なかには新米売り出しに合わせて明らかに値下げしたものも見られる()。
 新米のなかには5kg1400円の商品もあった。
 2000円割れでも衝撃的だが1500円をも下回ったのだ。「新米がこんなに安いの?」店頭での主婦のつぶやきを聞いた。
 関東のある大手卸の首脳は「取引はコンペ(競争)ですからね。ウチはこの値段で納入、というわけにはいかない。弾き飛ばされるだけですから」と量販店の価格誘導を嘆き気味に話す。
 ただ、安値の背景には「品質は別にしても誰が見てもジャブジャブになるのは明らか」という米の過剰があると指摘。すでに昨年産より1000円安い60kg1万2500円程度の新米が「業者間玉」として取引されているという。
 「しかし、手を出すわけにはいかない。なぜかって? 高く契約した21年産在庫を抱えているからですよ」。
 では、21年産米はどうなるのか。
 「いずれ損を覚悟で安値で処分していくしかない。政府の過剰対策も見えず、今年は本当にどうしていいか分からない――」。

 

首都圏新米価格調査結果 首都圏新米価格調査結果

 

JA職員の苦悩 
 「国が下がらないと言ってるじゃないか!」


 9月7日、秋田県は概算金を「あきたこまち」で60kg9000円水準とすることを決め公表した。同県に限らず概算金を1万円以下とした県はほかにもある。需給が大幅に緩和し販売環境が見通せないからだ。
 しかし、山田農林水産大臣をはじめ国は戸別所得補償モデル対策に132万戸程度の加入が見込まれ、過剰作付けも昨年より1万ha減ったことから「需給は引き締まる」と言い続けている。
 現場ではこんな認識がどう受け止められているのか。今回の取材で痛切な思いをしたのは次のようなJA担当者の声だ。
 「国が米価は下がらないと言ってるじゃないか! なのになぜ概算金を引き下げた? JAの努力が足りないんだと組合員から言われ、つらい」。
 もちろん組合員はまさにやり場のない気持ちをJA職員にぶつけたのだろう。現場に焦り、不安どころか、さらには心の荒みまでもたらしているとすれば政府の認識の責任は重い。

新米5kg1400円などを目玉に21年産銘柄米も価格を下げ激しい販売合戦が始まった(量販店のチラシや店頭から)

 (写真)新米5kg1400円などを目玉に21年産銘柄米も価格を下げ激しい販売合戦が始まった(量販店のチラシや店頭から)

 

 

山田農相「過剰米対策、一切やらない」  
山田農相


 9月7日の参院農林水産委員会で山田農相は「ここは対策をやらずに(米価が)下がるなら、来年は過剰米の人(=生産調整非参加者)がほとんど参加できるようになれば、需給バランスもとれて財政負担も少なくなると考えている。過剰米対策は一切やらないとはっきり申し上げる」と述べた。山田俊男議員への答弁。批判が高まるのは必至だ。

 


 

主食を市場原理主義に任せていいのか?


◆収穫始まったのに倉庫がない!?


 22年産が収穫期を迎えるなか、21年産米については「直売分も含めてなんとか売り切った」というJAもある一方、全農や経済連経由で契約はできているものの「業者の引き取りが遅くまだ在庫を抱えている」というJAも多い。
 東北地方のJAでは「今までにない厳しい販売状況。倉庫に在庫がある光景は20年前に見たきり」との声があった。
 北海道のJAからは「9月2日現在、1万5000俵(900t)が倉庫にある」という。
 保管料については契約によってさまざまだというが、引き取り遅れによる保管料負担はJAにのしかかる……。こう話すと「いや、結局は生産者の負担になるんです」と厳しくたしなめられたこともあった。
 「生産から供給まで生産者がどれだけコストを負担しているのか、消費地は分かってない」(北海道のJA)。
 こうしたなか、後述するように本紙調査でも米の生育は好天続きで早まり、北海道では10日間も早まっている。 「倉庫事情が厳しい。収穫しても新米が入らない事態もある」という北海道のJAも。別に営業倉庫を確保して新米の集荷に備えることも検討しているという。「新米を入れる場所がないなんて本末転倒ではないかと思う。が、仕方がない」。

 21年産米相対価格の推移

 

◆戸別所得補償で価格が叩かれ

 

 今後の米価の推移についてはどのJAの担当者も「このまま過剰なら下がる」と見ている。2000円は下がるのでは、という声も多い。
 ただ、その理由では戸別所得補償制度の導入による米価の引き下げ圧力を指摘する声が多い。
 「戸別所得補償制度はコスト割れを補てんするはずなのに、どうせ交付金があるのだから値下げを、という業界の姿勢が見え隠れしている」(関西のJA)といった声に集約される。
 JAグループの緊急政策提案でも、固定部分の交付金に加えて変動交付金(1俵1200円相当)が「米価に翻訳」されて、価格引き下げの圧力となる懸念を強調している。
 JAからは昨年のモデル対策の導入以来のマスコミ報道なども問題だという指摘もあった。
 「戸別所得補償によって米価は下がる、下がらなければおかしい、という報道ばかりではないか。今の米価下落は目に見えていた」(北海道のJA)。
 「世の中、価格オンリー。農家は一生懸命つくっているのに品質や食味を誰も話題にしない。こんな流れはおかしい。このままでは作る人がいなくなってしまう」(北陸のJA)。
 未曾有の米価下落となるとJAの事業にも大きな影響となる。たとえば「乾燥調製代を徴収できるのだろうか」という声が聞かれた。定額で農家に負担してもらっているコストが「米価が下落すればどうしても目立つ」、「職員への風当たりも強くなる」との声も寄せられた。
 また、東海地方のあるJAでは飼料用米の取り組みが拡大したが、着実に区分管理するため全量カントリー・エレベーターに出荷してもらおうと「キロ20円の乾燥代を半額にする」という。まったくの赤字だが需給調整にしっかり取り組むためだという。JA自らが需給調整に取り組む現場の努力ではあるが、それがどれだけ反映されるか。主食用米の過剰を是正する対策こそが急務だろう。ほとんどのJAからは政府買い入れの実施など「国の責任による対策」を求める声が圧倒的だった。
 「助成をするから後はお好きにどうぞ、では責任の放棄。そもそも主食を市場原理主義にしていいのかを見直すべき」。
 農政の根幹が問われている。

 22年産米の作柄・作付状況にともなう需給ギャップ

 

 

米産地 JAの声

政府の介入なくして過剰は解消しない


 北海道●
◎国は何を根拠に「需給は締まる」というのか理解できない。対策講じるべき。
◎ダブついたからダブついたまま、では厳しすぎる。過剰米対策で手取りを守れ。
◎過剰となれば安値覚悟で産地は手放しにかかる。低価格競争が止まらない。
◎もともと低価格。これ以上は死活問題。

 東 北●
◎国は何を考えているのか。怒り覚える。
◎需給調整非参加者を野放しにしているのが間違い。が、今回は政府買い入れを。
◎単年度ではなく23、24年も考えるべき。
◎政府買い入れしなくても過剰米対策を。
◎需給調整機能を持った備蓄制度を。
◎農家には補てんがある、との風潮がある。米価運動も必要ではないか。
◎まず21年産米の持ち越し在庫対策を。
◎JA独自で販売することも必要と思う。
◎みな消費者目線。不作のときだけ騒ぐ。

 関東・東山●
◎政府買い入れ含め過剰米対策は必要。
◎「年内に」政府買い入れを行うべき。
◎1万5千円が一人歩きし下がる要因に。
◎2000円下落と見る。販売ルート拡大も。
◎今年は需給調整対策が絶対必要。
◎生産調整非参加者にペナルティを。
◎今、棚上げしないと生産者手取りに反映されない。卸間で値上がりするだけ。
◎今回は生産調整に参加した人にメリットあるはずではなかったのか?
◎米価を維持する政策も同じ税金のはず。

 北 陸●
◎農家にとっては高く売ることが大事だ。
◎生産調整参加者にたくさんの補てんを。
◎思いつきでイメージだけ先行、の印象。
◎強力な米の消費拡大対策が必要だ。
◎一度米価が下がると元に戻らないことが分からないか? 現場ではあきらめも。
◎米価維持しないと大規模・法人経営が困難に。補てんがあるから、との考えを改めるべき。
◎米は主食、と言っているのに無策無責任。悲しくなる。農家には怒られている。
◎天候に左右されるという観念が薄れつつある。工業製品と同じ扱いをしている。
◎モデル対策加入者の補てんを十分に。

 東 海●
◎政府買い入れを行うべき。
◎急激な変化に生産者がついていけない。
◎需給調整、価格支持など対応を。
◎自給率を本当に上げていくのか? 日本農業のビジョンをしっかりしなくては。
◎過剰米を飼料用に向ける対策を。
◎飼料用米増産といっても今年は専用品種でなくてもいい。だから産地では横流れ防止に苦労している。結局は現場を知らない丸投げ政策だ。
◎政府買い入れと合わせ消費対策を。
◎ふるい下米をJAグループの力で全量飼料用にするなどの取り組み検討を。

 近 畿●
◎米屋は交付金を見込んだ相対価格を設定。昨年比2000円安で動いている。
◎過剰米が豊作以外の理由では発生しない方策を確実に実行すべきだ。
◎生産調整の厳格化など政府の統制を。
◎コシヒカリがキヌヒカリより安くなった。売れる米がいつまでできるか不安。
◎本来は政府の言うとおり需給は引き締まると思っていた。米価維持と食料安定供給のため政府買い入れを。
◎農産物を自由化し処分に困る外米を輸入する約束をするから方策を打ってもまったく効果なく自給率も上がらない。

 中 国●
◎このままでは農家所得は大幅減。補てんより自立出来る農業を。
◎政府は生産調整非協力者から安く買い入れをすればいい。
◎需給調整でいちばんいい思いをするのは非協力者。だから、やらなくていい。
◎過剰米対策基金の活用に期待する。

 四 国●
◎21年産在庫対策をしないため制度がメリット措置として機能しない。21年産米買取を実施すべきだが、公平性から価格については要検討。
◎海外の食料不足国への輸出も検討を。
◎政府介入以外、解決策はない。

 九 州●
◎戸別所得補償実施でバイヤーから値引きを求められている。
◎過剰米対策なければ農家はつぶれる。
◎販売価格維持を。米価低迷で生産者は本当に困っている。
◎豊作分は政府が責任をもって対応を。
◎戸別所得補償では需給調整は難しい。加入者の保護、売れない産地の手助けを。
◎どんどん田んぼが荒れてしまう。作る意欲の持てる政策を。
◎集荷円滑化対策、需要拡大基金の復活を。

(2010.09.15)