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【23年産米の生産・流通】 作柄は平年並みでも先行きに不透明感  23年産米の作況、平年並みの「101」(9月15日現在)

・3年ぶりに作況100を超す
・過剰作付けが大きく減少
・22年産米の在庫は解消
・産地づくりと品質向上こそ
・原発事故の影響、不安ぬぐえず

 農林水産省は9月28日、23年産米の9月15日現在の作柄概況を発表した。全国平均の作況指数は平年並の「101」となった。作況指数が100以上となったのは3年ぶり。
 作柄は平年並みとなったが、今年は福島第一原発事故による放射性物質の影響が心配され、検査の対象となった産地では予備検査、本検査が続き出荷もままならない状況にある。また、安全性が証明されたとしても風評被害も懸念され、生産現場では不安がぬぐえない状況だ。作柄概況の解説とともに各地のJA米担当者の取材から23年産の生産と流通の情勢と課題などを探る。

福島など産地、原発事故にあらためて怒り


◆3年ぶりに作況100を超す


23年産米の生産・流通 23年産米の生育は、全国的に5月下旬から6月中旬にかけて日照不足の影響がみられたが、その後の天候がおおむね順調に推移していることから、全国の10aあたりの予想数量は535kgで、作況指数は101と見込まれた。
 地域別にみると北海道は全もみ数(1平方mあたりのもみ数)は少なくなったものの、7月以降はおおむね天候に恵まれ登熟は順調に推移。8月15日現在の作柄も良くなり、作況指数は「やや良」の105が見込まれている。
 東北は、5月下旬から6月上旬にかけての低温と日照不足で分げつが抑制されたものの、7月上旬から中旬にかけて気温・日照ともおおむね平年を上回り、8月以降も気温が平年を上回っていることから101が見込まれている。
 そのほか、北陸101、関東・東山100、東海100、近畿99、中国102、九州101となっている。沖縄の第一期稲は80となった。
 今回の作柄調査は台風12号の上陸・通過後に実施されたが、冠水や倒伏などによる作柄への影響は一部地域にとどまり、大きな影響はなかったという。また、台風15号の影響は10月15日現在の作柄調査に反映されることになるが、農水省によると「1ポイントまで下げるかどうかの限定的な影響ではないか」と見込んでいるという。

 

◆過剰作付けが大きく減少


 青刈り面積を含む23年産水稲の作付け面積は163万2000haで、前年産にくらべて2万5000ha減少の見込み。津波被害の大きかった宮城県では6500haの減少で、津波に加え原発事故による作付け制限なども行われた福島県は1万5400haも減少している。
 青刈り面積を含めた作付け面積から、加工用米と飼料用米、米粉用米など新規需要米、さらに備蓄用米の作付け面積を差し引いた主食用の作付け面積は152万6000haで、前年産にくらべて5万4000haの減少となった。
 23年産の生産数量目標は795万tで、これを面積換算すると150万4000haとなる。主食用作付け面積152万4000haとの差は2万2000haで、これが過剰作付け面積となる。前年産の過剰作付け面積は4万1000haだったため、23年産では1万9000ha減少したとみられる。
 主食用作付け面積に予想収量535kg/10aをかけた予想収穫量は815万9000tとなる。23年7月から来年6月までの1年間の主食用需要量は805万tが見込まれており、約11万t程度が過剰となりそうだ。今年6月末の民間在庫は182万tで過剰分がそのまま積み上がれば来年6月には192万t程度となる。ただし、22年6月末在庫は216万t、21年同は212万tであったことなどから、農水省は需給に大きな変化が出るものではないとの見方を示している。

平成23年産水稲の作付面積など

◆22年産米の在庫は解消


 JA全農が公表している米をめぐる情勢によると、玄米価格は東日本震災の影響と原発事故の終息が見通せないことから、22年産の玄米の市況価格は大幅に上がっている。
 たとえば、福島産コシヒカリの9月上旬の相対取引基準価格は60kg1万3100円だったが、市中価格は1万9000円と5900円も高い取引が行われている。その他の銘柄も市中価格は相対取引基準価格よりも5000円から1万円も高く取引されている。
 JAの担当者の話は、どの産地も22年産米の在庫は「ほぼゼロ」や「倉庫に少し米はあるがすべて契約済み」などだった。昨年のこの時期は21年産米の在庫を抱えさらに新米の集荷が迫るというなか、「倉庫をどう手配するか頭を抱えている。こんなことは初めて」といった声をレポートしたが、「倉庫の風景は様変わりしました」(北海道のJA)という。福島県内のJAでも直売所などで買いだめの動きもあったという。
 こうしたなか23年産米の販売がスタートした。全農は相対取引価格を昨年同時期より60kgあたり1000円2000円以上高い1万2900円2万2000円を基準価格として提示しているが、市中での取引価格はさらに1000円2000円程度の高値で推移している。
 九州のJA担当者によると提携関係にある卸業者などからは早めの出荷や、例年よりも取引量を増やしたいとの意向が伝えられており、「玉の確保を急いでいる感じだ」という。
 北海道のJAからも「いくつか新規の業者が産地に現れ取引きの依頼もあった」と話す。
 各地域とも23年産米の概算金は昨年より60kgあたり1000円から2000円程度引き上げている。とはいえ、相対取引価格ベースでみれば21年産は1万4000円台、20年産は1万5000円台で推移したことを考えると「23年産の価格水準が戻ったとはいいがたい」(九州のJA)のが実態で、生産者からすればまだまだ低米価であるというのが実感だ。
 実際、玄米価格は上昇しているが末端の精米価格は上がってはいない。総務省の小売物価統計によると今年7月の5kg価格は2003円(単一原料米)。昨年7月が2141円だからむしろ下がっている。
 しかしながら、玄米価格としては上昇しているため、生産者のなかには「もっと上がるのではないかとの期待が頭をよぎっている人は多い」(秋田県のJA)という。とくに今年は放射性物質の影響が懸念されるため、「検査の結果、安全が確認された地域では、農家から高値で買い付けようとする動きもある」(同)という。

 

◆産地づくりと品質向上こそ


 こうした震災と原発事故の影響を見込んで米流通の業界では、西日本の米の引き合いが強くなるのでないかと言われきた。
 実際、九州のJAの担当者はすでに触れたように新規業者も含めて販売の依頼があったという。また、これまで取引きのあった業者からも販売量を増やす依頼などもあるという話だ。「昨年とはまったく販売環境は違う」。
 ただし、一様に新規業者との取引きを積極的に進めることはしないという。福岡県のJAでは集荷する米の7割以上が収穫前契約などですでに販売先との結びつきが決まっているという。「特別な販売活動はせず、安定供給することが大事」という。また、販売価格についても市況価格に合わせた価格交渉を進める方針だが、価格引き上げにともなう消費者の米離れを懸念する声もあった。販売担当者は実感として「5kg2000円を目安に消費者がどう反応するか」が気になるという。
 また、23年産米へのニーズがいくら高くても、麦、大豆を含めた水田農業全体として安定させることが変わらない基本だとするJA担当者の指摘もあった。こうした取り組みのなかで、主食用米の生産は「品質を向上させ、継続的に取引きをしてきた販売先に約束どおりきちんと安定供給していくことだけを課題としている」とある九州のJA担当者は強調した。
 震災と原発事故の影響で西日本の米に対する引き合いが強くなったとされているが、産地のJAでは、契約栽培的な取引を拡大するなど、「作ってから売る」から「売り先を決めてから作る」という取り組みをこれまでに着実に進めてきていることが改めてうかがえた。

 

◆原発事故の影響、不安ぬぐえず


 一方、被災地の現状はどうか。本紙では6月に宮城県のJAいしのまきを取材し津波にあった農地を除塩し米の作付けを継続させた生産者をレポートした(関連記事)。「絶対に米を収穫する」と語っていた北上川沿いの農地で田植えを行った中野集落の米の生育は、JAによると順調に生育、台風15号の影響で刈り取り作業は遅れたが10月初めには収穫できる見込みだという。
 JAいしのまきとしての米初検査は9月26日に迎えた。1等比率は85%だったという。津波被害で壊滅した農地も多くJAの集荷量は例年の9割程度にとどまる見込みだが、県本部を通じた販売契約はこれまでと同様に継続して取引される見込みだという。
 ただし、福島県では不安はぬぐえない。県全体の作況指数は天候もおおむね良好で102が見込まれている。県内のあるJAには例年より30%以上も多く生産者からの出荷契約が積み上がっているという。
 しかし、放射性物質の予備調査、本調査の結果を待たなければ出荷はできない。一部地域の予備調査で暫定規制値を超えたセシウムが検出されたため、今後の結果が注視される(関連記事「予備調査で500ベクレル/kg超を1点検出 福島県の米調査」)。
 同JAでも22年産米については直売所で売るものも不足する状況だったが、23年産については不透明だ。とくに暫定規制値以下の微量の検出だったとしても、その安全性に消費者の理解が得られるかどうかが気がかりだという。
 JAへの出荷量は増える見込みだけに、保管・管理に加えて販売努力も例年以上に求められる。そのために少しでも早く販売努力をしたいところだが、検査結果待ちで「販売への取り組みは遅れているのが実情」だと打ち明ける。
 また、22年産米が相当に買いだめされているとすると、23年産米の安全性が確認されて出荷できても「販売進度が遅くなるのではないか」との懸念もある。
 別の東北のJA担当者は「例年は作柄と品質で、ある程度、米販売の先が見えたが、今年は放射能問題で先が見えない。米検査が始まって1週間たったが、さまざまな問題を考えてしまい、これほど長く感じた1週間はなかった」と話していた。

(2011.10.03)