コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
友愛の鳩山農政と信念の小沢農政

 いまの民主党農政には2つの流れがある。1つの流れは、友愛社会を理想とする鳩山農政ともいうべき流れである。友愛とは自立と共生だという。これは協同にきわめて近い。
 もう1つの流れは、自由貿易を信念にする小沢農政ともいうべきものである。信念先行型で協同とはやや距離をおく。
 主流は小沢農政である。「ドブ板選挙こそ民主主義」といって、現場主義を唱えているが、実際はそうではない。「政治家は信念をつらぬけ」という信念をもっているのはよいが、現場から学ぶ姿勢がない。
 信念と権力を併せ持っているので、先日の秋田県での減反割り当て問題の処理にみられたように、時には現場の大多数の農業者の意向を無視した、信念の押し付け、つまり強権型になる。困ったことだ。

 一番に問題なのは、輸入自由化に対する信念である。このため、新政権の看板的役割をしている戸別所得補償制度に、農業者が拭いがたい大きな不安を持っている。
 自由化しても食糧安保や農業振興を損なうことは行わないというが、自由化の影響を甘くみているようだ。
 米を考えたとき、もしも、自由化による米価の下落幅が数十%程度なら、戸別所得補償制度が有効に働き、そうしたことが出来るかもしれない。しかし、実際には、米価は止めどもなく下がり、玄米60kg当たり3000円程度にまで下がると予想される。そうなった時、この制度の補償金は膨大な金額になり、大混乱に陥るだろう。

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 この戸別所得補償制度は、その目的が食糧自給率の向上であることを明確にしたこと、農家所得をこれ以下に下げないという、いわゆる岩盤を作ったこと、兼業農家や高齢農家を冷遇する選別政策をやめて補償の対象にしたこと、これらは高く評価できる。農業者に夢と希望を持たせた。
 しかし、すこし長い目でみたとき、輸入自由化を大前提にしていて、米価下落に対する有効な対策がない。これが重大問題だ。
 農業者が抱く、自由化のための米価引き下げという不安を一掃するには、自由化の大前提を取り除かねばならない。なにもかも輸入を自由化するという信念に基づく政策が、わが国の米生産におよぼす影響を、見誤ることなく、かつ具体的に検討し、この信念を修正するという柔軟な姿勢を示すことだ。
 もしも、自由貿易批判を禁忌として抑圧し、あるいは、その点で思考を停止するなら、民主党農政は国民の支持を失うだろう。
 民主党に望むことは、これまでわが国が国際交渉で一貫して主張してきた、各国の農業が共存することを互いに認めあい、他国に農産物の輸入自由化を要求すべきでない、という共生の政策を基本政策の高い次元で公約することである。

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 もう1つは、秋田問題のときに見せた強権的な対処である。過去に減反非協力だったことは問題にしないという姿勢は、政権が交代したし、政策も大転換したのだからよいだろう。しかし、こうした激しい変化に現場の農業者は戸惑っている。
 こうした時こそ現場主義を発揮すべきだったろう。現場側が提起した激変緩和策を強権的にはねつけ、農水省の高官を現地に派遣して高圧的に説得するのではなく、現場の声を謙虚に聞き、農業者が納得できるような激変緩和策を、なぜ模索しなかったのか。
 そうすれば、その過程で民主党農政がさらに良いものになり、広く深く支持されたろう。また、弱いといわれる民主党の地方組織を強化することも出来たろう。
 ここでも、信念主導で独りよがりの民主党農政が、農業者に不安を抱かせ、混乱させている。こうした弱点を是正するために、もう1つの流れである共生を基礎にした農政の復権を期待したい。
 鳩山農政か小沢農政かではなく、両者の良いところを生かした、充分な、しかも信念ではなく、実態の分析を基礎にした論争で、民主党農政を磨き上げてほしいものである。そうすれば、国民の支持はもっと強固なものになるだろう。


(前回 戸別所得補償制度の欠陥

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(2010.02.08)