先月末に発表された新しい農業基本計画をみても、民主党農政は自由貿易のくび木から逃れられないようだ。小沢幹事長の信念に従って、貿易政策では市場原理主義を信奉しているようだ。そのために戸別所得補償制度を創ったのではないか、という疑念があり、危惧がある。
米について考えよう。民主党は、米も輸入を自由化しなければならないという考えで、自由化したばあいの悪影響は、戸別所得補償制度で打ち消すことができる、というのが農政の根幹にある。そんなことができるだろうか。
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2つの場合に分けて考えよう。1つは内外価格差が20%程度で、小さい場合である。もう1つは内外価格差が80%程度で、大きい場合である。
内外価格差が20%なら、農家は市場から米の代金として収入の80%が得られ、戸別所得補償制度で収入の20%が補助される。そうして生産費を償い、再生産を保証する、というのである。この程度なら国民は納得するし、農業者の誇りが傷つくことはないだろう。
民主党がこのように考えているのなら、それは事実の誤認である。内外価格差が20%という想定は、事実と違う。民主党農政は事実誤認のうえに成り立っている危うい政策だ、と言わざるを得ない。
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事実は以前この欄でやや詳しく述べたが、内外価格差は80%程度である。だから農家の収入の内訳は、市場からの米代金は僅かに20%で、大部分の80%は戸別所得補償制度からの補償金になる。農家はそれだけの多額の補償金がないと、生産費が償えず、再生産ができなくなる。こうした事態を国民は納得しないだろう。農業者も誇りが傷つき、容認できないだろう。
財界と、その代弁者に堕ちた一部のマスコミは黙っていないだろう。財源がない、といって戸別所得補償制度の縮小を迫るだろう。しわ寄せは農業者がかぶることになる。
そして、この制度はやがて破綻するだろう。破綻の様相は、米生産の衰退、食糧自給率の低下になって、食糧安保を脅かすことになるだろう。
だから、輸入自由化の影響を戸別所得補償制度で打ち消すという政策は、農業者だけでなく、多くの国民から否定されるだろう。
民主党は貿易政策で市場原理主義を捨て、内外価格差の大きさについての甘い見通しを、ただちに改めねばならない。では、なぜ内外価格差はこれ程までに大きいのか。次稿で述べよう。
(前回 基本計画達成に向かって国家の責任・・・角屋 正治さんの農政論)
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