コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
戸別所得補償制度の危うさ

 民主党農政の自由貿易に対する信奉は、いまも変わらないようだ。昨年の選挙公約では「貿易・投資の自由化を進める」が「食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わない」というものだった。
 この公約は、2通りに解釈できる。1つは、農業に悪影響を及ぼすような自由貿易政策は採らない、という解釈と、もう1つは、自由貿易政策を採るが、悪影響があった場合には、戸別所得補償制度で悪影響を打ち消す、という解釈である。
 民主党は、自由貿易を信奉しているので、前者の政策ではなく、後者の政策を採ろうとしているようだ。これは事実誤認に基づくもので、ここに民主党農政の危うさがある。

 先月末に発表された新しい農業基本計画をみても、民主党農政は自由貿易のくび木から逃れられないようだ。小沢幹事長の信念に従って、貿易政策では市場原理主義を信奉しているようだ。そのために戸別所得補償制度を創ったのではないか、という疑念があり、危惧がある。
 米について考えよう。民主党は、米も輸入を自由化しなければならないという考えで、自由化したばあいの悪影響は、戸別所得補償制度で打ち消すことができる、というのが農政の根幹にある。そんなことができるだろうか。

 ◇

 2つの場合に分けて考えよう。1つは内外価格差が20%程度で、小さい場合である。もう1つは内外価格差が80%程度で、大きい場合である。
 内外価格差が20%なら、農家は市場から米の代金として収入の80%が得られ、戸別所得補償制度で収入の20%が補助される。そうして生産費を償い、再生産を保証する、というのである。この程度なら国民は納得するし、農業者の誇りが傷つくことはないだろう。
 民主党がこのように考えているのなら、それは事実の誤認である。内外価格差が20%という想定は、事実と違う。民主党農政は事実誤認のうえに成り立っている危うい政策だ、と言わざるを得ない。

 ◇

 事実は以前この欄でやや詳しく述べたが、内外価格差は80%程度である。だから農家の収入の内訳は、市場からの米代金は僅かに20%で、大部分の80%は戸別所得補償制度からの補償金になる。農家はそれだけの多額の補償金がないと、生産費が償えず、再生産ができなくなる。こうした事態を国民は納得しないだろう。農業者も誇りが傷つき、容認できないだろう。
 財界と、その代弁者に堕ちた一部のマスコミは黙っていないだろう。財源がない、といって戸別所得補償制度の縮小を迫るだろう。しわ寄せは農業者がかぶることになる。
 そして、この制度はやがて破綻するだろう。破綻の様相は、米生産の衰退、食糧自給率の低下になって、食糧安保を脅かすことになるだろう。
 だから、輸入自由化の影響を戸別所得補償制度で打ち消すという政策は、農業者だけでなく、多くの国民から否定されるだろう。
 民主党は貿易政策で市場原理主義を捨て、内外価格差の大きさについての甘い見通しを、ただちに改めねばならない。では、なぜ内外価格差はこれ程までに大きいのか。次稿で述べよう。


(前回 基本計画達成に向かって国家の責任・・・角屋 正治さんの農政論

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(2010.04.21)