翌日の午後、さっそく藤村修官房長官が、この懸念を否定した。TPPの準備会では医療については議論されていない、という根拠である。
伝えられるTPPの24の部会の中には、医療だけを取り上げた部会はない。そのことを言っているのなら意味がない。やがて、労働や金融サービスなどの分野で医療について議論されるだろう。それさえも否定するなら、その根拠を示さねばならない。
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また、14日に民主党の前原誠司政調会長が、講演会で、「TPPの慎重論の中には・・・事実でないことについての恐怖感」がある と発言し、TPP推進を繰り返した。自ら「TPPおばけ論」といっている。
いかにもタカ派らしい発言だが、「事実でないこと」とは具体的に何をさして分からない。これでは議論にならない。
慎重派は恐怖に基づいているのではない。怒りを込めて慎重論を唱えているのである。このことだけを言っておこう。
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以下で、やや詳しく取り上げるのは、岡田克也元外相の発言である。
元外相は、13日に都内の講演会で「日本が(TPPに)入るか入らないかがアメリカにとって非常に大きい。日本が入らないとなると、いろんな議論が起こりうる」と言った。つまり、アメリカの言うことを聞かないと、ひどい目にあうぞ、といって、国民を恫喝したのである。
アメリカの仕返しに対する、まさに恐怖感に駆られて恫喝したのである。元外相であるだけに、この発言は重い。
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この発言の前に、2国間の経済協定か、多国間の経済協定か、は議論があっていい、といった。
だが、そんな議論は、雲の上の、のんきな抽象論に過ぎない。いま日本を揺るがしているのは、TPPに参加するか、しないか、の議論である。
TPPは、ただの多国間経済協定ではない。アメリカを盟主に仰いで、全ての関税を廃止するという「高いレベル」の貿易自由化を目ざした協定なのである。しかも物の貿易だけに限らず、労働やサービスの国際間移動の自由化という貿易政策の根本的な変更、さらに国内制度をも変更させようというものである。
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このように、TPPは、これまでのFTAやEPAとは全く違う協定なのである。このことを元外相は知り尽くしていて、その上で、アメリカ外交への恐怖感を述べたのだろう。
恐怖を拭う方法は、アメリカの世界経済制覇への協力だ、といいたいのだろう。それは台頭しつつあるアジアに対する経済侵略である。日本は、そのために目下の協力者にならねばならぬ、というのである。
目下とは、相手が要求することを、何でも全て受け入れて庇護を求める、という意味である。ここには、アメリカの力を背景にした、いわゆる砲艦外交に怯えて、農業や医療、つまり、国民の食糧や健康などを犠牲として相手に差し出す、という卑屈な姿勢がある。元外相は、アメリカの、このような恫喝を、代理人のように、そのまま国民に転嫁したいのだろう。
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もしも仮に元外相がいうとおりになったと仮定して、アメリカの砲艦外交が成功すれば、こんどは砲口を韓国に向けるだろう。韓国は、いまのところTPPに興味を示していないが、やがてアメリカは、韓国を恫喝してTPPに加盟させるだろう。そうなれば、東アジアに強大な経済圏ができる。アメリカを盟主にし、「価値観を共有する」経済ブロックができる。そして、価値観が違うブロックと対立する。
こうした動きは、互いに反目しあう、世界のブロック化を招来する。そして、第2次世界大戦の前夜の、きな臭い状況になる。
元外相は、こうした動きに加担しようと考えているのだろうか。
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最後になってしまったが、慎重派の動きを付け加えたい。民主党のある会合では、役員の構成が推進派に偏っていることに慎重派が異議を唱え、ついに実質的な議論に入れなかった。推進派は強引に会合を運営して、TPP参加を結論にしたいのだろう。警戒すべきことである。
また、野党の自民党内の慎重派の動きが、先週は鈍かったことを記しておこう。
(注1 日本政府のTPP 参加検討に対する問題提起―日本医師会の見解― )
(前回 TPP推進派巨頭の経団連会長が暴言)
(前々回 TPP参加を主張する経団連と連合)
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