これは、17日の内閣記者会での発言で、「高いレベルの経済の連携をしていくことは、日本にとってプラスである・・・(農業についての)懸念を1つ1つ・・・説明をしていく」というものである。
「高いレベル」は、単なる修飾語ではなく、TPPにつく枕詞である。だから、発言の前半は、「TPP参加は、日本にとってプラス」と同じ意味である。
まさか、首相は、TPP参加に懸念を示している農業者や医師などは日本人でない、と考えているのではないだろう。
では、いったい、この発言の根拠は何か。説明がないから、推察するしかない。
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首相は、TPPは農業にとってもプラスになる、と考えているのかもしれない。この考えをはじめに検討しよう。2つあるが、ともに現実ばなれした考えである。
1つは、規模を拡大し、コストを下げて国際競争に勝つ、という考えである。こうした選別政策による規模拡大は、以前の自民党の小泉路線の政策である。この政策と決別したからこそ、政権交替ができたのである。また、かりに規模拡大ができたとして、国際競争に勝てるのか。
これは、米作などの機械化農業についての政策と思われるが、実態を知っている大部分の人は、不可能と考えている。
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もう1つは、品質を良くして国際競争力をつけ、輸出すればプラスになる、という考えである。果実などの一部は、首相がいうまでもなく、すでに数十年前から輸出している。
だが、農業の根幹にある米については不可能である。数十年前から「攻めの農政」という名前で喧伝されてきたが、いまだに成果がない。
こうしたことが出来るなら、とうの昔に実現していただろう。これまで何故できなかったか、を考えてもらいたい。机上で見果てぬ夢を語るのではなく、現実の実態を見てもらいたい。
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首相は、TPPは農業にはマイナスになるが、他の分野で、もっと大きなプラスがある、という考えかもしれない。この考えを次ぎに検討しよう。そうならそうと、丁寧に発言すべきである。
この考えも2つに分かれる。2つとも賛同できない。
1つは、与党の前原誠司政調会長のように、農業でのマイナスを放置して、農業に犠牲を強いる考えである。タカ派らしい乱暴な考えで、これは論外である。
もう1つは、補助金を使って農業のマイナスを打ち消すという考えである。戸別所得補償制度の充実を考えているのだろう。
だが、TPPに参加して、関税をゼロにすれば、補助金の金額は膨大になる。それに耐えられるだろうか。財界がそれを許さないだろう。
また、そうなると、農業者の所得の大部分は補助金になってしまう。農業者は補助金に依存することになる。こうしたことは、農業者の心を蝕むだろう。
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TPP参加に懸念を抱いているのは、農業者だけではない。医療関係者も強い懸念をもっている。TPPに参加すれば、医療格差が広がり、医療難民が大量にでてくる、という懸念である。また、食品の安全が脅かされるという懸念もある。その他、雇用、金融、保険、政府調達など、さまざまな分野で深刻な影響を受け、日本の国のかたちが変わる、という懸念もある。
こうした懸念を全て否定することが首相にできるだろうか。しかも、参加か不参加か、を決める期限は来月の12日だという。農業者をはじめ、多くの国民は、首相の前のめりの決断を、決して許さないだろう。
(前回 TPP問題で恫喝する元外相)
(前々回 TPP推進派巨頭の経団連会長が暴言)
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