かつて、政治は、女性の農業者を0.8人前の単純労働者と考えていたことがある。また、高齢農業者も0.8人前と考えていた。ひと昔も前のことである。
いまの戸別所得補償制度は、それよりもひどい。女性や高齢者だけでなく、全ての農業者を0.8人前の単純労働者と考えている。ひと昔どころか、大昔の考えになってしまった。
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もちろん、そうではない。農業者は技術者である。しかも、生物学をはじめ、化学や機械工学などの広い知識をもつ高度な技術者である。さらに獣医師の資格を持っていたり、大型自動車の運転免許をもっている農業者も少なくない。その上、経営者でもある。
そうした高度な技術者を含めて、1人前以下の単純労働者と考えているのが、いまの戸別所得補償制度である。せめて1人前の労働者と考えるべきである。そのように制度を改善すべきである。
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問題は、戸別所得補償制度の補償単価の算定方法にある。
2年半前に政権交代したときの政権公約で、民主党は、「生産費」を補償する戸別所得補償制度を創設する、と公約した。この公約が多くの国民の支持をえて、政権交替をはたした。
「生産費」とは、いうまでもなく、農業者を1人前の労働者とみて算定するものである。高度な技術者ではなく、単純労働者とみている点に不満があるが、しかし、1人前と認めている。
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だが、その後、この考えは後退し、「生産費」が「生産コスト」に変わり、いまは「生産に要する費用」という訳の分からぬ名前に、すり変わってしまった。
いまの「生産に要する費用」の内容をみると、それは、農業者を1人前以下の0.8人前の単純労働者と見なしている。そのように見なした労働費で「生産に要する費用」を算定している。
この算定方法は、不公正である。3党協議は、まず、この点の是正から始めなければならない。
(前回 大震災と原発事故から何を学ぶか)
(前々回 大新聞が農業を報道する浅薄な姿勢)
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