同社説は、TPPをアジア太平洋地域の通商の基盤にする、という。だが、アジアでTPPに加盟している国は、いくつかの、いわば小国だけである。中国やインドネシアやインドは、加盟してもいないし、加盟しようともしていない。TPPというアメリカ型の通商に、好意をもっていないからである。
アメリカ型通商の見本は、韓米FTAである。いま、韓国は、通商だけでなく、国内の経済制度や、社会制度までもアメリカ型にしようとしている。韓国のアメリカ化である。
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アメリカは、韓国のアメリカ化を、さらに広げて、アジア太平洋地域の国々をアメリカ化しようとしている。その手段が、TPPである。それを、周囲のアジア諸国は、冷たい目で注目している。
冷たい目で見ているだけではない。TPPとは別に、アセアンを中核にした通商基盤のFTAAPを構築しようとしている。
こうした状況の中で、日本は、アジアに背を向けて、アメリカに追従せよ、というのが同社説の主張としか思えない。
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もう1つの主張は、大規模化の主張である。その政策手段は戸別所得補償制度だという。ただし、戸別所得補償制度を根本的に変更して、大規模化を進めるような制度にせよ、という主張である。だが、戸別所得補償制度と大規模化は、互いに相容れない。
ひるがえって思い起こすと、戸別所得補償制度は、制度の目的である食糧自給率の向上に貢献する農家は、規模の大小にかかわらず、全て制度の対象にする、というものだった。これが、多くの国民の支持をえて、政権交代を果たしたのである。
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しかし、同社説では、戸別所得補償制度をバラマキだ、と批判している。これは、小農切捨論である。
この議論は、大昔から繰り返されたものである。だが、いまだに実現できない空論である。多くの国民の支持がえられないからである。いったい、切捨てられた農業者は、どうすればいいのか、を示せないからである。
そして、またしても同社説は、反省もなく同じ主張を繰り返している。
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大規模化の、もう1つの欠陥は、大規模化によって、ゼロ関税のTPP体制の中で、日本の農業が存続できるか、そして、食糧安保を確保できるのか、という疑問に答えられない点にある。
同社説で想定している規模は、20haだという。だが、アメリカやオーストラリアの規模は、数100haである。それと競争しても勝てる、というのなら、その根拠を示さねばならない。だが、何もいっていない。
また、早くTPPに参加すれば、ゼロ関税の大原則の例外が認められるだろうし、猶予期間を設けることもできるだろう、という。だが、当てにならない。そうした当てにならないことに、日本農業の命運を賭けよ、というのなら、無責任というしかない。
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TPPは、韓米FTAよりも「高い水準」の自由化を目指している。韓米FTAでは、コメだけが例外になったし、猶予期間を設けた品目もある。しかし、日本は、コメさえ例外になればいい、というわけではないし、猶予期間を設ければいい、というわけでもない。
全中などが、TPP絶対反対を主張する理由は、ここにある。同社説は、生産者の主張に全く答えていない。だから、説得力がない。
残念なことだが、この社説には、大新聞の矜持が全くみられない。
(前回 TPP交渉で翻弄される日本外交)
(前々回 所得補償制度の欠陥、農業者は高度な技術者だ)
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