コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
「維新八策」でTPP参加を明記

 政治の停滞が続いている。「近いうちに」衆議院を解散し、総選挙をすることになっているが、いつになるのか分からない。
 次の選挙で落選しそうな議員は、なるべく先へ延ばしたい、と考えている。そうした議員が民主党に多い。自民党も同様だが、元議員や前議員は返り咲きをねらっているので、早く選挙をしたい事情もある。だが、解散は首相の専権事項なので、手も足もでない。
 こうした低次元の事情で政治が停滞している。それだけ福島の苦難が長引いている。
 次の総選挙の争点は、TPPと原発だろう。それに消費増税とオスプレイが加わるだろう。そして、橋下徹大阪市長が台風の目になるようだ。橋下市長は市場原理主義者だからTPP推進派である。

 橋下市長が率いる大阪維新の会は、31日に維新八策の最終案なるものを発表した。今週の8日に正式決定するという。その中で注目すべきことは、「TPP参加」を明記したことである。
 TPPに参加すれば、日本の農業が壊滅する、という議論は聞いているだろうが、この政策案には、農の字がどこにもない。かなり詳細な政策案だが、農業や農村については何も語っていない。日本に農業はいらない、とでも考えているのだろうか。
 この会は、地域の政治集団から国政に進出して、国民政党になろうとしている。だから、どのような農業・農村政策を持っているのか明らかにすべきである。農村での支持はいらない、とでも考えているのだろうか。

 TPPに参加すれば、国民皆保健が崩壊し、医療難民が続出する、という議論は聞いているだろう。だが、この政策案では「混合診療を完全解禁」する、と言っている。カネさえ出せば、高度な治療を受けられるが、カネが無ければ受けられないという、いわゆる自由診療を拡大することになる。それは、保健診療の縮小になる。
 そうすれば、病院の経営が良くなるし、カネ持ちが喜ぶ、というのだろう。こうした考えは、TPPの底に流れる考えである。それは、経済的弱者を政治の対象から外し、貧富の格差を拡大する市場原理主義の考えである。

 原発については、「脱原発依存体制の構築」というだけである。なぜ、「脱原発依存」で、「脱原発」と言い切れないのか。
 政府は、以前から「脱官僚」と言い切らずに、「脱官僚依存」といってきた。官僚は必要だが、依存するのはよくないから脱する、というのである。そういいながら、いまだに脱していない。
 この政策案は、原発は必要なもの、と考えているのだろうか。
 大多数の国民は、そう考えていない。先日の政府の大規模な世論調査で分かったように、87%の国民は、原発をゼロにせよ、と要求している。

 その上、「体制の構築」という。これから体制を構築し、その後で原発依存から脱する、というのだろう。
 そうではなくて、今の体制で今すぐに出来ることを、政治がしていないことに、多くの国民は強い不満をもっている。
 毎週、金曜日の夕方、多くの国民が首相官邸の前に集まって叫んでいるのは、大飯原発を今すぐに止めよ、という要求だし、新しく原発を再稼動することに反対、という主張である。それは、かつての橋下市長の主張でもあった筈である。それがいつの間にか、聞こえなくなった。

 教育への市場原理の導入も見逃せない。
 食糧や医療や教育さえも、市場原理に任せる、というのがこの政策案の基本理念である。この結果は、食糧安保を脅かし、医療崩壊を招き、人間性を毀損し、さらに、貧富の格差を拡大させるだろう。「解雇規制の緩和」を明記していることも見逃せない。これらは、いままでの歴代政府の悪しき政策を加速させるだけだろう。
 こうした政治から脱出したい、というのが多くの国民の願いである。この願いを「維新八策」は、踏みにじるものと言わざるを得ない。
 多くの国民は、全国の各地で行われているTPP反対の集会や、脱原発のデモでの要求に応える、新しい政党や政党連合との連帯を求めている。「維新八策」は、それに背を向けている。

 

(前回 原発推進派に加担するマスコミ
(前々回 脱原発デモに戸惑う首相

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(2012.09.03)