民主党をみてみよう。主流派はTPP推進の考えだが、慎重派も少なくない。これほどの重要政策について、党内の意見が一致していない。
推進派は、アジア太平洋地域の経済を統合するための、1つの道筋がTPPだ、という。だが慎重派は、それが旨くいくだろうか、という懸念をもっている。中国やインドなど、アジアの主要な国々は、アメリカが盟主のTPPに加盟する意志を持っていないからである。
最近、尖閣諸島の問題が重大化し、それに伴って日米同盟の強化を言い出す人が多くなった。これとTPP問題は無関係でない。盟主のアメリカとの関係をどうするか、という問題である。
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一方、自民党はどうか。大多数がTPP慎重派である。だが、その主張は対立する民主党を意識してのものではないか。「慎重に」という前に、必ず「自由貿易は大事だが」と言い訳をいう。自由貿易は大事だが、関税ゼロの原則は認めない、という。
では、コメさえ関税ゼロの原則を除外すればTPPに加盟する、という主張なのか。それとも、食糧主権は断固として守る、というのか。そして、食糧自給率を向上させる、というのか。
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両党の慎重派は、TPP参加交渉の情報公開が不十分だ、ともいう。だが、それは慎重論の根拠にならない。
外交交渉の交渉過程の情報を、充分に公開することはできない。だから、予想するしかない。この場合、予想の重要な手がかりは、韓米FTAである。韓国はコメを除いて、他の農産物はずべて関税ゼロにした。
TPPは、「高いレベル」の自由化というのだから、韓米FTAよりも「高いレベル」になるだろう。だから、TPPに加盟するには、せいぜいコメだけが関税ゼロを免れ、他の農産物は全て関税ゼロになる、という覚悟が必要である。
両党の慎重派が求められるのは、これに反対する覚悟である。それがあいまいだから、「反対」ではなく、「慎重」というのだろう。
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農業だけではない。韓米FTAによって、韓国の医療格差は目を覆いたくなるほどに広がった。低所得者は充分な医療が受けられなくなった。TPPに加盟すれば、日本の医療格差は、韓国以上の「高いレベル」になるだろう。低所得者は充分な医療が受けられなくなる、という覚悟が必要である。
政府は、医療制度はTPP交渉の対象になっていない、今後も対象にならないだろう、という。だが、アメリカがこの分野に強い関心を持っていることは、これまでの日米交渉の過程で明らかである。だから、やがてTPP交渉の対象になるだろう。甘い予想はできない。
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両党は、TPPに対して推進か慎重か、ではなく、TPPがよって立つ市場原理主義に賛成か反対か、という点を明確に示さねばならない。そして、市場原理主義がもたらした経済格差を放置するのか、解消するのか。「国のかたち」を市場原理主義の一色に染め上げるのかどうか。この点で党内の意見がまとまらないのなら、近い将来に予想される政界再編で、市場原理主義政党と反市場原理主義政党に分かれるのがいい。
多くの国民の期待は、そこにある。党内の不毛な抗争の根源を絶つことにある。
(注 日本記者クラブでの討論会、民主党は ココ、自民党は ココから。)
(前回 原発ゼロ政策の後退)
(前々回 党首選のTPP語録)
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