公約の本文に続いて「政策BANK」という名前の詳論がある。
ここでも食糧安全保障は、小見出しにあるだけで、文中にはない。食糧自給率は「向上」ではなく、「維持向上」になっている。「維持」しただけでも、公約を果たしたことになる。
ここにも、前回の公約、つまり、自給率を50%に向上する、という目標からの後退がある。
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農業者の最大の関心事は、TPPだが、これについては、木で鼻をくくったように「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP参加交渉に反対します」というだけである。これでは、韓米FTAのように、コメさえ聖域化できれば賛成だ、とも受け取れる。
自民党は外交に自信があるようだ。コメの聖域化にも自信があるのだろう。だから、ここでいう反対は賛成と紙一重の差しかないのではないか。薄い紙の下に賛成の字が透けて見える。
TPPは農業の問題だけでなく、食品の安全や医療や雇用の問題であることを、どう考えているのかも分からない。
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詳論の具体的な政策の公約の中で、戸別所得補償制度の廃止を公約している。いまの民主党農政の柱であるこの制度を根元から倒す、というのである。僅か4年足らず続いただけになる。まさに猫の目農政の復活である。
それに代わって、多面的機能直接支払制度と担い手支援制度の創設を公約している。多面的機能といっても、そこには食糧安保は含まれず、「農地を農地として維持する支援策」だけのようだ。コメを増産し、飼料やパンやメンの用途で使い、自給率を向上する、という考えはない。
戸別所得補償制度には、いくつかの問題がある。しかし、自給率を向上させることを目的にし、生産費を補償して再生産を確保する、という高く評価すべき点がある。これを廃止すれば、自給率の向上による食糧安保は図れないだろう。
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担い手支援というから、小規模農家や高齢農家は支援しないのだろう。
前回の衆議院選挙で自民党は、「農地面積や年齢などに関係なく、意欲ある農家の経営を最大限にサポートし…」と公約していた。
また、これまでの民主党農政も、自給率の向上に貢献する農家は、規模の大小にかかわらず、また、年齢の如何にかかわらず、全ての農家を農政の対象にした。「主要穀物等では完全自給をめざす」とまで言った。
今度の自民党の公約は、農家を担い手と、それ以外に選別し、分断し、担い手だけを支援して競争力を強めるという。市場原理主義農政に戻る、というのだろうか。
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支援されないで切り捨てられる農業者は、どうしろというのだろうか。
農村社会は共同社会である。分断政策や選別政策は容認しないだろう。農村は競争よりも協同を尊ぶ。「1人は万人のために、万人は1人のために」なのである。
農村はこの公約を受け入れるだろうか。
今度の衆議院選挙の公約は ココ
2009年の衆議院選挙の公約は ココ
(前回 TPPに対する各党の政策)
(前々回 新しい農業攻撃が始まった)
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