TPPの文字はないが、各論の中で、環太平洋パートナーシップ、つまりTPPに一言だけ触れている。引用しよう。
「アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指し、その道筋となっている環太平洋パートナーシップ、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携を同時並行的にすすめ、政府が判断する。その際、国益の確保を大前提とするとともに、日本の農業、食の安全、国民皆保険などは必ず守る。」
これが、TPPについての公約らしいものの全てである。
◇
いくつもの問題がある。
これは、党としての公約ではない。全てを白紙で政府に任せる、という無責任なものである。そのとき民主党が政府与党でなかったら、どう責任をとるのか。党の執行部に一切を任せる、というのなら、そのように言わねばならない。
それにしても、TPPほどの重大な政策、つまり、日本農業の存亡をかけた政策、国のかたちを変えるほどの政策に対して、党としての政治判断を逃げた無責任は、国民を愚弄するものとして、長く歴史に残る汚点になるだろう。
また、TPPが目指すアジア太平洋自由貿易圏と、日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が目指すものとは、まるで違う。このことが分かっていない。
◇
TPPは、アメリカが主導して、高圧的にゼロ関税を迫るものである。加盟国の食糧主権を奪い、また、国内制度に干渉して、国家主権を侵害しようとするものである。
これに対してRCEPは、アメリカを排除し、東アジアに限り、ASEANが中心になって、各国の食糧主権などの国家主権を尊重しながら、経済協力をすすめるものである。
それゆえ、これらを同時並行的にすすめることには無理がある。行き先が違うのである。
その上、こうした世界経済のブロック化が、世界の紛争の根源になることへの配慮が、全くない。
◇
「国益の確保を大前提とする」というが、それは当然のことである。
なぜ、当然のことを、わざわざ言うのか。何かやましいことがあるのではないか、と邪推したくなる。
そこには、財界の利益のため、また、アメリカの利益のために、大多数の国民の利益を犠牲にする、というやましさがあるのではないか。
◇
「日本の農業…は必ず守る」という。1.5%の一次産業は犠牲になれ、という政策は採らない、というのだろうが、これも当然である。
日本の農業を守るとは、いったい、どういうことか。
農業政策の公約のなかで、「食料自給率50%をめざす」という文言は、かろうじて残ったが、食糧安保の字は消えた。これは、明らかな後退である。
もしも、食糧安保を考えるなら、食料自給率50%をめざした農業振興をはかるために、TPP反対を公約しなければならない。
民主党の選挙公約は ココ
(前回 自民党の農政公約の後退)
(前々回 TPPに対する各党の政策)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)