もちろん、国際競争力を考えるときは、小売価格どうしでなく、輸入価格と卸売価格とで比較すべきだが、それでもこの差は、ほとんど縮まらない。5倍以下にはならないだろう。
だから、TPPに参加して、その大原則どおりに米の関税をゼロにすれば、日本の米は壊滅するだろう。食糧自給率は極端に下がり、食糧安保は危殆に瀕するだろう。
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米の関税がゼロになっても、輸入米はそれほど安くないから、競争しても日本米は充分に勝ち残れる、と専門家を名乗る論者がいる。
この人は、上の事実を知らないのだろう。専門家どころか現実を知らない空想家にすぎない。空論といわれても、しかたがない。そして、マスコミが悪乗りして、この空論をふりまいている。
いや、何者かがマスコミを操っているに違いない。先日のNHKのテレビ(23日9時からの「日曜討論」)では、TPP推進論者だけを集めて、TPP参加をブチ上げていた。これが、「民主主義国」である日本の公共放送の、嘆かわしい実態である。
マスコミがTPPを論ずるなら、そんな空論ではなく、輸入米は安くて旨い、という実態を基にして、正しく伝えることが社会的責務である。
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日本は、TPPの盟主のアメリカと価値観を共にするという。共に自由と民主主義の国だという。だから、日本はTPPに参加し、アメリカと組んでこの価値観をアジアに広めるのだという。
そうだろうか。民主主義の基礎には、言論の自由がなければならない。だが、いまの日本に言論の自由はない。公共放送が、TPP反対の言論を押しつぶしている。これでは、日本は民主主義の国ではない。あのヒットラーでさえ「民主的」な選挙で選ばれて総統になったのだ。
また、日本は自由の国だろうか。誰にとっての自由か。それは、経営者にとって、労働者を解雇する自由であり、賃金を引き下げる自由ではないか。労働者にとっては、非正規労働者になる自由であり、生活水準を切り下げる自由ではないか。そうした考えの経営者が財界を牛耳っているし、連合などの労働組合は、そうした労働者に見向きもしないで、TPP推進を主張している。
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TPPに参加して、アジアの経済成長の成果を取り入れるという。だが、かりにTPPに参加しても、資本がアジアへ流出するだけだろう。国内には投資しないだろう。国内は賃金が「高い」からだという。だから、アジアの成長の成果が、日本の労働者の上に「滴り落ちる」という一部の学者の説に期待するのは甘い。
かりに、国内に投資するとしても、賃金の引き下げや、安い外国人労働者の受け入れを要求するだろう。財界は、こんどの春闘で定期昇給さえ拒否するし、安い外国人労働者の受け入れを、以前から執拗に要求している。
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いま、日本が進むべき道は、この道ではない。企業の海外流出を進める道でもないし、賃金を下げることで国際競争力を強める道でもない。技術力を高め、高度な技術力でアジアの発展に貢献する道である。
先端的な技術者に任せておけばいい、というものではない。日本には、底が広くて深い技術者が層を作っている。こうした技術者と、それを支える労働者と、つまり、全ての労働者が、技術力を高めることに専心できるようにしなければならない。そのために、雇用を安定させ、利益を労働者にも多く分配することが、経営者の社会的使命である。
この使命を先輩の経営者たちは立派に果たしてきた。そして、農村に安定した雇用を生み出してきた。彼らは、賃金を下げることしか考えない今の経営者を、どうみるだろうか。TPPに加盟して、農業・農村を、さらに、医療や雇用を破壊することに目をつむる今の経営者を、彼らは嘆くだろう。
新年は、財界が日本の進むべき道についてどう考えるか、が厳しく問われる年になるだろう。そして政治も。
(前回 第2極の再編を急げ)
(前々回 民主党公約のTPPかくし)
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