もともとの計画は盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領によるソウル一極集中を解消するための首都移転計画にある。しかし、韓国の憲法裁判所は2004年、ソウルは朝鮮王朝以来500年の慣習的首都であって、これは憲法に準じるものだとして「違憲」の判断をした。
その結果、大統領府と外務省、国会を残して他省庁を移転させる行政首都移転計画に修正を余儀なくされた。しかし、現在の李明博(イミョンバク)大統領は就任後、この計画の凍結を打ち出した。これには地方が「約束が違う!」と猛反発。政府機関移転による地域振興を当て込んでいたからだ。結局、現政権は計画を進めることに方針転換した。
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韓国の「霞が関」はソウルの南隣にある果川(クワチョン)市にあるが、この計画にそって日本の農林水産省にあたる農林水産食品部を含め中央省庁は、2014年から順次、忠清南道の大田(テジョン)へ移転する。
そのほかの政府機関、たとえば農村振興庁は釜山(プサン)に、韓国農村経済研究院は光州(クワンジュ)に移る。このように約60の政府機関を各「道」に5〜10ずつ分散させ、そこを「革新都市」にするという計画だという。
「ソウルへの一極集中を解消する劇薬処方です。しかし、これで集中が終わるかどうか……」。
こう話すのは今回の韓国取材でお世話になった韓国農村経済研究院の前院長、李貞煥(リー・ジョンウォン)さんだ。
理由は営業運転の最高時速305kmを誇る韓国高速鉄道(KTX)網の整備。ソウルと釜山の間は420kmほどあり、かつては4時間以上かかったが、KTX開通で、なんと2時間10分を切るダイヤまで登場した。
李さんは「これで逆にソウルの吸収力が高まった。病院でもデパートでもソウルまで行けばいいところがある、と地方の人は考えるようになったんです」。 日本でも、地元振興に役立つはずと歓迎した高速道路が「できあがってみたら、人が通過するだけの町・村になってしまった…」などという話も聞く。
今回の「劇薬処方」は韓国の「かたち」をどう変えるのだろう?
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