コミュニティの再生にどう協同の力を発揮するか?
3月11日の東日本大震災発生から約3か月。復旧・復興段階に入ったと言われるが、どう復興の姿を描くか――。
今村奈良臣代表委員は「農村地域をアグロポリス、フードポリス、エコポリス、メディコポリスとして再興すること」を提起した。農業だけではなく、食・環境・医療までを視野に入れた「100年先を見据えた」地域社会と農業づくりを課題として、そのためにJAも新しい路線を打ち出すべきとあいさつで強調した。
被災地JAの報告を受けた討論では▽「地震・津波被害からの復興」と「原発事故による損害対応」の二つを区分すること、▽復興計画など県・市町村行政とどう連携するか、▽放射性物質放出という事態のなかでの農産物の安全確保対策、▽大震災の対応から得られたJAグループの事業協力への教訓などが指摘された。
とくに議論になったのが今後の農産物の安全性について。JA新ふくしまの菅野専務は「生産者は苦悩している」と強調した。「基準値以下であればいいのか? 今までゼロだったのに本当にこれでいいのか…」と悩んでいるという。そのうえで土壌の安全性回復は絶対に(東電や政府に)求めていかなければならない。そうでなければ何十年も苦悩を背負うことになる」などと強調した。
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開催地となったJAいわて花巻の高橋専太郎組合長
【基調講演】
風評被害とは何か?
東洋大学・関谷直也准教授
関谷准教授は「風評被害」とは「うわさ」による被害でなく「ある社会問題が報道されることによって、安全とされていた食品、土地、企業などを人々が危険視し、消費や取引を止めることによって引き起こされる経済的被害」が定義だと解説した。
ただ、メディアの報道には、政府に対策をとらせることや各地からの支援の呼び水にもなる。しかし、一方で、科学的に危険性がないとされていても、とくに今回のように放射性物質が放出されていれば不安から消費者の買い控えも起きる。
関谷准教授は「風評被害」は防ぐことができないとして民事協定や基金制度、保険制度などを整備することが必要だと提起した。
その一方で安全なものを仕入れる計画流通の仕組みづくりや、正確な情報発信のためにキャンペーンに力を入れ通常の消費活動に戻していく取り組みも大切だと指摘した。
【報告1】
JA仙台の震災対応と復興への取り組み
JA仙台・鈴木清治常務
JA仙台では5月に復興本部を立ち上げた。基本方針の柱は(1)組合員の営農と生活を守る、(2)地域の農業再生と復興、(3)JAの事業と経営の確立、の3つ。
しかし、農地の被害は深刻だ。鈴木常務によると管内の耕地面積8549haのうち津波などの被害を受けたのは2167haにのぼる。大きな被害が出た若林区では宅地のがれき撤去は始まったが農地は7月ごろに手がつけられるかどうかだという。ヘドロが1〜10センチほども堆積していて「10センチなら1反で100トン。これの処理場がない。再生には10年かかるのではないか」という。その排水機場の損害で水を流せず県内では上流部で640haほどが作付できないという。
ただ、11戸の農家が参加した集落営農組織がJAの仲介による農地で野菜づくりを再開するなど復興への歩みも出てきた。
一方、JAとしての事業は震災以来、一切再開できず組合員対応に専念せざるを得ず、とくに職員は建更の査定に追われているという。こうしたなか7月末に総代会を開くことを決め復興に向けた取り組み方針や重点課題を柱として事業計画を決める。ただ、甚大な被害が出ているなか、財務状況は厳しく、JAへの資本注入など支援が急務だという。
【報告2】
大震災の恐怖と困難のなかで
JAいわて花巻・高橋勉専務
同JAでとくに大きな被害が出たのは沿岸部の釜石、鵜住居、大槌の3支店管内。
食料支援のため組合員に白米1升の提供を呼びかけたところ40トンほど集まった。それを毎日、花巻市から沿岸部の避難所に届けたという。現在も炊き出しを続けている。また女性部の毛布集め、花巻温泉からお湯を届け避難所に足湯を提供するなどの救援活動を行ってきた。
農地の被害は東部営農センター管内の20haが冠水した。しかし、地盤沈下もあってがれきは撤去されたものの営農再開はできない状況だという。
生活のめどが立たず金融・共済の臨時店舗を開設した沿岸部の支店には連日、相続やローンの相談が寄せられている。ただ、店舗の敷地には3月下旬にAコープの店舗、4月からは産直市再開のほか、ボランティアセンターも開設しにぎわいが戻ってきたという。
行政の復興プランが決まらないため拠点施設の再建もできない状況だが、今年度は組合員のつどい、後継者のつどいなどを被災地でも実施し、JAを拠り所に復興に歩み出したいという。
【報告3】
東電福島原発事故による農畜産物の汚染と農協の対応
JA新ふくしま・菅野孝志専務
JA新ふくしまは、計画的避難区域に設定された川俣町も管内に含まれる。
そのため川俣支店は6月3日に閉鎖。しかし、住民300名ほどはまだ地域に住み、農家には避難の意思がない人もいるという。菅野専務は、原発事故について「想定外の災害というが、それは自分で考えることを拒否してきただけではないか」と批判。また、「計画的避難」について政府の説明に住民は不満と不信を募らせており「いつ、どこに避難し、どういう生活を保障するのかといった計画がない対応」と厳しく指摘した。
原発事故発生で福島県は他の被災地にくらべ「地震・津波に加え原発事故と出荷制限、さらに政府の統治機能不全という5重苦にある」とした。こうしたなかJAは生産者の不安を吸収するため生産部会長会議を開くなどして意思を結集、直売所運営やネット販売による「がんばるパック」発売などに取り組んできた。
職員に対しても「非常時に前例はない」と強調、「『できない』ではなく『どうすればできるか』を発想の基本に」と指示してきた。 こうしたなかから炊き出し支援ではじめたおにぎりや弁当の供給をJAの事業として展開するようになった。また、直売所は福島市内への避難者8000人ほどの食の供給地という役割も出てきた。
この間、JAトップはラジオに出演。組織をあげて組合員の暮らしを守るメッセージを発信したり、HPも毎日更新し「見えない敵との闘い」に「がんばるJA」の姿を見せてきた。菅野専務は前例にとらわれず臨機応変に対応することが求められていると強調した。
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