食を担う農業構造の分析をもっと期待したい
◆今年の白書の印象
今年の白書の課題は東日本大震災と戸別所得補償政策の検証だ。 まず外見的な印象を述べておくと、昨年は分厚い白書だったが、今年は100ページほど減らして元に戻った。それでも1.1kgだから持ち運びは大変だ。従来は食料・農業・農村の3章だったが、今年は、自給率向上、食料の安定供給、農業の持続的発展、農村振興の4章仕立てだ。内容的には従来は農業の章だった作目別動向が自給率向上に移された。白書は徐々に食料に軸足を移していくのかも知れない。
内容的には、特集の東日本大震災を除きセールスポイントに欠ける地味な白書になった。しかし図表はしっかりしており、事例も適切で、情報として使える白書である。
◆被災農業者の生の声が聞こえない
東日本大震災の特集は、被害状況と農水省等の対応をまとめている。津波からの復旧は農地が39%、農業経営体が40%とされている。食品産業の被害を全国的に把握し、また国民の意識の変化を取上げ、4分の3が食料生産力の強化を挙げているとしている。食品備蓄の必要性については、東日本と西日本で若干の温度差が指摘される。このように食品産業や消費者への留意が目立つ。
原発事故の被害も詳細に把握されているが、稲ワラ汚染の行政責任には触れていない。また風評被害を取り上げたのは評価されるが、その定義は原子力損害賠償の審議会の「汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先による買い控え、取引停止により生じた被害」というもので、これでは実害と風評被害の区別があいまいである。生産者・消費者の対立にもなりかねない事柄なので、食料・農業を司る農水省としての定義が欲しい・・・。
(続きは 【特集】平成23年度農業白書を読む で )
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