◆総代の選出に苦労
同研究所は「農協の組合員制度とガバナンスにかかる研究会(主査:増田佳昭滋賀県立大教授)を設置し、23年度は「組合員の多様化とJAのガバナンス」をテーマとした。
調査は岩手、宮城、福島を除く673JAを対象に今年1月に郵送。2月までに317JAから回答を得た。
JAは集落を単位とする「農家組合」など、営農によって結合している職能組織を基礎組織としてきた。
今回の調査でも基礎組織が「ある」と答えたJAは81%、「部分的にはない」の11%と合わせれば基礎組織のないJAは例外的といえることが分かった。
こうした基礎組織の機能は「総代の選出」が81%とほとんどのJAが総代選出を基礎組織に依存していることが改めて浮き彫りになった。しかし、「集落内で農業を営む正組合員が減少」との答えは89%を占め、回答JAの4分の1が「総代の選出に苦労している」と答えた。
◆役員選出法に変更も
理事会体制をとるJAの場合、役員選出枠は「支店支所単位」がもっとも多く38%だったが、「集落組織単位」というのも28%を占めた。また、役員選出過程で話し合いに参加する組合員は「集落組織などJAの基礎組織の代表」との回答も71%となった。
一方、役員選出で女性枠を設定しているJAは129、47%と半数近くを占めた。また、学識経験者枠を設定しているのは212JAで77%に達した。これに対して青年部枠の設定は9%、生産部会枠は5%に過ぎなかった。
こうした結果から同研究所は「集落を基盤とするJAの伝統的なガバナンスシステムは依然としてJA運営の基盤として存在し続けている」と分析しながらも、基本的な役員選出システムに「学識経験者枠、女性枠の設定というかたちで、徐々に修正が加えられている状況も確認された」と指摘した。
◆変わる常勤役員
今回の調査では常勤役員のうち66%がJA職員歴をもっていた。連合会職員歴を持つ人も加えると7割を超えた。選出枠でみると学識経験者枠が51%を占め、地区選出枠が43%だった。
これに対し非常勤理事の経験がある人は26%で生産部会長経験は3.9%、青年部等経験は4.5%にとどまる。この割合は北海道、東北、九州では高いものの、生産組織代表や非常勤役員を経てから常勤役員になるという経歴を持つ役員は極めて少なくなっていて、「常勤役員の性格はJA合併が進められた1990年代以降、組織代表から学経理事へと大幅に変わったとみることができる」と指摘している。
◆意思反映と支店
また、組合員の意思反映の補完ルートとして、支所支店での組合員参加の委員会開催についても聞いた。
運営委員会を開催しているのは144JAで全体のほぼ半数。戸数5000戸以上のJAでは5割を超えた。
その委員会でよく出る意見は「販売事業」(80.1%)と「購買事業」(76.9%)で生活事業やJA経営等にはあまり意見が出ていないことが示された。同研究所は、支所支店運営委員会は集落組織を基礎とした営農面での情報提供といった「地域型・農業型意思反映ルート」だと分析。
これに対して「生産部会や青年部、女性部など組織別の運営委員会開催」も42%にのぼることから、「目的別、階層別の組織がJA運営に一定の役割を果たしている」と指摘し、組合員の意思反映システムとして「地域の論理にとどまらないルートも存在しているとみてよさそう」とした。
◇ ◇
同研究所は今回の結果から、農業人口の減少や担い手への集約化、准組合員の増加などの変化をふまえ、JAの「基礎組織の再編」や目的別組織に基づく意思反映と、多様化した組合員利益を反映させる役員構成などの課題がみえてきたことを指摘している。
また、常勤役員に学識経験者が増えてきたことについて専門知識と能力が求められる時代にあっては妥当、としつつも「JAの組合長は運動をリードしなければならない。単なる実務家でない運動家としての素質も身につけられるような仕組みづくりも必要ではないか」と提起している。
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