◆全国の地方都市でも問題は深刻化
「基本的な考え方」は7月2日、第2回JA都市農業対策委員会(村野弘一・JA東京中央会会長)で決めた。
その中で、都市農業振興のために「都市農業振興法(仮称)」の制定が必要だとしている(別掲)。
“都市農業”の問題は、すでに三大都市圏だけの問題ではない。全国の地方都市でも問題は広がっている。
平成3年の生産緑地制度と税制の改正で、三大都市圏(首都・中京・近畿)の農地の一部が固定資産税の評価を農地並みに優遇する「生産緑地」に指定された。というのも、三大都市圏とその他の地方では、土地にかかる固定資産税に大きな差があったからだ。
しかし、実際にはすでにその改正時点で三大都市圏に準じるような高い課税額が設定されていた地方都市があったり、また、制度改正から約20年を経て、地方都市でも固定資産税が上昇してきているのが現状だ。
具体的には、三大都市圏の農地の中で1平方mあたりの課税標準額が2万円以上という東京、神奈川など特別に高額な地域を除けば茨城、奈良、三重では同5500円前後で、静岡に至っては同4300円ほどになる。これに対し、三大都市圏以外の一般市街化区域農地でも高知、徳島、愛知は同5000円を超えており、三大都市圏とその他の地方都市の間の格差は縮まっていることがわかる。
◆「農地に準じた課税」も高額に
これらの三大都市圏以外の一般市街化区域農地は、固定資産税の軽減措置が講じられ「農地に準じた課税」とされているが、実際には負担水準が高く、必ずしも「農地に準じた」課税額になっていない場合が多い。
負担水準とは、調整の結果、減額された前年の課税標準額が、調整がなかった場合の満額の課税標準額の何%まで達しているかを表す数字だ。つまり、この数字が高いほど軽減額が少ないことになり、1であれば軽減措置はゼロとなる。
三大都市圏の平均負担水準0.859に対して、全国平均は0.492と低く抑えられているが、三大都市圏以外でも長崎0.882、岡山0.739、島根0.709など三大都市圏並みに負担水準が高い県があり、必ずしも地方の市街化区域農地の課税額が低く抑えられているとは言えない。
さらに、農地に対しては課税の減免や優遇などの措置がある一方で農業施設や畜舎などに対する措置は講じられていない。結果として税金を払うことができないため農業を続けたくてもできず、仕方なく農地を売却したり宅地に転用するしかない、というケースが多い。
こうした税制の問題が深刻化・拡大する一方で、市民の間では新鮮な農産物の供給減であったり、教育、防災などの多面的機能もあるという視点から、都市農業・農地の保全を求める声が高まっている。
JAグループのこのたびの要請は、こうした背景を元に、都市農業・農地の保全・振興のために、税制・都市計画における位置づけなど制度・政策の整備整備を早急に講じることを促す狙いがある。
◆生産緑地の追加指定など要求
「基本的な考え方」では、「都市農業振興法(仮称)」の制定とともに、市街化区域農地の法制・税制についても、見直すべきだと指摘している。
「市街化区域農地」の中で税制上の優遇措置がある「生産緑地」の面積は、平成5年に全国計1万5164haだったのに対し、21年でも1万4339haと16年間での減少率が5%ほどに留まっている。しかし、それ以外の固定資産税・都市計画税の宅地並み課税が適用される農地は5年に14万3258haだったのに対し21年では8万7841haと、4割も減っている。
こうした現状を受けて、生産者が農業を続け、農地を農地として活用・存続するための方策として、主に、(1)生産緑地の追加指定、(2)生産緑地の指定下限面積(500平方m)の緩和、(3)買い取り申し出要件の柔軟化、(4)買い取り申し出制度による自治体の農地買い取り支援、(5)生産緑地制度が導入されていない地方圏での固定資産税の優遇措置、の5点を訴えている。
(1)、(2)、(5)は、固定資産税が軽減される農地面積を増やすことで、生産者が農業経営をしやすい環境を整えようというもの。一方、(3)、(4)は、何らかの理由で生産者が営農を続けられなくなった場合でも、その農地の農外転用を防ぐための措置だ。
「基本的な考え方」では、このほか、▽相続税・固定資産税の課税強化をしないこと▽相続税納税猶予制度を堅持し運用改善を図ること、を求めている。
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