「再稼働を止められなかったとしても反対の声をあげ、きちんと意思表示をしたい。何もできなかった、と思いたくないんです」。
そう毅然と話す都内に住むという20代の女性。どなたと? の問いに「父と姉と来ました」。
隣の父親は「今ごろストロンチウムのことが明らかになったり、活断層が走っていたりと情報が隠蔽され信頼できない。意思表示をして止めさせないと。これだけの人間が集まっているのは今までにないこと。政府は方向転換すべきです」と話した。家族そろって参加しようと? 「いえ、たまたま自主参加です」。
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埼玉県から来た電気設備関係の仕事をしているという30代の二人の男性から話を聞いた。参加の理由は「娘がいるから」がひとつ。もうひとつは「お客さんからの声」だという。
中小企業の工場が取引先。電気を大量に使用せざるを得ないが、工場経営者からは、もう原発は負債。これからは自然エネルギーじゃないか、あの抗議運動はどうなっていくんだ? との声を聞くようになったのだという。仕事柄、原発の問題点は早くから知っていたこともある。「だから、デモに混じって感じてみたい、と」。感想は? 「変えたいという思いがかなり噴出していると感じました」。
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この抗議行動では脱原発以外の主張をプラカードなどで掲げないことがルール。それでも人々の思いを込めたメッセージがあちこちにあった。
「生き方の問題」、「激怒」、「電気は足りている。足りないのは愛」、「私たちは情報が知りたい」、「原発をなくして死ぬのが大人の責任」などなどだ。
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都内在住の40代の女性は「黙っているのは白紙委任だと思う」と語った。チェルノブイリ事故があったにもかかわらず「何もしてこなかったなあ」という思いが強まったという。先のプラカードに込められているように、この女性にも脱原発だけではなく今の社会への疑問がある。こちらが農業専門紙だと告げるとはっと顔を上げ「実家は群馬の酪農家。TPP、反対ですよ」とまた毅然と記者を見た。
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歩道が身動きができないほどの状態になった午後7時20分過ぎ、国会前の車道が開放され人々は正門前に集まって声を上げた。父親に肩車された子どもも。その先には国会議事堂。この子がこの夏の光景を思い出すであろう何年か先、私たちはどんな「生き方」を選んでいるのだろうか。
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