岐路に立つ供給管理と
農産物マーケティング・ボード
◆TPP交渉に参加表明したハーパー政権
カナダのハーパー政権は今年6月にTPP交渉への参加を表明した。昨年の総選挙でハーパーの保守党は単独過半数を獲得し、それまでの少数与党の不安定な立場から脱した。
この総選挙で、2大政党の一方の自由党は激減し、中道左派の新民主党が初めて野党第1党に躍進した。連邦議会での安定多数を背景にハーパー政権は、新自由主義にそった政策をひたすら推進している。
農業関係では、カナダ小麦局の一手販売・輸出国家貿易を廃止し、8月1日から新制度に移行した。ハーパー政権がめざす方向からみるとTPP交渉参加はサプライズではない。とはいえ、カナダ農業で重要な役割を果たしている供給管理制度の取り扱いが大きな問題になる。
◆乳製品、鶏卵、家禽肉の供給管理制度と国境措置
TPPは農産物も含めてすべての関税撤廃を原則としている。
ところが、カナダ農業にとって重要な乳製品、鶏卵、家禽肉は、供給管理制度によって全国的な需給調整を行い、農産物価格を安定化させてきた。供給管理制度は国境措置と表裏一体の関係にあり、加米自由貿易協定とNAFTA(北米自由貿易協定)のもとでも貿易自由化の例外品目として輸入割当制を維持してきた(米国も乳製品、砂糖などをNAFTAの貿易自由化例外品目としてきた)。
TPPに参加して関税を撤廃すれば、現行の供給管理制度は維持できなくなる・・・。
(続きは【クローズアップ農政 貿易自由化と農業の共存[2]】で)
【著者略歴】
まつばら・とよひこ
1955年大阪府生まれ
78年大阪市立大学経済学部卒業、83年京都大学大学院経済学研究科博士課程満期退学、宮城学院女子大学助教授、立命館大学経済学部助教授を経て98年4月より教授。著書は『カナダ農業とアグリビジネス』、『新大陸型資本主義国の共生農業システム―アメリカとカナダ―』など多数。
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