◆現場ニーズにあった安全装置の開発を
平成22年の農作業死亡事故の件数は398件。前年より10件減ったものの、年間400件前後という事故件数はここ40年ほど変わっていない。毎年春と秋に行われる農作業安全確認運動の今年のテーマは「安全確認徹底で家族と農業を守ろう!」。秋の運動では昨年の倍となる2万枚の啓発ポスターをつくり全国に安全作業の徹底を呼びかけている。
仲野博子農水大臣政務官は会議の冒頭、安全装置の開発促進など行政の取り組みを紹介しながら、「全国的に農作業安全のレベルアップを図り、事故件数を減らしていきたい」とあいさつした。
「事故を減らすには事故の具体例を知り、具体的な対策を打つ必要がある」(農水省生産局技術普及課)として、農水省では昨年度から事故の詳細調査分析を始めた。
この日の会議では、乗用型トラクターの事故のうち13%が片ブレーキによる転倒だとか、歩行型トラクターでは5割以上がバック時の巻き込み・押し付けによる、といった統計や、のり面に平らな足場がない中で除草作業をするなどほ場・作業環境の不備や、高齢者の体力や行動範囲に合致しない大型の農機を使うなど人と機械のミスマッチが大きな原因になっている、などといった分析結果を発表した。
その上で、農機メーカーが苦心してつくった安全装置でも、利便性が悪くなるなどの利用で外して使う利用者も多く、「メーカーは現場の声をよく聞いて、安全性と作業性のバランスを考えた農機を開発してほしい」と呼びかけた。
(写真・イラスト)
上:会議であいさつする仲野政務官
下:傾斜地での草刈り作業中に滑り落ち、アキレス健断絶の大けがを負った事故の調査報告。イラスト・写真を使い作業環境や人為的要因などを詳しく記載した事故報告書は、農水省ホームページから閲覧できる。
◆高齢者を排除すれば事故は減るのか?
事故の詳細調査については、日本農村医学会評議員の大浦栄次氏(JA富山厚生連)も発表。「農業は高齢者率が多いから事故が多い、と言われるが、それでは事故を減らすためには高齢者を排除すればいいのか。むしろ農業に従事している高齢者は、痴呆が少ない、病院にかかる回数が少ない、など健康福祉の観点からはメリットが大きく、高齢者が事故を起こしにくい農村環境づくりを福祉予算として進めるべきだ」と提起した。
意見交換では、JA全中が「これまでになかった具体的な事故の調査結果が出てきたので、これを活かして、具体的に現場でどうリスクを取り除くかを検討していきたい」としたほか、人・農地プランにも農作業安全のための環境づくりを盛り込むべきだ、などの意見が出た。
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