◆学生運動指導者から有機農法の普及へ
藤本敏夫氏は、昭和19年生まれ。若き頃は学生運動の指導者として活動したが、後に有機農法による理想の農業をめざし千葉県鴨川市に「鴨川自然王国」を設立。51年には有機野菜や国産の自然食品・食材などの宅配サービスを手掛ける「大地を守る会」を設立し初代会長も務めたが、平成14年7月、肝臓がんのため58歳の若さで亡くなった。
この日の集会には、藤本氏と親交の深かった農業関係者や、藤本氏の思想に共感して有機農業を始めた青年農業者など、全国から220人以上が集まり、故人を偲んだ。
第1部では明治大学の中沢新一氏が「今こそ農業の時代〜藤本敏夫氏から託された未来〜」をテーマに記念講演をしたほか、加藤登紀子さんを司会に藤本氏にゆかりのある4人のパネラーによるトークセッションが行われた。
第2部では、加藤登紀子さんと、その次女で歌手のYae氏による歌とトークショーがあった。
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第1部のトークセッションで藤本氏の思い出などを語る5人(左から)加藤登紀子さん、甲斐良治氏(農文協編集局次長)、伊藤幸蔵氏(米沢郷牧場代表)、渡辺尚氏(NPO法人トージバ代表理事)、Yaeさん
◆いま、必要なのは「エデュケイテッド・ファーマー」
中沢氏は、「今、若者の間で農業をめざし始める人が増えている。30年前には考えられなかったことだ」と、藤本氏の発し続けたメッセージが確実に社会に浸透しているとして、その功績を讃えた。
こうした若者の農業回帰の動きについて、「高度経済成長という、米国のアジア獲得戦略に日本が巻き込まれた」ことで日本の共同体は破壊されてしまったが、しかし日本人の内面にある「2000年以上、土に根ざして生きてきた、その精神性までは失われなかった」結果だと分析。「農業という営みを通じて、人間と自然が有機的に融合する」という藤本氏の思想をこれからも追求していきたいと述べた。
トークセッションで加藤登紀子氏は、近年、バングラディッシュやブータンなどアジアの貧国で、若者が農業を忌避し、都会の学校へ行ったきり農村へ帰らなくなってきている現状を紹介しながら、「これからの社会に必要なのはエデュケイテッド・ファーマー。高学歴で、なおかつ高い理想を持った青年農業者に社会の変革を期待したい」と結んだ。
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中沢新一氏(明治大学野生の科学研究所所長)
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