シリーズ

次代へつなぐ協同〜人づくり・組織づくり・地域づくり〜

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問題意識の共有が人づくりの出発点  村上光雄・JA全中副会長

・役職員が認識を共有する
・全員で課題解決を考える
・自分の位置を確認し役割を果たす
・いかに自主性を発揮させるか
・職員の研修に力を注ぐ
・自ら学習する風土が大切
・改めて考えるJAとは何か?
・大切なトップ自らの言葉

 JA全中の村上光雄副会長は人づくり運動推進委員会の委員長も務める。本シリーズ第1回は村上副会長に広島県のJA三次でトップとしてどう人づくり、組織づくりをリードしてきたかを聞いた。職員教育はJAトップの責任と強調した。

 

 業・農村・農協の将来像を考えた時、地域の核となるJAが産地づくりや地域社会づくりをリードすることのできる人材をどう育て るかが、大きな課題の一つである。                                                                                                  
 しかし昨今、農畜産物の価格低迷や需要の減少、JAの広域合併、などを背景に協同組合運動を継続・発展させるための人材育 成が満足にできない、そもそもそうした人材育成をどう進めていいかわからない、などの声も聞かれる。                             
 本紙では、地域づくり、産地づくりも、それをすすめるための「人づくり」が何よりも大事だと考え、年間を通したシリーズ「次代へつ なぐ協同〜人づくり・組織づくり・地域づくり〜」を企画した。
    
 


◆役職員が認識を共有する 村上光雄・JA全中副会長

 私は「人づくり」のためには3つ重要なことがあると考えて実践してきました。
 1つに仕事はみんなでやるものだということ。これを絶えず言っています。どこの企業でも同じかもしれませんが、われわれは協同組合ですから、なおさら協同して仕事をしなければならないということです。
 そのためには役職員ができるだけ共通の認識を持つことが大事です。だから、われわれのJAでは、たとえば講演会でも役職員が一緒になって聞くことを心がけています。講演会などは役員だけ、あるいは管理職だけ出席すればいいではないか、というのがよく聞く話ですが、やはり役職員が一緒になって話を聞くことが大事だと考えています。
 それから毎年、年の始めに役職員を集めた研修会を開き、そこで新しい年に向けてJAは何をやるべきか、私が考えていることをきちんと皆に伝えています。その日は午前と午後の2回に分けてパート職員も含めて全員出席してもらいますから、組合長はこういうことを考え、こういう方向で行こうとしているんだな、と全役職員が共通の認識を持つことになります。


◆全員で課題解決を考える

 かなり以前のことですが、各支店にある購買店舗を閉鎖して新しくAコープ店舗をつくろうということを決めましたが、これは地域をあげて喧々諤々の議論になりました。ただ、そのときも、この問題について役職員みんなで地域の人たちの話を聞き、そのうえでどういう方向がいいかをきちんと勉強して考えていこうということにしました。各支店単位で職員を集めてそれぞれの思いを聞きました。やはり役職員が同じ気持ちにならないと組合員に対してもきちんと説明できない。
 たとえば地域の真ん中にAコープをつくるというが、そんなことをやってもだめだろうなどと暗に匂わすような発言を職員がしては組合員が不安になるのは当然です。共通の認識を持ったうえで仕事をするという考え方が大事だということです。
 また最近では、JAの決算内容を職員にも説明してほしいという要望が出てきた。
 これは当然で、いいことを言ってくれたと思い、毎年、常勤役員と職員との懇談会で決算の内容を説明するようになりました。こうすればわれわれのJAの決算はどうなっていてどう対応しなければいけないか、職員も同じ認識を持つわけです。ですから、いろいろな方が農協に視察や取材に来られますが、職員のみなさんは組合長と同じことを言いますね、と言われる(笑)。これがいいことかどうかは別にしても、基本的な考え方は徹底しているということだと思っています。


◆自分の位置を確認し役割を果たす

 ただ、そうはいっても多くの人間が役割を分担して仕事をするわけですから、仕事は職務権限に則ってするということで、それがなければ統率がとれない。だから、組合長は組合長としての務め、つまり、トップとして方向性を示す。専務は専務、部長は部長、課長は課長の職務を果たす。役員が部長や課長の仕事をしてはいけない。
 職務権限の枠から絶対にはみ出してはいけないということではありませんが、自分がこの組織のなかでどういう位置にいて、何をしなければならないかをきちんと認識して仕事をしなければならないということです。


◆いかに自主性を発揮させるか

 2番目は自主性を持って仕事をする、です。あるいは、そのように仕向ける、ですね。
 押しつけられた仕事というのは誰でもいやです。与えられた職務権限のなかで自分が自主的に判断して仕事をしていくことが本人にとっても、組織にとってもいちばんいい。
 そのためには絶えず問題意識、あるいは危機意識を持たなければいけないし、それを持たせる教育、研修が必要だろうと思います。トップとして方向性は示すけれども、具体的な仕事は職員が自主的に判断して動くようにしています。
 われわれのJAは集落営農を非常に重視していますが、この方針はJAとは何なのかをはっきり示しています。というのは集落とはJAの原点であって集落の機能がつぶれればJAもつぶれるということです。集落がつぶれてJAが残っているなどという社会はありません。
 だから、たとえば集落営農が法人化するとき、その組織が必要とするなら出資をしようという事業方針を打ち出しているわけです。そういう思いを職員共通の認識にして集落の人々と接している。その考えで職員も腹が据わっているから、なぜこう対応しなければいけないかと悩むことはない。集落が困っているなら当然、JAが手だてを考えようということです。そこをきちんと整理しているから職員も動く。


◆職員の研修に力を注ぐ

 3番目はJAの職員が、たとえば他の金融機関と比較されて利用者に一段低く見られるようなことがあってはならないということです。そう見られることがあるとすれば、きちんと教育・研修をしていないからで、これはトップの責任だということです。職員にきちんと研修を受けさせればできるようになります。能力に差があるわけではない。教育するか、しないかの違いです。
 その機会を作らないのは組合長の責任だと思っていて、できるだけ職員にさまざまな研修を受けさせるようにしています。
 たとえば、経済事業改革で農機センターなど購買部門の集約を進めていったときに、余剰となった職員を渉外担当にしようということになりました。しかし、職員にすれば不安ですよね。今までやったことがない渉外業務などできるのだろうか、と。そこで研修をきちんとやろうということにした。2000万円ぐらいの予算をかけて。やはりこれをやらなければ職員も不安ですし、知識もないまま仕事をすれば辞めてしまうことにもなりかねない。結果としてそのときは辞めるような職員はほとんどいませんでしたね。


◆自ら学習する風土が大切

 もうひとつ付け加えるなら、職員が自ら学習するという風土をつくる必要があると思います。
 ありがたいことにわれわれのJAは職員がよく勉強してくれていますし、私も若いうちにとれる資格はとりなさい、といっています。
 今の部署では関係がないと思う資格であっても、いつかはその担当になるかもしれないし、職員の一生の宝にもなります。
 最近では一度研修で講師にお願いするが、次からは職員自らが資格を取って講師になって研修会を開くということも出てきています。
 何よりも講師を務めるということは自分の勉強になり、知識がしっかり身に付きますよね。
 先輩職員が学習する風土をつくっているのだから、若手職員はそれを見習っていこうというのは私の口癖でもあります。


◆改めて考えるJAとは何か?

 教育に始まって教育に終わる――。これはよく言われることですが、最近は私自身も改めて感じています。というのもTPP交渉参加反対運動をするなかで私は2つのことを勉強したと思っているからです。
 私は土着という言葉が好きで、その土地で暮らし骨を埋めていくというイメージです。
 一方、企業は外へ出て行く。つまり、企業とは資本であって資本は無国籍だということです。だから、利益を求めてどこへでも出ていく。
 ところが、われわれJAはそれはできない。いくらその地域が疲弊しても、JAはそこから逃げていくわけにはいかない。なぜかといえばJAは一人一人の組合員によって成り立っているのであって、組合員がそこにいる限り地域から離れることはできないからです。
 当然のことですが、JAと地域とは運命共同体であり、JAは地域と一緒に生きていかなければならないということです。そのことを役職員がしっかりと認識し、組合員とわれわれは一心同体なんだという気持ちで仕事をしていくことが大切だと改めて感じました。


◆大切なトップ自らの言葉

 もうひとつ勉強になったことは、協同組合には運動と経営の両面があり、経営面では効率的な経営や収益も考えていかなければならないわけですが、ややもすると利益主義、利己主義になってしまうという点をどう乗り越えていくかです。
 われわれは資本主義を否定するものではありませんが、資本主義の悪いところは克服していこうというのが協同組合であり、たとえば格差の拡大は是正していこうと考えているわけですね。こうした運動や考えがしっかりしていればいいんですが、資本主義の世の中ですから少し油断するとその基本を忘れてしまう。
 JA綱領にもあるように協同組合運動の理念は助け合い、連帯など本当に崇高な精神です。しかし、資本主義のなかでは、絶えず気をつけていないとインフルエンザに罹るように利益主義、利己主義になってしまう。
 だからこそ、絶えず教育をしていないと基本を忘れかねないということだと改めて思いました。何らかの研修をしたからこれで教育は万全だ、ということにはならない。毎年同じことであっても繰り返し、繰り返し教育をすることが必要だと思っています。TPP交渉参加反対運動をするなかで、改めて協同組合と教育の大切さを感じたということです。
 今度の大会議案にも盛り込まれているように、全中としても人づくりの大切さを発信していきますが、そのなかでもとくにトップの責任、役割が重要だと考えてそのためのカリキュラムを用意しています。
 やはりトップの責任は重大です。トップの力でどんな絵でも描ける。JAの方向を誤らないようにトップが自分の言葉で役職員、組合員に話すようにすることが大事だと考えています。


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           第1回

(2012.07.04)