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JA全農畜産事業特集

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【JA全農畜産事業特集】JA全農畜産総合対策部・榎本健蔵部長に聞く  「本所と県域一体で販売力強化に取り組む」

・和牛を中心に厳しい販売環境
・マルキン見直しを緊急要望
・本所との一体的事業展開
・飼料用米で差別化商品産地指定取引の切り札に
・バリューチェーンの視点で販売力を強化

 JA全農の畜産事業は図に示したように飼料原料の海外調達から配合飼料供給、生産技術の提供、そして食肉センターから子会社による販売まで、まさに農場から食卓までを一貫した事業を実現しているといえる。
 とくに畜産物は生鮮食品と違って、食肉処理、加工といった部門が不可欠だ。JA全農の畜産事業はこうしたそれぞれの機能を一体的に発揮することによって「販売力の強化」をめざしている。
 最近の販売情勢とともに23年度事業のポイントなどをJA全農畜産総合対策部の榎本健蔵部長に聞いた。

厳しい畜産環境で政策支援も要求


◆和牛を中心に厳しい販売環境


 ――最初に畜産物の生産と価格動向についてお聞かせ下さい。
JA全農畜産総合対策部・榎本健蔵部長 平成22年度は口蹄疫、夏の猛暑、鳥インフルエンザ、そして東日本大震災によって大きな影響を受けました。
 口蹄疫では宮崎県で多くの牛と豚が殺処分されて、現在も5割強しか復活していません。さらに夏の猛暑が家畜の受胎率等に影響を与え、たとえば豚では半年後の出荷量に影響が出ました。
 鳥インフルエンザは南九州のブロイラー、採卵鶏の生産に影響を与え、今回の震災では直接に畜産農家が津波被害などを受けたというよりも、震災後に配合飼料が十分に行き渡らなかったことによる生産の縮小という事態が起きました。
 その結果、採卵鶏、ブロイラー、豚は生産量が前年を下回る状態が続いているため価格は高く推移しています。ただ、景気の低迷が続き、一定の価格水準に上昇すると、輸入が増えるという状況です。
 また、牛ではこのところ和牛頭数は増加傾向だったのですが、景気がなかなか上向かないなか、とくに高級部位の消費が伸びない状況でしたが、それに加え原発事故による放射能汚染で輸出ができなくなっています。
 高級部位は輸出だけでなく海外からの観光客にホテルやレストランが提供してきたわけですが、そうした観光客も減った。ですから5月までは5等級の相場が前年を下回る状況でした。そこにさらに焼き肉店での食中毒問題が発生したために、6月になると3等級の相場も下がってしまいました。
 例年より梅雨が早く明けたということから今後猛暑がどう生産面に影響を与えるかということとともに、どうしても暑い季節は食肉需要は減退しますから、それらを要因として相場が決まってくると思われます。

 

◆マルキン見直しを緊急要望


 ――JAグループとしてこうした厳しい環境にどう対応していくのでしょうか。
 JAグループとして7月はじめに畜酪対策要求を決めました。そこではマルキンの仕組みの一部見直しを緊急に求めていきます。
 現在は28市場の相場をもとに補てん金の発動基準価格を決めていますが、中央卸売市場が中心だと銘柄牛も入るためどうしても基準価格が高めに設定されます。地域で相対取引されているものとは差があるんですね。そこでわれわれはこの相対取引価格も含めて基準価格を決めるべきではないかと考えています。
 それに加えて24年度予算に向けては戸別所得補償制度の導入を視野に、コストの考え方の見直しも求めていきます。たとえば、市場の手数料や、と畜費用もコストに含めるということです。
 F1や乳オスにはマルキンが発動されていますが、和牛は先に触れたように厳しい状況なのに発動されていません。政策面での要求は畜産総合対策部の役割ですからこうした取り組みも進めていくということです。

 

◆本所との一体的事業展開


 ――環境は厳しいわけですが23年度の畜産販売の事業方針の柱は何でしょうか。
 JAグループの畜産事業は、かなりの部分が会社化されて事業展開していますし、また、県域によって事業領域やどの組織が機能の中心を持っているかはそれぞれ違います。
 たとえば、生体をと畜場に出荷する事業のみの県域もあれば産地子会社の食肉センターでと畜をして部分肉にして販売しているところや、さらには加工品も製造して販売しているところもあります。
 ただ、今後強化していかなければならないのは、より消費者に近いところ、すなわち直販事業を強化することです。それが結果的に有利に生産者にフィードバックできるということです。
 そのためには、たとえば、県本部にはそういう直販事業の経験も組織も子会社がその機能を持っているのであれば、その子会社を軸にして、そこに本所子会社である全農ミートフーズや全農チキンフーズといった会社が持っている知識や技術を伝えていくことが重要だと考えています。そのためには人の交流も必要で、すでにいくつかの県では実践しています。
 一方、大消費地に販売できるほどの生産量とブランド力はなく、地元で販売するほうが有利な地域もあります。そういう地域では地産地消、つまり、地元でどう売るかが課題になります。地元で売るほうが他県産よりも売りやすいし、いかに地元で販売を強化するかが重要になってくるわけです。
 これも生産力という点で県ごとに生産基盤整備と販売力をどうとマッチングさせていくかが重要になります。 そのために各県域に振興協議会を設置し、県本部、全国本部のほか、産地食肉センターや飼料会社なども加わり地域ごとにどう畜産を振興しブランド化していくかに22年度から取り組んでいるところです。
 それに加えて23年度からは、4つの地域別飼料会社のエリアごとに販売会社と飼料会社が一体となって畜産振興を図る協議も始めたところです。
 たとえば、北日本くみあい飼料が軸となる東北エリアでは、この2、3年の間に合わせて17万頭ほどの豚の生産農場ができる予定です。それらの農場を立ち上げる前から、どう売っていくかという協議を始めているところです。どう売るかを考えて生産基盤を整備する、それに合わせて飼料の供給も考えていく、ということです。

 

◆飼料用米で差別化商品産地指定取引の切り札に


 ――飼料用米の生産とそれを使った畜産物販売への取り組みも期待されていますが、どのような実績が出ていますか。
 われわれは販売手法のひとつとして指定産地取引にも力を入れていて、これは量販店や生協に対してこの農場から供給しますよ、というかたちの取引です。22年度で10件の実績があり、23年度は4件ほど新たに増える見込みです。
 実は飼料用米を使った畜産物販売は、この産地指定取引で増えているんです。22年度の実績では飼料用米を使った畜産物は、豚5万5000頭、卵1200トン、ブロイラー2万5600トンです。飼料米を使った差別化商品ということですね。これは飼料米生産の拡大にともなってさらに増える見込みです。
 一方、飼料米の生産推進も畜産総合対策部の役割で種子の確保、直播技術の確立、立ち枯れ試験などを行っています。今年は無人ヘリによる直播試験に取り組みました。
 また、飼料用米を飼料工場に搬入するのではなく農場で粉砕して飼料に使う粉砕器を共同で開発し、農場で飼料に添加するという試みも行っています。鶏には籾のままでも飼料として使えますから、この方法で地域内流通の運送コストを削減しようということで、できるだけ拡大していきたいと思っています。
 これまでの試験でかなり米で代替できることが分かってきて、トウモロコシの5割から8割を米に替えることができるという結果も出ています。増体も問題はなく和牛の試験では食味もいいということです。
 全農の飼料用米の21年度は1万1000トンほどでしたが22年度は4万2000トンと一気に増えました。23年度はさらに拡大する見込みです。もちろん畜種によって飼料米が使える程度は違いますが、差別化するための重要な切り口になっています。

 

◆バリューチェーンの視点で販売力を強化


 ――そのほか販売力強化のための重点的な取り組みをお聞かせください。
 本所の機能という点では品質管理と食品表示の指導があります。 本所として県本部や県本部の子会社も含めて巡回して指導をし、全農グループとして統一的な品質管理の仕組みをつくっています。巡回先は全国で76か所ほどになります。販売は県域ごとで、となりますが、守らなければならないルールなどは本所で統一的に管理していくということです。
 それから食材加工事業の強化も課題としています。消費者の調理時間がどんどん短くなる中で、肉をそのまま売るのではなく、県域も含めて食材加工事業を強化していく必要があります。具体的には包装肉に加えて、衣づけをしたり、ハンバーグやミートボールを製造するなどですね。
 今まで系統の事業はどうしても原料の売り買いが中心でしたが、食材加工事業となると先ほど触れた表示の問題がダイレクトに関わってきます。ですからこの食材加工事業の強化もやはり品質管理、適正な表示の取り組みとセットで進める必要があるわけです。消費者に近くなればなるほど細かな管理が必要ですし、そのノウハウが必要になってきます。
 食品業界がどんどん消費者に近い地点まで系列化を図りバリューチェーンを強化していますが、全農グループも県域と一体となって攻めていくことが求められるしそれが競争力を強化することになると思います。
 そういう意味ではたとえば、これまでキーとなる販売拠点がない東北域に対して本所子会社が県本部の子会社と一体となって攻めていくといったことが今後の課題です。こうした取り組みで全農全体として販売力を強化することが求められていると考えています。
 ―ありがとうございました。

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