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JA全農・酪農部特集
JA全農酪農部 宮崎幹生部長に聞く

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【JA全農・酪農部特集】酪農家の意欲につながる 生産・販売対策を強化

・生産基盤維持への取り組み
・安心・安全の確保に努力
・増産を目標に需要拡大
・海外には頼れない牛乳・乳製品

 東日本大震災と原発事故の発生で酪農乳業も大きな打撃を受けたが、生産基盤を維持しようという努力の結果、現在ではおおむね生乳生産は回復しているという。ただし原発事故の影響による安心・安全な生乳生産の課題は来年も残るほか、何よりも酪農家が意欲をもって生産に取り組めるよう生産振興策が大切になっている。今年度の酪農乳業の情勢と今後の課題などをJA全農酪農部の宮崎幹生部長に聞いた。

◆生産基盤維持への取り組み

 ――震災と原発事故で東北と関東の酪農乳業は大きな被害を受けました。まず当時の状況とその後の取り組みをお聞かせください。
 
toku1112270403.jpg 東北全体で1日に約1600tの生乳生産量がありましたが、工場が被災したり、道路網の寸断、あるいはガソリン不足でローリー(集乳車)が来ないなど、震災の直後から生乳の行き場がないという状況になりました。宮城県と福島県では全量廃棄という事態になり、東北全体で7割も現場廃棄しなければならないという本当に厳しい状況でした。
 関東でも1日に約3300tの生乳生産量がありますが、群馬、栃木、茨城、千葉といった主産地で当初は10社以上の工場が稼働できず、また、包材等の資材不足により稼働を制限する工場も多数あったため、生乳の2割ほどを廃棄せざるをえませんでした。
 また、計画停電によりヨーグルトの発酵にも影響するなど、首都圏を中心に牛乳もヨーグルトも店頭に並ばないという事態にもなりました。
 震災から1か月ほど経ってからは工場も稼働し始め多少は落ち着いてきましたが、原発事故の問題が出てきました。3月下旬には福島県と茨城県において出荷制限がかかり、福島県では200tほどを毎日廃棄しなければなりませんでした。
 酪農部では指定団体と連絡をとりながら酪農家への情報提供につとめました。とくに原発事故問題では飼養管理の徹底が課題となりました。具体的には放牧を控えることや、飼料保管の注意、野外での水の摂取の禁止などです。
 生乳の現場廃棄など厳しい状況でしたが、牛を守るために搾乳を続けてもらい、指定団体を中心に生産者組織をあげて何とか生産基盤を守ろうと努めました。


◆安心・安全の確保に努力

 ――現在はどのような状況ですか。
 
 現在は福島県でも前年の85〜6%にまで生乳生産量が戻ってきており東北全体でも9割以上回復しました。
 今年はもともと昨年の口蹄疫や猛暑の影響で生乳の需給はひっ迫する可能性があると指摘されていました。そこに震災と原発事故が起きたわけですが、酪農家はもちろん関係者のみなさんが生産基盤を守るという取り組みの努力を続けたことで、夏場以降の需給ひっ迫を最低限避けることができたと考えています。そうした意味で東北・関東における生産基盤を守る取り組みは非常に大きかったということです。
 その一方で放射能問題が現在の最大の課題となっています。
酪農の生産基盤維持・強化が重要課題 3月から4月にかけて出荷制限がかかりましたが、それ以降は飼養管理を徹底し、暫定規制値(200Bq/kg)を超える生乳は出荷されていません。
 ただ、暫定規制値以下であっても少しでも放射性物質が検出されれば不安との声があり、生乳の検査や出荷に関する情報提供を求められているところです。
 放射能問題は補償の問題でもあります。酪農家のみなさんが安心して生乳を搾れるよう中酪などの関係団体とも連携して国などにも働きかけています。
 併せて、指定団体とより安全で安心な生乳の出荷およびそれに関連した情報開示を進めていくことが重要と考えています。
 また、厚労省が暫定規制値を見直す方向で検討し来年4月から適用する方向ですので、その対応策についても指定団体と検討を進めています。

(写真)酪農の生産基盤維持・強化が重要課題


◆増産を目標に需要拡大

 ――それでは改めて牛乳・乳製品の生産と需要をめぐる課題をお聞かせください。
 
 飲用乳をめぐる趨勢は変わっていません。少子高齢化が進み、また、競合する飲料が増えるなか需要は減少しています。年2〜3%の落ち込みが続きこの10年間で90万〜100万tの牛乳需要が減少しました。また、脱脂粉乳やバター等の乳製品については、昨年の猛暑の影響もあって生産が大幅に減少し、とくにバター不足が顕在化したため、国が2000tの緊急輸入を実施する事態となりました。
 猛暑の影響による乳代の減少やトウモロコシなどの飼料穀物の国際相場が08年の高騰時に近い相場で推移していることなどから酪農経営の厳しさは変わりありません。


◆海外には頼れない牛乳・乳製品

 ――来年度の取り組みで重点になるのは何でしょうか。

 来年度の計画生産は2月に正式に決定されますが、これまでのような需要に見合った計画生産では生産基盤を維持・拡大していくとの観点からすると、無理があると考えています。また、対象年度も単年度毎ではなく複数年を見越して生産をしていこうという考えが望ましいと思います。というのも、生乳の生産で需給を調整するとの考え方では生産基盤の維持は難しいからです。
生産者が意欲を持てる計画生産へ 全農としても指定団体と一緒になって生産振興に取り組んでいきたいと考えています。
 これまで以上に酪農家のみなさんに対して、乳業の動向、消費の動向などの情報提供をしっかり行い酪農家のみなさんが営農計画を考える際に先行きが見通せるようにした上で、しっかり搾って頂きしっかり販売していく、そうしたことを着実に進めていくことが生産基盤維持に繋がると考えています。
 その意味でわれわれとしては全国的な需給調整機能を今後とも発揮しながら指定団体の安定的な生乳の販売に貢献していきたいと思います。
 それから需要拡大に向けてこれまで同様、非乳業メーカーに対する業務用牛乳の販売が大事だということに変わりはありません。新たな商品開発につなげる努力もしながら牛乳以外にも需要を拡大していこうということです。
 酪農家のみなさんがしっかり搾乳しようという意欲につながるよう、計画生産の見直しや生乳の販売力強化を通じて、生産基盤の維持・強化に繋げたいと考えています。
 「生乳生産が落ちる、だから海外に頼るしかない」ということにしてはならない。先進国は自国の牛乳・乳製品の需給を第一義に考えて乳製品の輸出をしていますが、それは日本においても全く同様と考えています。
 ――ありがとうございました。

(写真)生産者が意欲を持てる計画生産へ

宮崎部長の「崎」の字は、正式には旧字体です。

 

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