事故防止に向け過剰荷受けと
オペレーターの人員配置への対策を
野口好啓・全国農協カントリーエレベーター協議会長
(JAさが代表理事副組合長)
わが国のカントリーエレベーター(CE)は、昭和39年に全国3か所にモデルプランとして導入されて始まりました。以降、すでに40年以上が経過し、現在では、本協議会員だけで39道府県、275JA、751施設、貯蔵能力200万トンを超えるまでに発展しています。この間、高品位で均質な米麦の供給ならびにバラ化による流通合理化によって、地域農業振興および米麦の流通合理化・省力化のために、CEは多大な役割を果たしてきました。
現在、米麦を取り巻く環境は大きく変化しています。米麦の生産・流通の現場では、さらなるコスト削減と「安全・安心」へのニーズが強まっています。米麦の品質向上、物流の合理化、担い手を中心とした効率的な生産体制の構築という従来からの役割に加えて、トレーサビリティー、コンタミ(異品種混入)防止などを確保することがCEに求められています。
しかし、残念ながら、本協議会で確認しているCEにおける品質事故はここ5年間の間だけでも約20件発生している現状にあります。CEでの品質事故は発生すると被害が甚大であり、1回の品質事故で数百トンの米麦が被害を受けるとともに数千万円の損害額になることも珍しくありません。また、経済的な負担だけでなく、生産者から預かっている大事な米麦の品質を損ねてしまうことは、道義的にも大きな問題であり、品質事故防止はCEにとっての最も大きな課題の1つです。
最近の事故の特徴として、(1)高水分籾の過剰荷受け、(2)新任オペレーターの不慣れな作業に起因するものが多くなっています。
(1)過剰荷受けへの対策としては、荷受計画の作成や荷受ストップの実施が必要です。生産者の皆様へはご不便をかける場面もあるかもしれませんが、品質事故防止へのご理解とご協力をお願いします。
(2)新任オペレーターの不慣れへの対策としては、主任オペレーターの人事異動の配慮等、JAでの計画的な人員配置が必要です。
CEの運転には熟練した技術が必要であるため、新任オペレーターだけでの運転を行わない等、JAの経営者が率先してCEの運営体制の強化を図るようお願いします。
このようなことから、本協議会では今年度もCE稼動の最盛期となる8月15日から10月15日までを「CE品質事故防止強化月間」として設定し、CEの組織的な運営体制の確立と施設・機械の清掃、点検整備の実施および関係者の連携による計画的な操業と適切な運営・管理の推進を通じて、品質事故の発生防止に万全を期することとしています。
全てのCE設置JAにおいて関係者が一丸となり、品質事故防止運動に積極的に取り組むようお願いします。
◆農家の低コスト化意識の高まりに合わせCE建設
JA福光は全国でも有数な米どころ富山県の西南端、散居集落として知られる砺波平野の一番奥・山側に位置し、南西の石川県との県境は大門山を主峰とする標高1000m以上の医王連山が分水嶺をなし、管内中央を流れる小矢部川やその諸支流が地域を北上する段丘平野と沖積平野を展開している。
そして基盤整備された農地の90%以上が水田という典型的な稲作地帯で、JA販売事業の9割近くを米が占めている。
JA管内の水田面積は2500haで24年産米の作付面積は1976ha。そのうち1066haがコシヒカリ(全作付面積の54%)という計画になっている。そのほかに早生品種として酒米の五百万石、もち米のとみちからが、晩生品種として県育種のてんこもりなどがある。
JA福光が最初のCEを建設したのは昭和44年と45年だった。そのときの「究極の目的は、農家の低コストをめざす」ことだったと木戸正盛同JA営農部長。その後、「農家の皆さんの低コスト農業に対する認識が高まり」それに合わせてCEを順次、同一敷地内に建設してきた。
その背景には、高度経済成長のなかで「農業が他産業と比べて比較的低く見られ、しだいに地域の機能や集落の機能だけではなく農業への思い入れがレベルダウンし、担い手不足問題」が顕在化していたことがあるという。
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5つのCEをつなぎ1つのライスコンビナートに
◆5つのCEを一つにつなぎライスコンビナートに
そうしたなかでJAでは、昭和56年から集落営農に取組み始める。そして平成に入るとさらに集落営農への「エンジンがかかり」、平成8年くらいから「さらにエンジンがかかり」、いまは水田面積2500haの8割は105の集落営農組織と担い手によっている。
そして多くのJAが管内に分散してCEを建設してきたのとは対照的に、4つのCEを同一敷地内に建設し、コンベアでつなぎ、荷受・貯蔵・籾擦り・出荷の効率化をはかり、9000トンの収容能力をもつ「ライスコンビナート」として運営してきたのがJA福光の大きな特徴だといえる。 しかし、その能力を超えて荷受されるようになったことから平成17年に5号CEを同一敷地内に増設、ライスコンビナートの能力をさらに向上させた。さらに、21年には老朽化した1・2号CEをサイロだけを残して全面的に更新し、現在の貯蔵能力は乾燥籾で1万1000トンになっている。
同JAが目指しているのは「1町1農場」であり、その拠点施設が「ライスコンビナート」がある営農センターだといえる。ここには、CEだけではなく、大豆乾燥施設、大麦乾燥施設、水稲育苗施設、農業倉庫、農機整備施設、アグリ配送センターなどが一元的に集約されているのも大きな特徴だといえる。
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第5CEの計量機
集落営農組織を核に安全・安心・信頼の米づくり
◆すべての運営を農協職員が担っている
「福光の米づくりは”CEありき”で成り立っている」と、片田行成営農部米穀販売課長。つまり、JA福光の組合員は、ライスコンビナート(CE)があることを前提に「自分たちの地域農業を成り立たせていく」という強い確信をもって、農業・米づくりに取組んでいるということだ。
そこには「結(ゆい)の伝統を受け継ぎながら、先進的な農業をしよう」という意識が、福光の生産者に強くあるからではないかと木戸部長は分析する。
もう一つ同JAの特徴は、「農協職員がすべてを運営していることだ」と木戸部長。営農指導員が11名いるが、順次CEの主任オペレーターの資格を取得している。そして、ライスコンビナートの運営は、JA常勤役員、営農組織・営農委員会、酒・もち米生産協議会、生産組合代表などで構成される「福光農協ライスコンビナート運営委員会」が、基本的に生産計画・刈取計画・荷受計画などを協議している。
この運営委員会を支えているのが、管内11地区の「地区センター」だ。この地区センターは、その地区の集落営農組織や青年部そしてJA役員や総代などで構成されている。そして次年度産の計画は12月中に各地区の代表者に提案され、1月には具体的な計画を各地域ごとに協議している。なぜなら集落営農組織の決算がおおむね12月で、1月には事業計画があらかた決まるので、その前には基本的な計画を提案する必要があるからだ。
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上:JA販売事業の9割近くを米が占めている
下:木戸部長(左)と片田課長
◆JA独自でトレーサビリティシステムを開発
前にもみたように、コシヒカリが6割近くを占めているので、9月10日ころから始まるコシヒカリの荷受前の9月初旬は「戦争のようだ」と片田課長。なぜなら「コシが入るまでに早生米を調整して出してしまわないと、融通が効かなくなり、コシが入らなくなる」からだ。しかも早生からコシヒカリに切り替えるために、3日かけて「徹底清掃をする」からだ。
CEの品質事故を防止するためにJAではまず、早・中・晩生の品種が種子段階から混入しないよう指導を徹底している。さらに肥料や農薬の使用などを含めて「栽培指針」どおりに生産されているかどうかのチェックを徹底している。
JA福光では米のトレーサビリティ法が議論される以前から生産履歴をシステム管理するために、「JAFTIS」(JA Fukumitsu Tracing Information System)と名付けた米穀トレーサビリティシステムを独自に開発し、生産から消費までの全過程で米を特定できるようにした。このシステムでは生産者は所定の用紙に生産履歴を記帳、そのデータをOCRで読み取りデータベース化して管理している。これによって、栽培基準検査(合格)の判断のスピード化が図られている。
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全面更新した1号2号CEの操作パネルも最新のものに更新された
◆品質管理の徹底で事故を防止
荷受に当たっては、胴割れ、着色粒や水分(25%)などの自主検査を実施している。さらに荷受後も施設内では農産物検査員資格をもったJA職員(12名)による検査はもちろん、最近は東電福島原発事故の影響で卸などからの要請で」「セシウム分析」(外注)を実施するなどの品質管理を徹底している。
文字通り「生産現場から施設まで」品質管理をしっかり行い、基準をクリアしていない米を「仕分け」している。
「1町1農場」をめざし5つのCEを一つにつなぐ「ライスコンビナート」の存在が、集落営農組織に結集した生産者の意識を高め、安全・安心・信頼の高品質米「ふくみつ安心米」を支えているといえる。
同一敷地内にCEを何基も建設することはどこでもできることではないが、集落営農組織を核にした地域をベースにした運営などには、他の地域でも学ぶべきことがいくつもあるのではないだろうか。
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隣接する「う米蔵」は、新鮮な米や特産物を販売する直売所
平成24年度カントリーエレベーター品質事故防止
強化月間の取り組みについて
趣 旨
(1)カントリーエレベーター(以下CEという)における米の品質事故は、高水分籾の過剰荷受け、長時間のテンパリング、長期にわたる半乾貯留、穀温管理不足など、基本的なことを守らなかったことにより発生したものが多い。また、最近では荷受け・乾燥作業時の外気温が高いため、乾燥後のクーリングパスで穀温が十分に下がらず、やむを得ずそのまま半乾貯留や貯蔵を開始するケースも増えているが、その後のローテーション操作や穀温管理等が適切に行われずに品質事故を生じた事例も散見される。
(2)品質事故防止のためには、乾燥能力に応じた計画的な荷受け、ならびに各作業工程における基本操作の遵守が欠かせない。そのためには、施設運営をオペレーター等現場作業者に任せきりにするのではなく、経営者や施設管理者、そして利用組合等生産者組織も含めた三者が、一体となって円滑に進めることが重要である。
(3)このため、CE稼働の最盛期であるこの月間を通じて、従来の施設運営や運転操作方法等を再点検し、必要な個所は見直して、品質事故防止の取り組みを行うものとする。
(4)また、CEでは近年、乾燥機の火災事故や怪我・人命に関わるような人身事故も発生していることから、併せてその防止対策にも取り組むものとする。
期 間
平成24年8月15日から10月15日までの2カ月間
目 標
(1)品質事故の防止
(2)火災・人身事故防止等、安全な施設運営
具体的な実施内容・取り組み事項
(1)全国農協カントリーエレベーター協議会、全農本所、(財)農業倉庫基金
【1】強化月間に先立ち、取組み強化を図るため県本部・県農協・県連(以下県本部・県連等という)のカントリーエレベーター担当者(指導員含む、以下CE担当者という)を対象にした研修会を行う。
【2】「カントリーエレベーター品質事故防止マニュアル」(以下「品質事故防止マニュアル」という)の見直し作成を行い、施設設置JA、県本部・県連等に配布する。
【3】半乾貯留や貯蔵(保管)時における、サイロ内の穀温チェックを徹底するため、「カントリーエレベーターサイロ管理日誌〈穀温記録表〉」を作成し、配布する。
【4】「カントリーエレベーター品質事故防止カレンダー」(以下「CE業務カレンダー」という)を作成し、配布する。
【5】系統機関誌等を利用して、品質事故等の防止を広報する。
(2)県カントリーエレベーター協議会、県本部・県連等
【1】適時、「品質事故防止マニュアル」および改訂版DVD「カントリーエレベーターの運営体制づくり」「カントリーエレベーターの品質管理対策」等を活用した研修会を実施し、品質事故防止対策を徹底する。
【2】JAに対し、施設毎に「CE運営管理マニュアル」をCE品質事故防止対策を含めた内容で作成・整備または見直しするよう指導するとともに、同マニュアルの内容を確認し、改善すべき箇所等があれば指導する。
【3】JA・CEに対し「CE業務カレンダー」の掲示を促し、運動の広報を行う。
【4】この月間中、CE担当者は、重点的にCE巡回を行い、稼働状況を確認する。
(3)JA
CE設置JAは、次の事項に取り組む。
【1】運営体制の確立
JA役職員、利用組合組織、施設管理者・オペレーター等現場作業者の、三者が一体となったCEの運営体制を確立する。
【2】関係者による事前打合せと意識統一
稼動前に運営委員、生産組織関係者、オペレーター等現場作業者を集め、「品質事故防止マニュアル」や改訂版DVD「カントリーエレベーターの運営体制づくり」等を活用した業務研修会を実施し、また「CE業務カレンダー」を掲示して、互いの意識統一と士気の高揚を図る。
【3】CE運営管理マニュアルの見直し検討
経営者および施設管理者は、各カントリーエレベーターの主任オペレーター等と協議して、施設毎に「CE運営管理マニュアル」の見直し検討を行う。この時、「オペレーターが交代する場合の確実な引継ぎの実施等」について、実施方法も含めて明記し意識統一を図る。未整備の場合は、県本部・県連等とも相談の上、早急に作成する。
【4】施設・機械の清掃および点検整備
稼動に先立ち、機械設備全般および施設内外の清掃を行う。また、機械設備の点検・整備を行う。この時、必要に応じ施設メーカーの協力を受ける。特に乾燥機については、燃焼装置が正常に運転されるよう、専門メーカーに依頼する等、綿密に行う。
【5】計画的な操業
施設能力以上の原料荷受けをしないよう、稼働前に荷受計画を定めて関係者へ周知徹底する。荷受計画作成にあたっては、稼働中の乾燥作業を円滑に進めるため、必ず荷受休止日を設ける。
やむを得ず荷受中止をする場合を想定し、予め運営委員会などにおいて荷受中止を判断する責任者を定めておく。荷受中止または荷受数量の変更を行う時は、この責任者の指示のもと、利用組合や生産者への連絡を徹底する。
【6】品質事故防止のための運転操作・管理等
品質事故防止マニュアル内容を参考に、基本に沿った運転操作を行う。
(※特に注意を要する点)
ビン荷受け時の対応・高堆積を避け、均平状態を保ち、適時のローテーションを実施する。
半乾貯留時の対応・籾水分17%以下、クーリングパスによる穀温低下(25℃以下)、毎日のサイロ穀温チェックを実行し、貯留日数の短縮化を図る。
(注)穀温が25℃以上の時は、半乾貯留をせずに仕上げ乾燥を行う
貯蔵時の対応・乾燥後のクーリングパスによる穀温低下(20℃以下)、貯蔵前のローテーションによる穀温低下、毎日のサイロ穀温チェックを実行する。
(注)貯蔵開始時に穀温が20℃以上の時は、外気温度の低い日や時間帯を利用し、早目のローテーションで穀温低下を図る
適正・安全運転の励行
・毎朝、点呼と作業内容を確認し、安全運転を励行する。
・乾燥機運転中は随時点検見回りを実施する。
・自動運転が可能な機械設備でも、必ずオペレーターが作動状況を確認する。特に乾燥機運転中は無人状態にしてはならない。
【7】労務管理および作業安全の確保
経営者および施設管理者は、オペレーター等現場作業者が期間中に過重労働にならないよう就業体制の整備を行うとともに施設内での身の安全を図るため、災害防止措置をとるなど労務管理に細心の注意を払う。
特に、高所や駆動部周りでの作業、籾殻搬出作業等、危険が予測されるような作業においては、その施設に応じた作業マニュアルを作成し、事故防止につとめる。
オペレーター等現場作業者は災害防止措置を遵守して身の安全を図る。
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