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EU離脱、トランプ現象、そしてTPP2016年6月27日

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【森島 賢】

 先週の23日に、いよいよ英国がEUから離脱することになった。衝撃が世界中に広がっている。
 翌日、ロンドンの株式と通貨のポンドが暴落した。株式は9.1%、ポンドは対ドルで11.1%の大暴落だった。日本でも、株式は8.5%、円は対ドルで6.7%の暴落だった。その後、やや回復したが、元に戻ったわけではない。
 この事態は、英国民の無知と排外主義と短慮によるものだ、とする評論が多い。しかし、そうではない。

 英国のEU離脱は、支配層(エスタブリッシュメント)に対する被支配層の反乱である。
 EUは、かつて自由と平等に基づく平和主義の、希望に満ちた地域連合だった。しかし、今は市場原理主義に基づき格差を広げ、支配層の利益を追求するための、支配層の連合になり下がっている。
 英国では、いま、格差が広がり、地方経済が疲弊し、被支配層の困窮が広がっている。それに加えて、支配層は、EUルールという隠れみのの外圧を使い、低賃金労働者として大量の移民を流入させて、利益をむさぼっている。そうして、被支配層の困窮に拍車をかけている。

EU離脱、トランプ現象、そしてTPP
EU離脱、トランプ現象、そしてTPP

 EU離脱の可否を問う国民投票の結果を、上の図と表で、やや詳しくみてみよう。英国からの分離独立問題をかかえるスコットランドと北アイルランドと、支配層が多いロンドンの3地域を除くと、全ての地域で離脱派が圧勝している。
 この3地域を除く得票率をみると、離脱派が55.2%、残留派が44.8%で大差になっている。つまり、独立問題をかかえるスコットランドと北アイルランドを除くと、離脱派は地方の農村や中小都市に多く、残留派はロンドンに多い。

 トランプ現象も、支配層に対する被支配層の反乱である。
 米国のトランプ大統領候補の言動は、全く非人道的で決して許容できない。しかし、なぜ2大政党の1つである共和党の大統領候補になるほどに多くの支持を集めたのか。それは、支配層の市場原理主義政策によって、中間層が被支配層へ転落し、格差が広がることへの拒否である。やがて生活が良くなる、という「滴り落ちる」理論への拒否である。
 かつての資本主義は、農民層や中小企業者層、職人層などの中間層を、資本家階級と労働者階級に分解し尽くそうとした。しかし、彼らの抵抗によって、今でも分解しきれないでいる。そして今は、中間層を支配者と被支配者とに分化させて、格差を広げている。格差は、失業圧力を使い、中間層を低賃金労働者にして、被支配層に陥れた結果である。そうして、1%の支配層と99%の被支配層へ分化した。
 この99%の被支配層のうちの多くは、トランプを味方と思っている。だから、支配層の期待に反して人気は衰えない。
 トランプ候補に対する民主党のクリントン候補は、エスタブリッシメント(支配層)の異臭をあたりに撒き散らしている。だから、その分だけ、さらにトランプの人気を高めている。
 窮した支配層は、ジョンソン元知事を第3の候補者に仕立てて、トランプに投票する票を分散させようとしている。しかし、思惑とは逆に、クリントンの票が分散するかもしれない。吉と出るか、凶と出るか。

 さて、以前は資本家階級と労働者階級の間の緊張関係が、政治を動かす原動力だった。しかし、今は1%の支配層と99%の被支配層の間の緊張関係が政治を、したがって社会を動かしている。支配層の市場原理主義と、被支配層のそれに対する抵抗である。それがEU離脱とトラプ現象の2つに共通して、その基底にある。
 このことを認識できない評論は、浅薄なものになってしまうし、予測を間違ってしまう。評論家は、支配層の立場に立った希望的予測しかできない。

 だから、EU離脱問題のばあい、支配層は、離脱派の勝利を、開票の最終結果が出る直前まで予測できなかった。それどころか、投票当日は、株価も通貨も上がっていた。そして、翌日に急暴落して狼狽した。支配層の希望的予測が間違っていたことに、直前まで気付かなかったのである。それだけに、ショックが大きくなった。
 トランプ現象も、支配者の希望的予測は、間違いを続けている。これまで支配層と、支配層寄りの評論家は、トランプは、やがて人気を失うだろう、と予測していた。今でもそうだ。その理由は、トランプが市場原理主義に抑圧され、格差の拡大で困窮している99%の被支配層から支持されていることを認識できないからだ。
 EU離脱にしても、トランプ現象にしても、それらは国家間の主権問題でもないし、民族間の移民問題でもない。それらは問題の表層にすぎない。表層の深奥に、無国籍の市場原理主義がある。欲に目がくらんでいる市場原理主義者には、それが見えない。
 だから、問題を解決するには、市場原理主義と決別するしかない。解決できなければ、極右勢力が表層だけを扇情的に取り上げて、その勢いを増すかもしれない。

 日本はどうか。日本も英国と米国と同じ状況で、市場原理主義が横行し、格差が拡大している。農政の分野をみてみよう。
 いまの農政の最重要問題は、TPPである。TPPは市場原理主義の申し子である。そのTPPの発効を支配層の財界と政府が企んでいる。
 もしも、TPPを国会が承認して発効すれば、日本に大量の農産物が輸入されて、日本農業を縮小することになる。いますぐには縮小しないだろうが、縮小の方向へ向かって確実に進む。そうして、若い農業者の、将来への希望に満ちた明るい夢を、確実に奪うことになる。大多数の農業者は、働く場を失い、農業からの所得を断たれる。
 これに対する農業者の怒りが、いま農村の地下で、灼熱のマグマのように渦巻いている。そのことを、政府と政府をとり巻く支配層は認識していない。この怒りが、2週間後の参院選で、英国や米国と同じように、噴出することを支配層は予想できていない。
 日本はいま、EU離脱問題やトランプ現象と酷似した状況にある。つまり、支配層の市場原理主義に基づく政策によって格差が拡大している。それに対する被支配層の拒否反応は、農村にもある。このことを政治は、しっかりと認識しなければならない。その上で、市場原理主義を捨てねばならない。
 われわれは、市場原理主義を捨てた後、それに代わるものとして、「1人は万人のために、万人は1人のために」という崇高な協同組合主義を用意している。
(2016.06.27)

(前回 与党化するマスコミ

(前々回 「所得増大」の落とし穴

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