トランプの対日貿易政策は雇用政策だ2017年2月13日
注目の日米首脳会談が終わった。安保問題を主にした会談だったようだ。貿易問題などの経済問題は、新しく「日米経済対話」という枠組みを作り、そこで協議することになった。貿易交渉は、その指揮下で行われる。
トランプ大統領は、以前から米国車が日本で売れないことに、いらだっている。米国は日本車を大量に輸入しているが、日本は米国車を僅かな量しか輸入していない。このことに強い不満を持っていて、不公平だといっている。そのことで、米国の雇用が日本に奪われている、と主張している。つまり、雇用問題を、この問題の焦点に当てている。国益が損なわれている、などという、あいまいな不満ではなく、米国の雇用が奪われているという不満である。
トランプ政治の第1順位の課題は、米国労働者の雇用問題なのである。「アメリカ第1主義」の目的は米国労働者の利益の増大にある、といっている。だから、支配層の期待に反して、被支配層から根強い人気を保っている。それは日本でも同じだ。
日本はこれに反論して、米国車を他国と比べて不当に扱ってはいないし、日本の自動車メーカーは米国に工場を作って、米国の雇用問題に貢献している、と主張している。筋違いの反論である。
ここでは、この自動車問題を主題にするつもりはない。注目したいのは、この会談でトランプが、日本に対して米国産の農産物輸入を、もっと増やせ、という主張をした形跡がなかったことである。
上の表は、日米間の輸出入金額を自動車と農産物について示したものである。
たしかに、トランプがいうように、日本はアメリカへ自動車を大量に輸出している。しかし、アメリカ車の輸入はきわめて少ない。トランプはこの点を指摘して、不公平だ、といっている。
この表で農林水産物の輸出入をみると、自動車と、全く逆である。トランプの論理に従えば、日米2国間の農産物貿易は不公平になる。だが、日本はこの不公平を言い立てない。それどころか、TPPの交渉過程で、アメリカからの米の輸入量を増やす約束をしている。
◇
トランプは、自動車の輸出入の不公平を是正するために、日本との2国間交渉を始めたいと考えている。TPPなどという利害が錯綜する多国間の迂遠な交渉ではなく、膝を交えた2国間交渉だという。そのほうが、交渉が単純になり、軍事力を背景にした剛力なアメリカにとって、有利な交渉ができる、と考えているのだろう。それが「日米経済対話」である。
2国間交渉というのだが、それは、同じ発想で考えると、FTAなどという多品目を同時に対象とする包括的で、したがって迂遠な交渉ではなく、品目ごとの単純な交渉になるのではないか。
多品目の交渉になると、例えば自動車交渉を有利にするために、農産物を犠牲にする、などという複雑な交渉になって、交渉が長引いてしまう。それよりも、自動車は自動車だけの単純な交渉にしたいだろう。そのほうが、劇場的であり、TV向きである。ツイッター向きでもある。
そうなれば、農産物が自動車の犠牲になる、ということはない。しかし、だからといって安心はできない。
◇
新しく作るという「日米経済対話」が曲者である。これが「日米構造協議」の流れを受け継ぐ機関だとすれば、油断はできない。
この機関は、日米軍事同盟の名のもとで、日本の内政に干渉するおそれがある。日米貿易交渉は、この機関の指揮のもとで行われる。
それだけではない。これまでの政府の農業・農協攻撃が、この機関を隠れ蓑にして、あるいは、あからさまに、この機関の指令に従って、今後も強引に続けられるだろう。厳重な警戒が必要である。
そして、農業者と労働者が一体になってTPPを崩壊させたように、この攻撃も結局、農業者と労働者が一体になって跳ね除けるだろう。
(2017.02.13)
(前回 トランプ報道にみる民主主義の危機)
(前々回 トランプの就任演説にみる危うさ)
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