農家の皆さん 今晩は♪2017年3月27日
終戦直後、夕方になると全国でラジオから表題の歌が流れていた。
「農家のみなさん今晩は 一日お仕事 ごくろうさん… ♪♪♪」と続く。農業者の労をねぎらう歌で、「農家へ送る夕べ」という連続番組のオープニングの歌である。
70歳代後半以上の人なら、誰でも聞いていたと思う。夕方まで泥にまみれで遊んでいた子供たちが腹を空かせて家へ帰って、家族皆んなで夕飯を食べていると、この明るい歌が聞こえてくる。そして、こんなに美味しいご飯を作ってくれる農業者の両親や兄姉に感謝する。そして、彼らは誇りをもって、それに応えようとして農業に励む。
これが終戦直後の農村の光景だった。都市でも農業者をねぎらう気持ちは同じだったろう。当時、農業者に感謝する気持ちが社会全体に満ちあふれていた。
農業を尊重する古き良き時代に対する懐旧の念を披瀝しているのではない。今の農業攻撃を憂えているのである。
終戦直後、日本の食糧事情は極めて深刻な状態だった。当時の大蔵大臣(農林大臣ではない)は、このままでは1000万人が餓死する、と公言していた。当時の人口は7000万人だったから、7人に1人が餓死するという勘定になる。
終戦の翌年のメーデーは、食糧メーデーといわれ、全国各地で、米よこせ大会や米よこせデモが行われた。
こうした状況のなかで、全ての日本人が、食糧生産、つまり農業の重要さを身をもって認識した。だから、ラジオもこのような歌を放送して、農業者への激励と感謝の気持を伝えていたのだろう。
しかし、あれから70年しか経っていないいま、当時の食糧危機を、多くの日本人はすっかり忘れたようだ。そうして、政治は農業を目の敵のようにしてを攻撃している。その農業攻撃を少なからぬ日本人は傍観している。
◇
多くの国民は、終戦直後のような食糧危機は、もう二度と来ないだろう、と楽観している。だから、安心して農業攻撃を傍観する。だが、それはノーテンキといってもいいほどの楽観である。ほとんど全ての専門家は、近い将来、地球規模での食糧危機がくることを予想している。
そうなった場合、第1に餓死に直面するのは経済的弱者である。権力側に立つ経済的強者は、なかなか餓死しないだろう。次の事例は、そのことを戯画的に物語っている。
終戦の翌年の食糧メーデーで、次のプラカードを掲げた人がいた。
この人は、名誉毀損罪になりかけたが、結局、免訴になった。そういう事件があった。
◇
ノーテンキな農政は、食糧自給率に関心を持たない。日本が食糧危機になれば、外国から輸入すればいい、と考える。
だが、予想される食糧危機は、地球規模での食糧危機である。だから外国は頼りにできない。各国のまともな政府は、自国の国民への食糧の確保に走るだろう。そのためには、自国での食糧増産に農政の主力を注ぐ。外国のことなど二の次だ。そのことを日本の政治は考えない。
だから日本の政府は、食糧自給率が39%という低さであることに危機感を持たない。39%といっても、これは野菜や果物など、空腹を満たさないものを含んだ数字である。危機感があれば、餓死を免れるための食糧自給率でなければならぬ。それは空腹を満たす穀物の自給率である。それが、いまや29%にまで下がっている。
◇
近年の農業攻撃に対して最も強く批判すべきことは、食糧安保の軽視である。だから、これほど低い食糧自給率を気にしない。それでは国家主権を守れない、という認識がない。
農業者は、自国の国民に食糧を供給することで、食糧安保を磐石にし、国家主権を守ろうとしている。だから農業者は尊敬され、感謝されているのである。それは終戦直後だけでなく、いまも変わらない。
◇
昨日の日本農業新聞が伝えているが、5月9日に大統領選挙が行われる韓国では、農業者や消費者の団体が、食糧安保直接支払制度を要求しているという。それに多くの政党が賛同している。
日本も韓国から学んではどうか。野党はつぎの総選挙で選挙協力をするだけでなく、野党の統一農政を協議し、その主要部分に、食糧安保のための直接支払制度を創設する、という旗を高く掲げたらどうか。そうすれば、全国の農村部での野党統一候補の勝利は間違いないだろう。農業・農協攻撃などは消えてなくなる。
(2017.03.27)
(前回 オランダの総選挙で弱者が勝った)
(前々回 全農株式会社化の謀略)
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