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【小松泰信・地方の眼力】平和・農業は国の礎2017年8月9日

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【小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 72年前の今日8月9日、当コラムの出身地長崎市に原子爆弾が投下された。人類史上実践で使用された最後の核兵器である。未来永劫、最後であり続けることを願うばかりである。

◆アベに引かれて「いつか来た道」

 心療内科医の海原純子氏は、〝8月の記憶〟というタイトルのエッセイで、毎年8月になると決まって、戦争をめぐって母親と論争した経験を語っている(毎日新聞8月6日、日曜くらぶ)。「何故戦争反対ということをはっきり主張できなかったのか」と詰る娘と、「とてもそんなことを言えるような状態ではなかった。大きな流れに巻き込まれたようだった」と答える母との、堂々めぐりである。そして、「そのころから、『大きな流れ』というものに注意を払うようになったが、最近またその『大きな流れ』がじわじわと復活しているように思う。改憲論、共謀罪の成立など政治の問題についてはっきり自分の意見を公の立場で語る人が少ない。...広島、長崎のような悲惨を繰り返さないためには、常に大きな流れに注意深く気を配り、いつでも声をあげられる精神力をつけておくことが必要かもしれない」と、処方箋を書く。
 農民作家の山下惣一氏は、9歳での敗戦経験から、「...国家や社会への不信感が払拭できない」、「...この国は危うい方向に大急ぎで進んでいるように思われてならない。ひと言でいえば、それは戦前への回帰と日本礼賛だ」と言い切る。戦前への回帰、それは安倍首相が願ってやまない〝戦後レジュームからの脱却〟。「戦争をやっている国の国民が幸せであるはずがない。...国家の狂気に国民は反対ができないのである。なにかといえば『非国民』のレッテルを貼られ『治安維持法』違反で逮捕である。...『蟹工船』を書いた小林多喜二は拷問死した。日本はいい国である。この国を悪くしないためにこそ批判もするのだ。『いつか来た道』に迷い込まないように、共にがんばろうぜ!」と、熱いメッセージを送る。タイトルは、〝言うべきときに言っておかねえとな〟(『地上』2017年9月号)。

◆早急に対話路線の総括を

 〝言うべきとき〟のただ中にあるJAグループは、この2年間〝対決から対話へ〟を基本路線としてきた。この路線を主導してきた奥野全中会長は、2年の任期を終えて明日10日に退任する。日本農業新聞(3日)に掲載された退任インタビューには、路線に対する奥野会長自身による評価がなされている。要点は次の2点。
(1)最も印象に残っているのは(規制改革推進会議の急進的な改革提言を受けて)昨年11月21日に開いた与党との対話集会だ。反対集会ではなく、やじも飛ばずに真剣な議論をした。「集会をやらない奥野」と言われたが、あの場面では、それまで政府・与党としっかり話し合いをしながら改革の議論を進めてきたことを、全国の皆さんに認識してほしいという思いがあった。
(2)(対話路線に対しては)評価はいろいろあるだろうが、圧力をかけて政治家を動かす団体だと思われるようなことはやめたかった。だから「対決からは何も生まれないが、対話からは何か生まれる」と言ってきた。自民党の小泉進次郎農林部会長や農水省の奥原正明事務次官、規制改革推進会議農業WGの金丸恭文座長らとも何度も話し合った。反対だけでなく、しっかりと対話をしていくことが今後のJAグループにとって大事だ。
 これらに、本JAcom(7月20日)に掲載されたインタビューから次の点が加えられる。
(3)農水省とも敵対する関係ではなく、ともに日本農業をどうするかが問題ですから、しょっちゅう連絡を取っています。それが官邸にも通じていくと思っています。与党であろうが野党であろうが、やはりわれわれの主張はこうだということをしっかり言っていかないと。
 この自己評価に対する当コラムの感想を示しておく。
 (1)に関しては、複数の出席者から〝覇気が感じられない、お通夜のような集会だった〟という感想が伝わってきた。しっかり話し合った結果があの悪意に満ちた急進的な提言ですか。参加者の多くは、誰に〝やじ〟を飛ばすべきか、戸惑ったのだろう。
 (2)に関しては、政治家も圧力を受けないと動きにくい状況がある。大人しくしていれば、納得したものと受け取られる可能性大。小泉、奥原、金丸、3氏との対話の成果は何だったのか。退任することなく11日以降も全中の中枢に籍を置くことが予想される対話路線の実践者たちには、きっちりとした総括を求めたい。
 (3)に関しては、「しょっちゅう連絡を取っている」とのことであるが、農水省の役人は、事務次官のご意向か、全中に対しても都道府県中央会に対しても冷ややかな対応とのこと。無視、蚊帳の外状態という不満や怒りの声が届いてくる。幻聴ではない。
 総括次第では、対話ではなく〝怠話〟の〝失われた2年間〟でしかなかった、というそしりは免れない。

◆会話すらできない現政権との対話は不可能

 8日の毎日新聞は、今回の内閣改造で農水大臣となった齋藤健氏がJA全中を訪問し、JAグループ代表と会談したことを伝えている。「就任直後の農相がJA首脳を訪ねるのは異例」とのこと。中家次期会長が「政権の改革に距離を置く慎重派とみられており、自ら出向くことで話し合いを重ねていく姿勢を示した」と、異例の行動の含意を教えている。「安倍政権が進める農業・農協改革への協力を呼び掛けた」とのことだが、要は安倍政権における苛政が継続することをわざわざ伝えに来た、ということである。
 最初から喧嘩腰の対決姿勢を示す必要はないが、内閣支持率低下に慌てて柄にもなく低姿勢を演じる首相の意向を忖度してのパフォーマンス訪問と見ておくべきであろう。これまで以上に鞭が入れられようとする今、現政権との対話は不可能と認識すべきである。改革ありきの聞く耳を持たない連中とは、対話以前に会話そのものが成立しない。国民をなめきった〝菅語〟はその典型例。

◆対話すべき相手 -めざせ! 共協戦線の構築と農民連との連帯-

 全中幹部からも日本共産党幹部からも、農協とりわけ全中つぶしは、JAグループが日本共産党と連携してTPP反対運動をしたことに政権首脳が激怒してのもの、という見解を聞いた。だとすれば、政党レベルでまず対話すべき相手は、組織的にも、国会論戦においても、最も安定感があり、綱領に「国の産業政策のなかで、農業を基幹的な生産部門として位置づける」と、明記している日本共産党である。対話では、「日本共産党の農業再生産プラン」をベースに農業・農協政策を検討し、共協戦線の構築に一歩踏み出すべきである。
 現場レベルでは、農民連(農民運動全国連合会)との対話である。当コラムは、3、4の両日に開催された「農民連専従者・役員研修会」で記念講演をするとともに、全スケジュールに参加した。初体験であったが、農業や農村に対する熱い思いがあふれる感動的な二日間であった。JAグループの集まりではなかなか味わえない雰囲気があり、〝体話〟のできる組織と見た。JAグループと農民連が同じ苦しみを克服すべく共闘すれば、かなりのことができる。なお今回のタイトルは、同連の幟からである。
 「地方の眼力」なめんなよ

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