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吉本隆明のドグマ的な日本農業論2017年8月21日

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【森島 賢】

 詩人であり思想家でもある吉本隆明氏の日本農業論を取り上げよう。同氏は筆者も尊敬していた思想家ではあるが、日本農業論には賛成できない。
 同氏の日本農業論を取り上げたのは、やや古いものだが、いまでも多くの、いわゆる識者が、この農業論に親近感を持っているからである。規制改革推進会議の面々も、この考えに近い。
 その主旨の1つは、日本農業が縮小するのは避けられないというものである。それは人間が逆らうことのできない自然の必然だ、とさえいっている。
 もう1つは、株式会社にも農地の所有を認めて、経営規模を拡大し、機械化して、生産性を高めるべきだ、というものである。
 ともに、現実を見ないドグマ的暴論というべきものである。

 経済が発展するにつれて、経済全体のなかで、工業やサービス業の部門が拡大し、農業が縮小することは、世界の各国で見られることである。日本もその例外ではない。このことには同意しよう。しかし、日本農業の縮小の最大の原因は、この点にはない。
 最大の原因は、食糧の国内自給率の低下にある。そして、いまや38%にまで下がっている。これは先進国のなかで異常に低い水準である。もしも先進国なみの80%程度に戻せば、日本の農業は縮小するどころか2倍に拡大する。
 日本農業の縮小の最大の原因である自給率の低下は、これまでの貿易政策という人為の結果であって、自然の必然にしたがった結果ではないのである。
 同氏はこの事実を見ていない。そうして原理主義的なドグマに囚われている。

 自給率について、同氏は、日本のような耕地の狭い国では、自給率100%の完全自給は無理だという。それを根拠にして、自給率ゼロの完全輸入依存に誘導している。これは、現実をみない極論であり、巧みな論点のすりかえであり、非生産的な挑発である。
 筆者も、自給率を100%にせよ、と主張している訳ではない。政府の国際的な主張である食糧安全保障の確保と、各国の多様な農業の共存に賛同している。だから、いまの38%の自給率では全く不十分である。それゆえ、自給率向上のための政策への強力な転換を主張している。
 それは、具体的には、国内では、米を家畜の飼料に利用することなどへの強力な支援によって、自給率を向上させる政策の主張である。そして国際的には、日欧EPAやTPP復活などによって、農業を犠牲にし、自給率を低下させる自由貿易体制の拡大策や強化策への反対である。
 こうした政策をとれば、日本農業は縮小するどころか拡大する。
 このことを、同氏は見ていない。そうして、自給か輸入か、という不毛な極論へ導いている。

 つぎに、大規模機械化農業論をみてみよう。たしかにそれは急務である。そのことに反対はしない。しかし、そのために株式会社に農地の所有権を認めることに反対する。
 株式会社の目的は、利潤の追求にある。そのためには、あらゆる手段を使う。環境の破壊などは意に介しないし、景観などどうなってもいい、と考える。
 所有権とは絶対的な支配権である。だから、支配の方法を規制するといっても限界がある。
 しかも近年の株式会社は、短期的な利潤の追求を目的にしている。当初は利潤を得られるかもしれない。しかし得られなくなれば、ただちに撤退する。雇用者はただちに解雇されるし、残された農地は荒れ地になる。産業廃棄物の捨て場になることもある。山林がそうなった実例は、全国の各地にある。

 株式会社を排除しさえすればいい、というわけでもない。同氏は思想家といわれているのだから、生産の効率だけを考えるのではだめだ。大規模機械化農業によって、農業という生産活動を奪われる人たち、ことに高齢な人たちが、それ以後どのように生きるか、という農村社会の全体像を示さねばならない。
 この社会的、歴史的な大問題について、同氏は何も語っていない。これも自然法則と考えているのだろうか。
 いまは亡き同氏の日本農業論に賛成だ、という識者がいるなら、同氏に代わってこの問題に答えてもらいたい。
 筆者の回答は、農地の協同組合的所有に基づく協同組合的農業の展開である。それに加えて、農村に潜在する膨大な自然エネルギー資源を利用するための、協同組合的農村雇用の拡大である。エネルギー自給率は、現在の6%から飛躍的に向上するだろう。
(2017.08.21)

(前回 加計問題追及の目的は一強政治の打破

(前々回 悪夢の防空訓練ふたたび

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