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コメで南北戦争か2017年12月25日

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【森島 賢】

 北の大地、北海道は18日、2018年産米の増産を決めた。農協や行政で作った協議会が決めたことだ。
 18年から政府は、国民の主食であり、農業の基礎である米の需給の責任を放棄する。これは、政治が農業を壊滅させることであり、政治が食糧安保を放棄することである。そして、これは市場原理主義者が考えたことである。とうてい容認できない。
 それに対応した大きな動きが、こんど北海道で決めた米の増産である。
 米増産の動きは、今後、全国の各地へ広がるだろう。もしも各地で増産すれば、米が過剰になり米価が暴落する。米価が暴落すれば、翌年は各地で稲作放棄が始まり、米が不足して米価が暴騰する。こうした暴騰、暴落をくり返しながら、米生産は、したがって農業は、ますます衰弱し、食糧安保は、ますます危うくなるだろう。
 食糧安保を堅持する責任は政治にある。農業の衰退を食い止める責任は政治にある。だから、こうした事態に陥ることを阻止する責任は政治にある。こうした事態に陥らせようとする市場原理主義を政治から排除しなければならない。そうして、政治の責任を回復しなければならない。
 今後の米政策をどうするか。来年に向けて、いま、米政策は大きな歴史的岐路に立っている。

生産費(60kg当たり、2015年産)の比較(正義派の農政論)

 上の表は、北の北海道と南の都府県の米の生産費を比較したものである。ここには大きな開きがある。道産米は都府県産米と比べて24.5%安い。
 その理由は、北海道の農業者は勤勉で、都府県の農業者は怠惰だからだろうか。そうではない。そうではなくて、北海道は開拓を始めた昔から大規模経営になっていた、という歴史的条件の違いによる。大規模だから、上の表で示したように、労働費も安いし、機械関係費も安い。

 南の都府県の農業も、北の北海道の農業のように大規模経営にして生産費を下げよ、という主張がある。
 しかし、それには長い年月をかけた歴史的経過が必要になる。それは、食糧安保の確保を、つまり食糧自給率の回復を必須条件にしながら、日本全体の就業構造を変えることだからであり、日本全体の産業構造を変えることだからである。
 それを瞬時にやってしまえ、というのが市場原理主義者の乱暴な主張である。

 市場原理主義者は上の表をみて、効率の低い都府県の米作りは、やめてしまえという。
 しかし、やめた農業者はどこに新しい雇用をみつければいいのか。そうした経済的弱者の苦悩は考えない。また、道産米だけで不足すれば、輸入すればいい、と考える。食糧安保などは、彼らの頭の片隅にもない。
 効率さえよくすればいい。あとは野となれ山となれ、というのが市場原理主義である。
 財界の一部の経済的強者は、こうした市場原理主義を主張している。そして、多くのマスコミは、彼らの意向を忖度し、追随している。

 振り返ると、50年前に北の北海道と南の都府県の間に、牛乳の南北戦争といわれた争いがあった。鉄砲を持ち出して火を吹くことは、勿論なかったが、火を吹くような熱い協議が続いた。
 それまで北海道の牛乳は、バターやチーズなどの加工用で売っていた。加工用だから価格は安いが、経営規模が大きく、生産費が安いので、止むを得ず安い価格に耐えていた。これを都府県に飲用として移出しようと考えた。飲用で売れば高い価格で売れるからである。そうした需要条件と、保冷技術的、輸送技術的条件が整ってきた。
 しかし、そうなれば都府県に北海道の格段に安い価格の牛乳が大量に入る。その結果、都府県の酪農は壊滅状態になる。そこで両者の協議が始まった。だが両者とも妥協できなかった。
 結局、この協議は政治が解決した。つまり、北海道と都府県の、したがって、全国の生産者が心を合わせ、一体になって政治に対して問題の解決を要求した。
 要求の目的は、北海道がこれまで通り、加工乳の生産に専念できるようにすることだった。そのために、加工乳を対象にした不足払い制度を新しく作ることだった。そして、政治は、この要求に応えた。

 こんどの米でも、このままでは南北戦争になりかねない。道と都府県だけの協議では解決できないだろう。政治の出番である。政治に対して、全国の農業者が心を合わせ、一致して政策を要求するだろう。
 要求の内容は、全国の農協が中心になって、固めることになるだろう。そうすれば、政治を動かすことができる。
 食糧安保と農業振興の旗を高く掲げ、野党は勿論、与党の一部も含め、国民の先頭に立って要求すれば、政治を大きく動かすことができる。
 野党の中で、政治信条が違うから一緒に要求はできない、などという政党があれば、その政党は国民から見放されるだろう。食糧安保と農業振興の点で一致するなら、政治信条が違っても協力しあえばいいのだ。

 要求する政策の内容は、法律に基づく飼料米や米粉米に対する政治の支援が中核になるだろう。それを中核にした生産費補償制度の復活と法制化だろう。
 こうした要求を受け入れて、政治は食糧安保と農業振興に対する責任を誠実に果たさねばならない。
 新年の大きな農政課題になるだろう。皆さん、良いお年を。
(2017.12.25)

(前回 世論を歪める世論調査

(前々回 卸売市場法は弱者の砦

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