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(070)残る仕事は何か2018年2月16日

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【三石誠司 宮城大学教授】

 近い将来、人工知能(AI)の発達により、人間が行っている仕事の多くが機械により置き換わるであろうとの話が各所で出ている。元々、様々な分野でこうした議論は行われていたが、恐らく大元の1つは2013年9月にオックスフォード大学のカール・B・フレイとマイケル・A・オズボーンが出した、「雇用の将来」であろう(注1)。

 元々の論文は72頁にわたるが、筆者のようなこの分野の素人が一番興味を持つのは、本文よりも附属表である。もちろん、本文自体は重要であるが、それでも日本語・外国語を問わず、言語の解釈にはどうしても一定の幅が生じてしまう。
 その点、そもそもの母集団やデータ処理の妥当性などというテクニカルな部分を別にした場合、最もわかりやすいのが附属表である。ここは数字の羅列だが、それだけにある種の人々にとっては興味深いものがある。
 フレイとオズボーンが、現在、存在している702の職業について、統計データを処理した上で、将来的に残る可能性が高いものから順番に並べたところどうなったか。多くのメディアでは、「10年後になくなる職業」というような形の特集が組まれ、そのランキングが簡単な表として掲載されたため、目にした人も多いはずだ。
 簡単に言えば、今後、運送や物流に関する仕事、サービス関係など、多くの仕事が自動化されるようになり、現在「仕事」と考えられているもののうち約半分がAIにより執り行われるようになるというものだ。

  ※  ※  ※

 さて、筆者の興味は極めて世俗的であり、「なくなる仕事ベスト10」、「残る仕事ベスト10」のようなものではない。現在の自分は大学教員であり、社会科学(経営学)を専門としているが、自分の仕事は第何位かという単純なものだ。多くのメディアは上位10~20位のみを伝えてはくれるが、実際の自分の仕事についてはあてはまらない人が多い。
 附属表を見ると、社会科学者(Social Scientist and Related Worker, All Other: 社会科学者および関連労働者、その他全て)は、702の職種の中で上位127位になる。そして、1つ上の126位にはクレジット・カウンセラー、1つ下の128位には天文学者が位置している。さて、これをどう解釈するか。
 まず、全体の順位で言えば、127位は上から18%でギリギリ2割に入る。これは良いとも悪いとも言えない。100人中18番と考えれば、まあマシな方かもしれない。
 次に、126位である。クレジットとは信用、借款、という意味であり、カウンセラーは相談員ということになる。クレジット・カウンセラーとは資金が必要なときに相談に乗ってくれる相手のことであろう。大学で経営を教えている身として感じることは、銀行などの融資判断もいずれはほぼ自動化されるのであろうな...という点である。人は重要だが、実際には人を見る前に、現在の財務状況を見て厳しく判断されるのが現実かもしれない。社会科学者の仕事も、アンケート処理など単調作業に逃げ込んでしまえば財務諸表の機械的判断と同じになるということだ。
 「人を見る」ことが出来ないクレジット・カウンセラーが生き残れないのと同様、「社会を見る」ことが出来ない社会科学者は、機械にその仕事を奪われるということになる。

  ※  ※  ※

 128位の天文学者はどうか。経営学に比べれば、学問として遥かに歴史も蓄積もあり、古代文明の頃からの由緒ある学問である天文学も、いまや社会科学者と同じレベルでの生き残り水準かと思うと諸行無常以外の何物でもない。
 高性能機器が発達し、肉眼で見えない遥か彼方の宇宙のことまでディスプレイ上で見ることが可能な現在、天文学者に本当に求められているのは、こうした機器を使いこなし、高度な数学や物理学の知識を元にして画像解析をする以外にどのような能力なのかを考えてみたが、詳細は筆者にはよくわからない。
 もしかすると、「社会を見る」のと同様、単純に「空を見る」ことなのかもしれないなどと、これから社会に出る大学4年生達を見ながら少し感傷的に考えた次第である。
 
注1:原文はこちらで読める。附属表は57頁以下。
Frey and Osborne, "The Future of Employment: How Susceptible are Jobs toComputerisation?", September, 2013. (2018年2月14日確認)

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

三石誠司・宮城大学教授の【グローバルとローカル:世界は今】

 

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