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裁量労働制の破綻2018年3月5日

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【森島 賢】

 安倍晋三首相は、裁量労働制の対象の拡大を、ようやく断念したようだ。6野党の完勝といっていい。つぎの国会で再提案するように言っているが、これは、曳かれ者の小唄として聞き流そう。
 しかし、いわゆる高プロ制法案は、懲りもせずに今国会に提出すると言っている。これは聞き逃すわけにいかない。
 高プロ制法案を断念しない理由として、首相は国会で「連合(労組)の意見も取り入れている」と答弁している。だが、連合といっても、連合の中央機関のことか、地方組織のことなのか。
残念なことに連合労組は、中央機関と地方組織とでは意見が違う。中央機関は財界寄りで、地方組織は反財界である。首相はそこにつけ込んで、労組の分裂をたくらんでいる。
 連合の地方組織には、農協組合員のうち、多くの兼業農業者が属していて、財界から痛めつけられている。だから、農協組合員も黙ってはいられない。

 首相の断念に対して、財界はさっそく、遺憾だとか、残念だ、という批判を浴びせかけた。このことは、裁量労働制が、新しい搾取の制度として、財界から大いに期待されていることを物語っている。
 この制度は、労働者の1時間あたりの賃金を値切るだけでなく、労働者の労働時間を、実際に働いた時間よりも少なく見なして賃金を減らす、という狡猾な新しい制度である。そうして、労働者の取り分を減らし、資本の取り分を増やす。つまり、搾取を強化する。そのための法制度が裁量労働制法案であり、高度プロフェッショナル制度法案、つまり、高プロ制法案である。資本による労働の搾取、という資本の本性に基づき、資本の本性に忠実に従う法案で、だから、労働者にとっての悪法である。



 高プロ制は、ごく一部の労働者だけが対象だという。しかし、それは見え透いた策略である。
 首相は以前から、労働規制の岩盤にドリルで穴を開ける、と息巻いている。だが、ドリルで開けた小さな穴だけで満足するはずもないし、自制するはずもない。ドリルで開けた小さな穴に爆薬を詰め込んで爆発させ、労働規制の、いわゆる岩盤の全体を粉々に破壊しよう、という魂胆である。このことは目に見えている。



 いまの法案では、年収1075万円以上の労働者だけが対象だ、といっているが、経団連の2005年の提言では、400万円以上、つまり年収が平均以上の労働者を対象にする、としている。財界に忠実な首相は、ここまで穴を広げるだろう。
 つまり、ごく一部の労働者だけが高プロ制の対象というのは、当面をしのぐための見え透いた策略である。ドリルで開けた小さい穴である。やがて、半数の労働者を対象にして、事実上の残業代の不払いを、合法化する制度に改悪するに違いない。財界の大きな期待はここにある。



 高プロ制も裁量労働制である。裁量労働制の考えの基礎には成果主義の考えがある。成果主義とは、労働の成果によって、その労働者の賃金の多さを決める、という考えである。人間を労働生産性という一面だけで評価して、評価が低い人間は社会から排除する、という非人間的な考えである。
 つまり、この成果主義の考えは、弱肉強食の考えである。これでは人間性が失われ、人心は荒廃する。社会は崩壊し、ジャングルの掟が支配する。
 この考えに対立するのが努力主義による労働の評価である。これは、多くの努力をして働いた労働者は、たとい働いた成果が少なくても、少ない努力しかしなかった労働者より多くの報酬が得られるべきだ、という考えである。



 協同組合の考えは、努力主義の考えである。「・・・万人は一人のために」である。このスローガンは、一人の生産性の低い、つまり、努力をしても少ない成果しか得られない労働者を切り捨てて、社会から排除するのではなく、たとえば、今までとは違う新しい分野で努力して働いてもらおう、万人がそのことに協力しよう、という考えである。
 農協も協同組合だから、同じ考えである。裁量労働制という成果主義とは、あい容れない。



 政府与党である公明党は、政府の成果主義に同調するのか。それとも成果主義に反対して、努力主義に同調するのか。安保法制や沖縄の選挙で平和主義を捨てた公明党は、こんどは労働法制で、党綱領の冒頭に掲げている人間主義を、かなぐり捨てるのだろうか。
 公明党は、宗教者の集まりらしく、人間を労働生産性という一面だけで評価して、生産性の低い労働者は社会から排除するという非人間的な成果主義に基づく裁量労働制に反対するだろう。そうして、働く努力という全人格的、人間主義的な評価をして、社会に温かく包みこむ、という努力主義に基づく労働制に賛成するだろう。そうすれば、労組員や農協などの協同組合員をはじめ、多くの国民から共感を得られるだろう。



 最後に、なぜ首相は裁量労働制の対象の拡大を断念したのか、を考えよう。
 首相は法案の説明で、つじつまが合わなくなって、立ち往生して断念したのか。その通りだが、それは何故か。この法案は、本来つじつまが合わないのだ。どんなに繕っても、成果主義の本性から発生する非人間的な異臭は隠せないのだ。成果主義は芯から腐っているからである。
 では、首相は成果主義を本当に捨てたのか。そうではない。捨てたように見せかけているだけだ。だから、つぎの国会で再提案するつもりだし、高プロ制にこだわっている。



 断念したもう1つの、そして最大の理由は、首相が労働者の反撃を怖れているからである。労働者の利害を代弁する立憲、希望、共産、社民の4党は、昨年の総選挙の比例区で2611万票を集めたのに、自民党は1856万票しか集められなかった。
 この2611万人が結集すれば、安倍1強政治を打破することは簡単である。それを首相は怖れているのである。
 だから、首相に本当に断念してもらうには、2611万人が、その政治力を結集すればいいのだ。
(2018.03.05)

(前回 労働法制改悪反対の現場集会を

(前々回 野菜需給の硬直性

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