【森島 賢・正義派の農政論】公明党の大選挙区制が政治を刷新する2018年7月17日
公明党が、先月末に参議院の選挙制度を抜本的に見直し、大選挙区制にする案を決めて、国会に提出した。しかし、参議院での多数の反対で否決された。
この案が国会で可決されれば、自民党は参議院で得られる議席が、全議席の3分の1程度に激減するだろう。これまでの安倍一強政治は、間違いなく終焉を迎える。そうして、いまの弛緩した政治に活が入り、日本の民主主義が再び生き返るだろう。
各党は、安倍一強政治に危機感をもって、公明党のこの提案を、今後、真摯に検討すべきである。
公明党の、この提案は、参議院の定員の242人は現在のままにして、全国を11の大選挙区にする、というものである。選挙区の区割りは、衆議院の比例区の区割りと同じで、各選挙区の定員は、人口に比例して割り振るという。
以下の試算は、選挙区ごとの政党支持率を、最近の国政選挙である昨年10月22日の衆議院での比例区ごとの政党支持率と同じ、と仮定した。また、各党の候補者は、1人勝ちにもならず、共倒れにもならないことを想定した。その結果が下の図である。
上の図が公明党の大選挙区制案による筆者の試算の結果である。各選挙区の定員は、今年1月1日の人口に比例して割り振った。その結果、1票の格差は、1対1.08にまで縮小する。つまり、1票の格差は、ほとんど解消できる。
この結果を集計して、現在と比較したものが、下の円グラフである。
左の円グラフは、現在の各党の議席数である。「自民」だけで全議席の半数を超えている。「公明」を加えた「自公」の与党では、全議席の62%になって、3分の2に迫っている。
右の円グラフは、公明党の大選挙区制案による筆者の試算の集計結果である。これを現状と比べると、「自民」は125議席から88議席に、つまり、全議席の約3分の1に激減する。「公明」は25議席から29議席に増えるが、「自民」に「公明」を加えた与党の議席数は、全議席の半数を割る。
一方、野党全体でみると、現在は92議席しかないが、試算の結果では125議席に増えて、半数を超える。
このように、政党別の議席配分が大きく変わる理由は、現在の大政党に有利な小選挙区制を主にした選挙制度から、大選挙区制に変えることを想定した試算だからである。
◇
では、現状の小選挙区制を主にした制度による議席配分と、大選挙区制による試算結果の議席配分とでは、どちらが世論を忠実に反映しているか。もちろん大選挙区制のほうが世論を忠実に反映している。ここには議論の余地はない。
両者の間に大きな違いがあえるのは、いまの選挙制度が世論を忠実に反映する制度、つまり民主制から大きく乖離していることを意味している。その結果、いまの政治が民主政治から遠く離れ、独裁政治に近くなっている。
いまの安倍一強政治がはびこっている根本的な原因は、小選挙区制を主にした、いまの選挙制度にある。この原因を断ち切ろうとするのが、公明党の大選挙区制なのである。
◇
安倍一強政治は、モリ・カケ問題に象徴される弛緩した政治を生み出した。官僚の忖度がはびこり、その責任を取ろうとする政治家が1人もいない。そういう異常な政治を生み出している。
この事態を「自民」は、どうみているか。
いまや、「自民」はイエスマンばかりで、改革しようとする人はいない。改革者は迫害を受ける。つまり、改革者は、次の選挙で公認されなくなる。公認されなければ、小選挙区制だから落選する。刺客が放たれることさえある。
そういう恐怖政治が、党内で行われている。
そうして、当選したイエスマンを首相官邸に集め、強大な権力を与えて、政治を壟断している。いわゆる官邸政治である。農業者も甚大な被害を受けている。
◇
これに対して、野党はどうか。
政府・与党を攻撃はするが、一向に効き目がない。野党が非力だからである。野党は、攻撃を強めて衆議院を解散して総選挙に追い込もう、という意気込みがない。総選挙をしても、政権を奪取できる自信がないからだろう。
野党に自信がない理由は、安倍一強政治に対する反対世論が弱いからではない。反対世論は強いが、いまの四分五裂の野党の状態では、総選挙で勝つ自信が持てないからだろう。
それに加えて、小政党に不利な、いまの小選挙区制のもとでは、政権奪取は、とうてい無理だ、と考えているからだろう。
◇
このさい野党は、2大政党による政権交代という幻想は捨てるべきだろう。実際に、2大政党制になっていない。自民の一党独裁が長く続いている。そして、それが政治の沈滞を招いている。
その根本原因は、小選挙区制にある。だから、2大政党を目指すための小選挙区制は止めるべきである。
ここにメスを入れようとするのが、公明党の大選挙区制の提案なのである。日本の政治史に残る重大な提案である。
大選挙区制にすれば、各党の間の開かれた議論が活発になるし、党内での議論も盛んになるだろう。
それを目指して、各党は公明党の大選挙区制案を真摯に検討しなければならない。そうして、緊張感のない、弛緩した政治に活を入れねばならない。
(2018.07.17)
(前回 資本のための原発の安全性)
(前々回 国民民主党の醜い媚態)
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