【森島 賢・正義派の農政論】日欧EPAは世界の潮流に逆行する2018年7月23日
安倍晋三首相は17日、日欧EPAに署名した。さっそく財界は歓迎の意を表した。世界のGDPの3割を占める巨大な経済圏が出来る、というわけである。
しかしそれは、世界の7割を仲間はずれにし、敵に回す、ということである。世界経済のブロック化と敵対化、それによる世界大戦への突入、という戦前の失敗を、好戦的な安倍首相と軍産複合体を中核にする財界は、すっかり忘れたようだ。
7割を敵にしたくないのなら、主要国のほとんど全てが加入しているWTOの場を利用し、みんなで仲良く協議をすればいいのだ。
それだけではない。いま世界を見渡すと、EPAなどの自由貿易体制は、経済的弱者にとって、怨嗟の的になっている。
わが国でみると、自由貿易体制から受けた最大の被害者は農業者であり、食糧主権を重視する国民である。
いま世界は、自由主義経済に反対する潮流が滔々と力強く流れている。その国際版が、自由貿易体制に反対する流れである。
一昨年の英国のEU離脱から始まり、昨年の米国でのトランプ大統領の誕生を経て、いま、欧州各国でEU離脱への動きが表面化している。このように、世界は、自由主義経済に反対という潮流が大きく流れ出している。
この流れは、世界の各地の経済的弱者から湧き出たものである。彼らは、自由主義経済体制と、その国際版である自由貿易体制の必然的な結果である格差に苦吟している。そうした彼らが源流になって作り出したものである。
つまり、源流は一か所ではない。世界の各地が源流になっていて、そこから沸々と湧き出している。そして、それらが合流して大きな潮流になって、滔々と流れている。だから、この潮流を押し止めることは、誰しも出来ない。
◇
トランプ大統領は、貿易赤字を問題にしていて分かり易いが、しかし、それは問題の表層にすぎない。深層には自由貿易体制を原因とする雇用の減退がある。その結果、多くの中間層が雪崩を打って貧困層に転落している。そうして格差を拡大している。
だから、貧困層や中間下層のトランプ大統領への支持は根強い。その一方で、自由経済を推進してきた支配層である上層部も黙ってはいない。共和党か民主党かの違いを越えた支配層は反対である。支配側に立つマスコミも、こぞって反対の論説を、執拗に掲げている。両者は激流のなかで、互いに競い合っている。そうして世界を動かしている。
◇
いったい、自由貿易はいいものか。
自由貿易はいいものだ。しかし、いまの自由貿易には問題がある、などという、いいかげんな俗論がある。自由貿易を原理的に肯定する主張である。この主張は、格差の拡大が自由貿易に根ざしたものであることを否定している。さすがに、格差の拡大を肯定はしない。
この主張に対峙する主張は、自由貿易を原理的に否定するものである。自由貿易は格差の拡大を必然にする、という主張である。そのことは現実が証明している。つまり、自由貿易を採るか、格差の拡大を採るか、の二者択一の選択しかないのである。
もしも、自由貿易のもとでも格差を縮小できるというのなら、理論家は、それを論証してもらいたい。反例を1つ紹介するだけでもいい。
農産物貿易でいえば、格差の拡大だけではない。食糧主権の侵害という、もう一つの問題がある。この点からみても、自由貿易は原理的に否定すべきものである。大部分の農業者は、いまの苦境が、自由貿易体制を推進するために、農業を限りなく縮小し、食糧主権を放棄する政策に原因していることを、身をもって体感している
◇
だからといって、農産物の貿易を全面的に否定するものではない。外国で、美味で安価な農産物が生産できたら、公正な価格で、おすそ分けしてもらえばいい。
しかし、そのことで国内の食糧自給率が、危機的水準にまで下がり、食糧安保が不安になって、食糧主権が侵されるような事態になることは、互いに避けねばならない。
日欧EPAは、まさにそれと逆の方向へ向かっている。いまでも危機的な水準にある食糧自給率を、さらに下げようとしている。
◇
日欧EPAに反対するのなら、「EPAはいいことだが......」などという中途半端で姑息な反対ではなく、EPAなどの自由貿易体制に対して原理的に反対しなければならない。トランプ大統領に見習って、胸を張って堂々と主張すればいい。
このことを、野党だけでなく、与党の心ある諸氏が主張すれば、弱者から大きな拍手喝采が得られるに違いない。
(2018.07.23)
(前回 公明党の大選挙区制が政治を刷新する)
(前々回 資本のための原発の安全性)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日
-
厚木・世田谷・北海道オホーツクの3キャンパスで収穫祭を開催 東京農大2024年11月22日
-
大気中の窒素を植物に有効利用 バイオスティミュラント「エヌキャッチ」新発売 ファイトクローム2024年11月22日
-
融雪剤・沿岸地域の潮風に高い洗浄効果「MUFB温水洗浄機」網走バスに導入 丸山製作所2024年11月22日
-
農薬散布を効率化 最新ドローンなど無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2024年11月22日
-
能登半島地震緊急支援募金で中間報告 生産者や支援者が現状を紹介 パルシステム連合会2024年11月22日