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【リレー談話室・JAの現場から】組合員と顧客との違い 非効率は強み2018年11月5日

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【日本協同組合連携機構企画総務部長・藤井晶啓】

◆事業改革の基点は組合員に

 組合員と顧客の違いに焦点をあてることは、自分の農協の存在意義の確認になり今後の事業改革の基点となる。
 世知辛い世の中で暮らし、農を営む組合員の悩みは深い。その悩みに寄り添い、自分たちの協同の力でより良い社会をめざすことは共通の願いだ。円安で他国に買い負けするなかで、人が健康に生きるための安全な食べ物をどう確保するのか。また、地方で農業が果たす役割は経済的、社会的、文化的にも大きい。農協がそういうコミュニティの中核として組合員から認識されれば、組合員は単なる顧客ではないはずだ。

 

◆環境変化としての人口減少

 ある農協中央会の研修所で、上級管理職をめざす資格認証試験対策として事業論を講義する機会を得た。
 前半は事業環境の変化を取り上げた。日本は貿易立国でもなく投資で稼ぐ国になった。異次元緩和によって円安が定着した。エンゲル係数は増加に転じ、非正規が増加し所得格差は拡大している。強調したのは、人口減少は飢饉や世界大戦に比べようがなく長く深い構造変化という点だ。かつ、農協の事業は産業組合の時から人口増加期に成功した。その規模の経済に頼った協同のメリットが通用しない時代になった、ということだ。

 

◆護送船団方式は通用しない

 人口減少は日本人が誰も経験していない変化だから、かつての護送船団方式は通用しない。農協のシェアは貯金、共済ともに8%台にすぎない。だから、改めて自農協の存在意義は何か、なぜ農協が食と農を基軸に地域社会に根ざそうとするのか、事業を通じて何をめざすのか。どこに強みがあるのか、現場管理職に改めて考えてもらうため、青臭くとも組合員と顧客の違いを後段の講義の中心においた。

 

◆"三位一体性"と組合員組織

 組合員と顧客の違いは、協同組合の特徴が三位一体性にあることに尽きる。組合員は出資者であり、事業利用者であり、運営参画者だ。だから、顧客は事業利用者であってもあとの二つの役割はない。准組合員に共益権はなくてもさまざまな組合員組織等を通じて農協運営に参画する道はある。われわれの参加・参画の基本は組合員組織だ。これも企業との1対1の関係が基本である顧客と違う。
 ただし、株式会社でも顧客の参加を促すマーケティングが拡大している。しかし、株式会社のゴールが株主への配当還元・収益確保であり、売るための手段として参加を使っている点が協同組合とは違う。
 協同組合は、共通して必要とするものや強い願いを協同することで満たすことを目的とする。協同するから事業を営む。かつてその事業が求められた環境が存在した。その環境が大きく変化した。
 事業で利益を上げることは大事であるが、農協が事業を行うのはその事業が儲かるからではなく、その事業によって組合員の問題解決、課題達成につながるからだ。環境変化に応じて事業の内容・やり方など変えるべきことは多い。

 

◆組合員満足は自分の満足?

 明治大学の日向祥子准教授は「組合員の満足を追求するということは、三位一体の観点からは組合員が『自分の満足をもっと追求せよ』と言うようなもの」と指摘する。その通りであり、そこに組合員と顧客との違いはない。
 無論、世代交代により自分を「農協の顧客」と考えている第二世代にお客扱いもしなければ脱退するだけだ。だからCSを不要とはいわない。そのうえでCSの先に新たな世代の組合員が農協運動に参加・参画する関係をどう築くのか、が問われている。組合員は出資者なのだから、アマゾンや楽天とは違う価値が農協にはあるはずだ。

 

◆非効率だから価値が高い

 我々はさまざまな組合員組織を通じて、共通の問題をあぶりだし参加による課題達成をめざしてきた。今でも年金友の会は急速に広がっている。ただし年金の顧客としての扱いに終始していないか懸念もある。
 組合員の参加・参画を通じた意思決定は非効率だ。しかし、非効率だから自分達で決めたというコミットメントになる。話し合う過程から農協らしい信頼という目に見えない強みが生まれる。そこには前回述べた対話が欠かせない。

 

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