【森島 賢・正義派の農政論】全共闘世代の退場による高齢化の危機2018年12月3日
高齢化の危機が叫ばれている。高齢化によって医療費や介護費がかさむ、という点にばかり目を向けている。それによって、財政が破綻するという。
だが、高齢化の真の危機は、この点ではない。この危機を乗り切るための、抜本的な政策の変更を要求する運動の不在である。
その運動の主体になるべき者は若者である。しかし、若者、ことに全共闘以後の世代には、その覚悟がないようだ。そうして、この世代が、これからの日本の命運を決めることになる。
ここに、高齢化の真の危機がある。
上の図は、日本の人口ピラミッドである。少子高齢化で、とうていピラミッドの形には見えない。今後はやせ衰えていく。
上の赤い部分は、全共闘の運動が盛んだった1970年以前に20才の成人になった人たち、つまり1950年以前に生まれた人たちである。この世代が退場しようとしている。
下の青い部分は、1951年以後に生まれた全共闘以後の世代である。この世代が、今後、日本の人口の大部分を占めることになる。
問題は、この全共闘以後の世代の、社会的な不正義に対する無関心である。そして、保守化である。
◇
保守とは、古き良き文化を守るなどという、うじゃじゃげたことではない。現在の政治体制と、その基盤である経済体制の骨格を、今のままに守ることである。出来ることなら、経済的弱者にとって暗黒の、古い時代に戻したいと考えている。これが保守である。ここには、現在の体制を革新する、という考えは全くない。
そして、野党第1党と第2党の代表はともに全共闘以後の世代だが、自分は保守だ、と公言している。連合労組は保守の自民党への政治献金を始めるようだ。
◇
テレビなどを見ていると、世界の各地で反体制運動が頻発して、抗議活動が行われているが、そこで先頭に立っているのは、どこでも若者である。
米国などでは、こんどの中間選挙で示されたように、いまの体制に反対する若者が、中心になって、反体制の候補者を支援した。それは共和党、民主党の枠を越えていた。そうして、いまの最重要問題の格差問題を、真正面から取り上げていた。民主社会主義者を自称する若い候補者や支援者も少なくなかった。
◇
一方、日本をみると、反体制の運動はあるが、その参加者は、高齢者が多い。つまり、全共闘以前の世代が多い。
全共闘以後の若者たちは、いまの体制に満足しているのだろうか。いまの体制が作り上げた最重要問題である格差問題を、どのように考えているのだろうか。
いまの若者は、体制側のいうことを従順に聞いていれば、いいことがある、とでも考えているのではないか。
そうならないことは、全共闘以前の人たちは、よく知っている。労働者に対して低賃金を強制し、農業者に対して低所得を押し付けようとする体制に、断固として反対したからこそ、格差のない一億総中流といわれる社会を作り上げることができた。
その運動の中心部には、正義感に熱く燃えた若い労働者と若い農業者がいた。そして、若い学生たちが、熱烈に支援した。また、高齢者も熱い共感を示していた。
◇
それと引き比べて、全共闘以後の若い世代はどうか。
彼らは、いまの体制に頼っていれば、官製春闘とやらで、僅かばかりだが賃金は上がる。最低賃金も雀の涙ほどは上がる。非正規労働でも、何とか食っていける。そのように考えているのではないか。だから、反体制運動は起こらない。
全共闘以前の世代は、そうではなかった。
彼らは、体制の根本を揺るがすような春闘で賃金を上げた。そうして雇用条件を改善した。農業者には、農民春闘といわれるもので所得を上げた。
◇
このままで、全共闘以後の世代が現体制を保守したらどうなるだろうか。格差が拡大し続けるだろう。
非正規雇用は拡大し、最低賃金は据え置かれ、雇用条件はますます悪化するだろう。消費税は20%とか30%を超え、その一方で、0%を目指した企業減税が行われる。
また、医療費の自己負担率は上がり、受診抑制で国民皆保険は名ばかりになる。生活保護は切り捨てられる。その結果、格差は際限なく拡大する。高等教育を受けられる人は、昔のように5%程度の富裕層に限られる。
その一方で、軍事予算は止めどもなく膨れ上がる。そうして、日本の全土を日米合同軍のアジアへの出撃基地にする。また、危険な原発への依存を高める。さらに、地球温暖化を放置することで、大災害が頻発する。食糧自給も、さらに危うくなる。
こうした事態に陥らないために、いまこそ若い世代が奮起しなければならない。
高齢者の期待は大きい。
(2018.12.03)
(前回 農業者所得の増大を掲げる次元)
(前々回 外国人労働者の受け入れで賃金が下る)
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